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毒は外、蜜は内。  作者: 酒場のあの人
本編 一章
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閑話②空視点

「ほら、出来たよ」


 目の前には、熱によって旨味の汁がジュワッと溢れた熱々に焼かれた肉が鉄板に乗り、食欲を誘う美味そうな匂いを漂わせている。味付けは粉末になったハーブと(シルト)のみだが、本来の肉の甘みがはっきりするくらいが俺の好みだ。

 ――肉に対して、無駄に鉄板とフォークがデカイけれども。まぁ、それは借りる分では文句は言えない。仕方ないのだろう。


「して、どこまで話したか?」


 巨人とはいえ、幾分か年月を過ごしてきた婆さんを、道端に立たせたままで聞くのは司祭として気遣う必要がある。村長の家に行く必要性は必ずしもでは無い為、次回に繰り越し。ついでに、と婆さんの家にお邪魔し、調理してもらい今に至るわけだ。まだ、何も聞いてはいない。


「力ある者、まで。まぁ、それは想像がつくよ。水の国(パリウ)への道ではなく、この森に足を踏み入れるんだ。つまりは、ギルド員とかその辺だろう?」


 この肉は、何の肉だったのか。聞いておけば良かった。アズールの故郷である砂の国(アラビ)でよく食す、カトブレパスとはまた違う気がする。牛の様な同じ赤身の強い肉だが、牛にしてはハンバーグの様に口の中で溶けてしまう。旨い。


「何と言ってたかの……? そうそう、パテーじゃ」


 それはおそらく、パーティーの事だろうか。外来語に当てはまるそれは、ギルドが出来るまではこの世界で使われてこなかった言葉。最近の人には聞き慣れた言葉であるが、当然あまり人の域に出ない獣人達には浸透していないであろう。

往来、生きる為の最低限な狩りを、村の男達がつるんで周辺を探索する位である。捕れる魔物の食材は地域による為、商人が余り物を買い取り運ぶ事で無駄な命のやり取りが少なくなり、逆に多ければ魔物が危機感を持ち暴れる期間も増えた。……それは今ではもう、過去の話となってしまうのだが。


「そいつらがこの森に頻繁に来るのか?」

「そうじゃ、貴族様だかの"クエスト"という名目でな。幾つもの集団が。別に足を踏み入れる事は悪いことではないが、我らからして二百回前の満月の夜からかの。森の入江からそれは始まった。縁のある者や温厚さに適当な獣人等が、それ迄は森の産物を交換という事で森から都へ届け出ていたが、その時を境に断り始め、人自らが薬草の採取、そしてその域に住まう魔物の討伐を始め、無くなれば奥へと範囲を拡げていった」


――まぁ、よくある事だよなぁ。採り尽くしてしまえばその地には用は無い。必然的に進む事になる。っと、ダメだ。人間の思考ではなく、森の民の気持ちにならなければ。人が踏み入る行動範囲が広くなると。


「縄張り、いや、住処を荒らされるなら撃退する位の力を持つ者は、各族の中でも何人か居るだろう? そりゃ、魔法は使えないが君等には君等の守り切る力はある筈だ」


「最初はもちろんそうしておった。とも言えるが、入江は魔物達のみの域で、我等にはまだ手を出す名分は無かった。各種族の雄達が応戦していたが、数の多いそれは仲間を減らし、長年に渡りじわじわと守りの手を削っていく。応戦すら出来なくなった魔物らは奥へと撤退、とうとう人間と同じく食連鎖をする我らの範囲にまで逃げて来おった。魔物らが居なくなることで、パテーやらの進路がその後、都から最寄りである我ら獣人の人狼(ガルー)族の村へとぶつかった」


 人狼族は獣耳と呼ばれる狼や犬のような耳を持つ、半獣人をこの世界では言う。臭覚に優れ、耳や尾以外の見た目も人と変わり難く偏見も少ない。脚も早い彼等はその力を買われ、都に紛れ込みながらさり気なく森へと貴重な情報を橋渡しをする諜報……スパイの様な一族であった。 その彼らの村に辿り着いたという事は、多くの日を待つことなく人間達が近づいていると森の住民達へ一気に広まる。


 ――知能ある人狼族が容易く奥に進むことを同意しないだろう。警告と供に撤退が善策だが、既にこの目の前で皺を寄せて話す婆さんからは答えは分かる。留まらせる事は出来なかったと考えると、都側からの何かしら名分を盾にされ……いや、弱みを握られた等したのか、もしくは人狼族が狩る人間達に寝返りしたか。前者だとまだ救いがあるが。


「人狼族を退かせたのは、最初に言っていた貴族の"クエスト"、それの内容か?」


「そうじゃ。クエストの内容は"北東の森で生態調査、及びここ数年発生しない魔の期間の原因解析"じゃと。確かに不安を煽っていた魔の期間が息を潜めたかの様に全く無い。しかし、それにしては人間達は明らかに生態系を脅かす行為をしておる。何が生態調査だ。薬草が豊富にあった入江での採取さえも枯れ地にさせたのが何よりも証だ。お主もお主じゃ!! 教会は獣人、いや、司祭様よ、我等との掛け橋では無かったのか!! なぁにを、暢気に肉を焼けと、良くのこのこ出てきおってからに、だいたいな……」


 あーあー。だんだんと矛先が俺に向かってる。徐々に首から上が赤くなりだした婆さんは、口を閉じることなく言葉がつらつらと出てくる。これも小さな婆さんならまだあれだが、巨人だから上からガツガツ怒られる俺は傍から見たら悪戯を見つかった子供か?


 ――俺だって、飛翔(ギルド)を立ち上げた一人の亡き転生者(ハルト)が、ダンジョンで見つけたと言う、今は俺の腕にあるこの仲間の顔が思い浮かんだ不思議な腕輪を頼りに仲間を集めたり。

 立ち寄る先で取り敢えずと視察もして、重要な薬が不足だ人口がどうだの、海の魔獣達が雷が怖いと泣き暴れだしたのを慰めに行ったり。

 王政がやれば良いことを教会から言えるように手回しして、水の国(パリウ)の現王妃と平和な頭の現殿下(前世記憶持ち風帝)の娘が可愛い可愛いと子煩悩な王(亡き前王)のパシリにされてやっと解放されてきた所なのに。

 次は森とギルド――上層部とのいざこざだと? 転生して何一つ楽しんで無い。俺だって転生者なのに。主人公タイプじゃないからか? 最初に拾われたのが爺だからか? いや、爺なのは関係ない。そう、目立つ奴らが俺を巻き込んでいるんだ。


「なんじゃ!! やるのか!!」

「あ、いや、婆さんじゃない」


 思わずそのままの感情で婆さんを見上げてしまった。


「良いかい!? 最初に住処を追われた魔獣等は女子供と戦など出来ぬひ弱な類ばかり。残った者達で静かに多くの数を増やし、この巨人族と竜人族の中間周りで息を潜めておる。加護があるからな。今はオークの奴らがゴブリンと供に奇襲を仕掛けたり、鳥人達が誘導して森の中間で何とか留めておるが、いつまで保つのか。獣人達も不安を煽られ数を増やし、追われた魔獣に住処を分け与えると共に森が狭くなっておる。我等巨人族は良いが、肉食の者達まで食さなくてはならぬ魔獣を目の前に、半分は慈悲の心で逃がしているのだぞ。竜人族の長に会うてみるべきじゃ。戦を仕出かす気でいる若者等を抑える、爺婆(ジジババ)達の気を聞いてくるがいい」


――そう言われると、目の前に何気なく置かれた蒸気の少なくなった肉を食べる気が失せてしまった。いや、申し訳なくなってくるのだ。肉食にベジタリアンになれとは言えない。憤怒(ラス)は普通に投げ渡してきたが知ってるのか? 

 よし、食べ切って、やるしかない。話を聞き回って問題を片付けてしまわなければ。やるなら、ついでに森の鬱憤も晴らし、"俺達"の目標も進む様にしなければ。


 はぁ、アズールには悪いが、まだ今日は帰れそうにないのかも。




 



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