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毒は外、蜜は内。  作者: 酒場のあの人
本編 一章
6/10

閑話①空視点

 地上に居るよりも、随分と星が近くに思える。


 ――これが、この状態(....)で無ければ、きっと感動もあったのだろうか。脇腹が圧迫されて風が次から次へと突き当たる。


「もう少し力を抜いてくれないかな」


 この鋭く太い爪が刺さり、そのまま握り潰されてしまうのでは無いかと、影作る上の巨体にそう声を掛ければ鼻で笑われた気がした。いや、鼻息か。


 同時に翼がバサリと音を立て、下に広がる黒い森の山間にある一つの泉へと急降下していった――



**


 外からバシャバシャと音を立て響く水音に目が覚めた。


「……朝か」


 身体を起こせば、昨晩気まぐれの飛行に付き合い、急降下から疲労困憊。その後、そのまま寝たんだったな。と思い出させる上下黒で組み合わせたいつもの普段着と、壁に乱雑に置いたままのローブ。


「……飯。少し出る」


 ――軽くでも拭いてから行けよ。

 そう言いたくなるほど、赤髪から水が滴り落ちているのも気にせず、葉で包まれた物を外から戻ると同時に、放り投げて来たのを受け止めた。飯だと言うそれは、包を開けると見るからに生肉……。

 ――文化の違いか。


「少ししたら帰るぞ?」

「話は通した」

「おう」


 言葉通り立ち去る背に声をかければ、長に許可は得てあるらしい。

 この洞窟から少し先にある、竜人族の村は仲間意識が強く、許可が無ければ簡単には立ち入れない。奴の発する口数は少ないが、判断力は流石に村の入り口に棲まう番人でもある。正直助かった。

 見渡せば落ち葉なんかも扉が無いため、外から舞い込んできているし、調理道具だとか風呂なんてものもない。


 ――あぁ、腹減ったし……風呂にも入りたい。先に向こうに行くか?


 ローブを掴み、浅いこの洞窟を抜ければすぐ外に出た。

 もうすっかり朝明けという頃合いだ。

 竜人族の村の道とは反対に足を動かし、山の中の小石転がる緩い坂道を下ろうかと考え見下ろした。


 ――面倒だな。

 

「移転」




**




 移転した先は巨人族の村。いや、正しくは門の前。着地の軽い音と共に僅かにバランスが崩れ足元がグラついた。

 巨人の運ぶ積み上げられた薪の上に不時着してしまった様だが……。まぁ、このまま奥に行けば移動の手間も省けるか?


 木の門も、奥に聳え立つ壁の無いただの雨風凌ぐ長屋も、どれも背高く規格外。自分が小さくなった感覚に陥り、少し来なかっただけでも懐かしさを思い出す。此処は俺がこの世界に来て爺に"出会った村"。

 懐にしまってあった手帖のメモには随分と訪れてないと。やる事が多すぎて俺自身はだいぶ来てなかった。水の国(パリウ)の離島にいる爺との約束で、ここ数年は能力(ちから)を使い、酒やら名産品を一纏めにして転送させてはいたのだが。巨人の村人達はその大きな身体ゆえ人の町へ出入りし難い為。

 各地の視察、教会の重要事項連絡係、パリウの国王のパシリ(前年没して解放されつつ)、それに加え仲間の捜索及び説得。あっという間に月日も過ぎる訳だ。


「おやおや、珍しいねぇ。珍しい御人を連れているじゃないか」

「ん?」


 通りすがりの村人婆さんが、知らず俺を乗せた薪を運ぶ男に声をかけ進行が止まった。

 

「お?」

「失礼、よっと」


 タクシー……いや、この場合人力車とでも言うべきか。ちょっとばかり視察がてら楽させてもらった無断乗車もどき。いつから居たのだ、と言わんばかりの疑問顔を向けられては、降りるしかないだろう。


「トンノンの店はまだあるかな?」

「店? そんなもの村にあるわけ無いだろう」


 ――無い? 爺の店が無いとはどういう事か。そりゃ、何十年か不在のままではあるが、取り壊しの話など聞いていない。


「婆さん、どういう事だ?」

「すまないね、こやつはまだ生まれて十年なんだよ。トンノンの事だけじゃなく、村から出てない未知の世間知らずさ。ほら、失礼な態度ばかり取ってると、好物のチーズとやらが食べれなくなるよ」

「チーズって言やぁ、村長に届くやつか?」

「そうだよ。アンタが待ちわびているやつさ。この御人、配送の主様だよ」


 本当に十歳と言っていいのだろうか、驚いた目で見下ろしてくるその顔は随分と老け込んでいて――いや、巨人族だ。ここはあえて何も言わない方がいいだろう。単なる人間とは仕組みも寿命も違うのだ。長くて200年程は生きると聞く。この婆さんも以前訪れた時に軽く見かけた気がする。

 この世界では、巨人族は亜人(ひと括りに獣人)と呼ばれている部類に入る。身体が大きいだけで人と同じなりをしている。間違えやすいのは、他にも魔獣でありゴブリンを従える単調な知識を持ったオーク族が居る。オークは巨人と並の大きな顔は完全に魔獣に近い。尖った耳、緑に近い肌で温厚な巨人族とはまさに反対。かなりの短気で闘争心が強い。

 この辺りの、この世界での知識は、各種族の誇りや信念がある為、深く入り込んだり間違えるとかなり厄介事になる。

 獣人達は姿を普段は人型にしている。例えるなら、竜人族の本来の姿はドラゴンであるが、山脈で悠々と飛ぶワイバーンは知識のない食用にも使われる魔獣と認識していい。うっかり、街中でドラゴンの肉、ドラゴンのステーキだなんて言った瞬間には戦争になりかねない。よくあるRPGやあちらの世界とはまた違うのだ。


「それでトンノンの店だが。ここ数年、森が狭くなりつつある。使っていない家屋はこの村内では、壊す事にしたのだよ」

「狭くなる? 首都と森は高い壁で分けられているはず。開拓でもしてるのか?」

「いや、各村を見れば分かるが……。言うなれば、血を絶えさせぬ為、だよ」

「それは」

「力を欲する者は森を乱す」


――あぁ。暫く来てない事を後悔するべきか。

 見上げればまだ陽は真上に登り切っていない。朝飯が昼飯になりそうな予感がする。

 これは、長くなりそうだ……。



 

 





 





 

 



 


 






 







 



 

 



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