表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毒は外、蜜は内。  作者: 酒場のあの人
プロローグ
2/10

集う光達に 0-2

「あら、お爺様? もう終わりましたの?」

「あ、あぁ、シルビか。送り出すのにも慣れたもんだな。それはそうと、下界に行かなくて良いのかい? 若造達が待っているだろう?」

「いつもは嫌だと駄々をこねるのに。急かすだなんて、変なお爺様ね」

「儂も孫離れする時が来たんじゃよ。ほれ、精霊業に行っておいで」

「そう? では、行ってまいりますわ」


 神と孫の女神シルビの声。草原で見えない二人の会話が繰り広げられた。

 暫くして静寂が訪れ、草を撫でる風が一つ吹いた。




 風が止み、ポッ……。と、草の間から小さな光が浮き出て留まった。


「うふふ。もう大丈夫なの? 神様?」

「ホッホッホッ。バレたら怖いぞ。強欲(グリード)よ」


 まるで悪戯をしているかの様な、愉しそうな二人の声。

 強欲(グリード)――アズールの光は問うた。


「わたしに気付かないなんて、女神様は恋わずらいでもしてるのかしら? その調子だとこれからの事、知らせてなさそうねぇ。精霊……ふーん?」

「計画を、か? あの子を巻き込む事はお主でも許さぬぞ!」


(あらあら、孫の事になると怖いわねぇ)

 茶化すようなアズールに返す神の声が、普段より低くなった。しかし、アズールの言っている事は間違っていない。神は先程のデタラメなやり取りも疑う事なく、楽しそうに降りて行ったシルビを少し複雑に感じてはいた。


「ふふ、悪気は無いのよ。わたし達はただ、"神のみぞ知る事"を決行したいだけ。こちらから女神様には(..)手を出さないわ。ねぇ?」


 アズールの光が問かけると、また一つ光が浮かび上がる。

 ユラユラと左右に少し揺らいだ。


「ここに来るのは久しぶりだね。大変だったよ」

嫉妬(エンヴィー)よ、久しいな」

「あれから二十年。予想より長くて参ったよ」


 嫉妬(エンヴィー)――(そら)の光が疲れた声で神に返した。


「褒美だ。転移の能力(ちから)に少し手を加えてやろう。して、お主達二人が揃うという事は、集まったのか?」

「「イエス、マイロード」」


 ――すっかり仲が良くなったもんだな。

 そんな風に神が微笑ましく思っていると、二つの光の後ろに五つの光が並んだ。


 「此処が神様の空間?」「……」「そわそわしちゃう」「邪魔スルヨ」「フンッ」

 ――こやつら纏まるのか? 

 神は複数の個性的な男女の声に不安がよぎった。


「一人ずつ名を決めていくかの。それ、最初に言った奴一つ前に出ろ」

 これも仕事なのだ……と神は乗り気ではない気持ちを抑え声を響かせた。

『……?』


 神の言葉に七つの光は揺れはしたが、誰も発しなかった。

 と、いうよりも。ほぼ同時だった為に最初が誰か分からないのだ。


「ええぃ、右側のやつ!」

(ん? (わらわ)か)

 呼ばれた右端の光が前に少し動いた。


「お主は何を志とする?」

「妾は必要とされる居場所を望む。何故、争わねばならぬ。何故、陥れられなければならなかったのだ……。余所者に操られる傀儡の王族など世には要らぬであろう? 妾の幼き頃から耐え続けた。たった一つの決断で、それが無になったのだ。あの者達に頭を下げるなど屈辱でしかない」


(余所者……。もし、わたしと空が転生者だと知ったらどうなる?)

 アズールは静かな場に響く彼女の言葉の中で、ひとつの疑問を感じた。


 ――仕方ない、聞いてやるかの。

 汲みとった神が問い出した。

「お主の矛先は王族か? もしこの中に転生者が居ても反旗をせぬと言えるか?」

「クスッ。確かに王族だけでは無い。中にいたとしても顔も知らぬのなら、妾の知った事ではない。疑う事を知らぬ家臣……媚びる貴族、豪族。妾を選ばなかった愚かな者達に、身の程を分からせてやりたいだけよ」

 妾と言った声――女性は笑った後、吐き捨てるように少しばかり声を荒らげた。彼女は王族に関する者なのだろうか。それも位の高い位置。


 神は彼女の過去を少しばかり覗いた。

 ――水の国(パリウ)の者か。

「お主の罪は欲深き地位への執着。気高き傲慢(プライド)。それを忘れるでないぞ」

(分かっている。妾はただ認められたかっただけ……)

「イエス、マイロード」

 傲慢(プライド)と言われた女性は、自負の思いを込めながら応えたのだった。


――うむむ。全員は聞かなくてもいいかのぉ。儂の甘味タイムが減ってしまう……よし。


傲慢(プライド)よ、獣王(キマイラ)を贈ろう。気高きお主には相応しいであろう? そして隣の男よ……竜人族か」

「……育っただけだ」

憤怒(ラス)と名乗れ。お主は王となりたいか?」

「ふっ。神であっても俺を縛り付けることはさせねぇ」

「独りを好む、か」

 ――集まるのは人間族だけでは無い、か。残された者としては罪深いのぉ。

 神は昔の残劇を思い出した。亜人達が人間族によって迫害された過去だ。憤怒(ラス)と呼ばれた男を憐れむのだった。


「して、隣の中の者よ」

(わたし)?」

「そうだ。お主は此処に来るべき者では無いと思うがの?」

「っ!! 駄目!? 豪商が憎い。母様達が憎い……働きたくないのよ! 媚び売る生活なんてうんざり!!」

 

「働きたくない、か。お主は、この場の仲間と共に事を起こすのも煩わしいと申すか?」

「アハッ。それは無いよ? だって……居るんでしょう?」

 ――追っかけか。まぁ……それでも良かろう。


 神は嬉しそうな口調の女の頭の中を覗き、止めるのは早々と(あきら)めた。

怠惰(スロウス)。お主は角がついてもいいか?」

「よし、認められた……。って、ふぁ!? 角!? どんな!?」

 怠惰(スロウス)は突然の事に驚いた声を上げる。

「ちっとばかり悪さしたユニコーン(うま)が居ての。黒くしたら泣きつかれてな」

「角……はっ、角!?」

戸惑う怠惰(スロウス)の丸い光に、直線の日光が当たるような輝きが上から注いだ。

「戦える能力(ちから)だ。ユニコーン(うま)の様な速さで駆けよ」

「イエス、マイロード……」

 能力(ちから)を授かった、その事で怠惰(スロウス)の頭はいっぱいになった。角を確かめようにも、今の姿は分からない。

 集った七人は神の言葉を無事に聞き終わるまで、お互い顔を出さないと決めていたのだ。どんな環境だとしても皆が同じ位であると。まとめ役を買って出た、司祭の権を使った(そら)以外は。


(マダカナァ)

「此処にはお前さんの好きな生き物(モノ)は無いぞ。暴食(グラトニー)

「楽シクナイ。欲シイノ美味イ魔力……神力(かみのちから)、イラナイ」

 暴食(グラトニー)と呼ばれた者は、拙い言葉で欲を神に訴えた。


「幾らでも後で得られるだろう。して、その隣よ」

「フッ。やっと僕の番だね?」

「色男……ゴホッ。いや、色欲(ラスト)よ」

「神よ、褒めの言葉をいただけるとは栄光です」

 ――こやつは(たち)が悪いな。

 神は知っていた。色欲(ラスト)は他人の悲痛に染まった表情を見る事で、自身の気分が最高に高まる事を。さらに人でありながら、真っ赤な血を見る事も美徳としていた。好むそれはまるで吸血鬼(ヴァンパイア)のようだと。


「罪深き者達よの……」

 呟く神は、七人を責めるつもりはなかった。世界に広まる幾つかの本にも書かれている通り、神――テフもこの世界を作り出す前は、最高神に罪深き者として怒りを買っていたのだから。それぞれが持つ欲、感情は生きる物として生まれてしまう事なのだと。



「さて、傲慢(プライド)憤怒(ラス)強欲(グリード)怠惰(スロウス)嫉妬(エンヴィー)暴食(グラトニー)色欲(ラスト)……七つの大罪を背負う者達よ。逆の意味は分かるか?」


「誠実」「……寛容」「耐忍」「うっ……勤勉」「慈愛とか」

「ガマン?」「純潔など眩しすぎる」


 神に問われた七つの光は口々に答えた。

 アズールは(七つの大罪の逆は七つの美徳……)と頭に浮かばせた。

 

「そうだ。暴食(グラトニー)よ。暫しの我慢(ガマン)も心掛けが必要だ。我が子達よ、事を起こすにしてもその事は忘れるでない。儂は神だ。この後は見守る以外の手助けは出来ぬからな」


 世を創る神は善と悪を選んではいけないのだ。あくまでも中立でなければいけない。


 ――アレを起こすのは儂も数百年ぶりかの。

強欲(グリード)よ。儂の壺の新たな使い道を教えよう。それは儂の代わりになり、お主達の道標となろう」


 儂の壺と言われてアズールは製薬に使う壺ではなく、銀毛の狐――精霊(フォル)の首にかけている、小さな神様専用の味見の壺を思い浮かべた。

(あれの新たな使い道?)


「そうじゃ。大地の林檎チップスとなるものが食べられないのは残念だがのぉ。だいえっと、かの? それをするには都合が良い」

「何を作っても大地の林檎の種が出てきたのはこのせいだった、って訳なのね」

(確かに美味しいけれど)と、アズールは呆れ返した。


「アレは危ない……恐ろしく危険な食べ物であるぞ」


 大地の林檎――野菜の一種ではあるが、薄くスライスして油で揚げると香ばしくなる。そして(シルト)で味をつけると、自制しなければ止まらなくなるパリパリのお菓子。

 それを無心で食べている時に

 "お爺様。最近お腹辺りが立派になったのではなくて?" 

 不意討ちに言われたシルビの言葉が、神の深い心の奥に刺さり決心したのだった。

 ――いかん、こんな事を思い出してはならん。


 「あの壺に七人(それぞれ)の魔力を込めろ。そして――」

 

 邪念を振りきった神は壺の使い道を話しだした。 


 この場にいた者は知らない。その後に続く柔らかな言葉の裏で、神の表情が

 ――遥か昔の悪に染まった神そのものだったことを。 

 

 

 

 

 






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ