草原の謎1-6
シュルル…。『おや…まぁ、大したことないじゃないの』
ヴィーの残念そうな声がぽつり。
『空を探してたんだよね?』
「そうねぇ、目立たないでほしいのだけど…何処まで行ったのかしら」
やや面倒くさそうに肩にかかる髪を払いながらアズールは窓の外を見やる。
風に揺れる草原の先に、先程の男達が遠目に歩く背が見える。
あっさり引いていったが、また再び訪ねてくるような気もしなくもない。
このまま合流を待つか、門の中に入り同じ様な馬車持ちと紛れてしまうか。
アズールは考えていた。
表立って動くことはしなくなったが為に、ここ最近は人との暮らしに適度な距離を取っていた。
魔導馬車とも言える快適な家を持っていれは、有事に動くことはしても、常時街へ降りる必要がなく暮らしに困らない。
だだそれゆえに、細かな情報が入ってこないことに関しては歯がゆく感じている。
「ヴィー、空との距離はどう?」
『さぁね、魔力が切れるような距離にはいないけど。山脈の方角よ。すぐ帰ってこなそうだし、この国に長居するなら上手くやっといた方がいいね』
「そうよね。んー。適度に薬を卸しながら情報を集めてみましょうか」
『街にいくの?』
「この草原だとスライムしかいないし、ついでに薬売りに行こうかしらね」
『やった!ご飯も行く?』
「いいけど最近フォルぽっちゃり」
『えっ…』
ズーン。と効果音がつきそうなフォルを横目に、どことなく楽しそうなアズールは収穫したての黒りんごを籠に入れていく。
ヴィーは床を擦り木へと登り、枝に落ち着いたようだ。
『ん?それ持ってくの?』
「壁の中に入ったら出るの面倒よ。仕込んでから行きましょ、ちょっとそこまでお散歩ね」
『はーいっ』
「ヴィーお留守番任せるわ」
『はいはい、早くね』
フードを羽織りアズールとフォルは外の扉へと出かけていく。
注ぐ陽の光が眩しく、アズールの髪を艶めかせた。
✻✻
馬車が見えなくなり壁と反対、草原に隣接する森の入り口。
木が密林となり草原に比べると陽も遮られる中、アズールは貯め池を探していた。
『水の匂いこっち』
「魔力も薄くて、魔獣の少ないところがいいわね」
『うーん、それじゃこっち?』
フォルに案内されてついた最初の池は、浴槽ほどの広さ程。
『深さはあるから水枯れないよ』
「できればもうちょっと…」
次に案内された場所はプールほどの池と呼べるものだった。
『魔獣が少し水飲みに来ちゃうけどいいの?もう少し離れればちゃんとした水飲み場みたいな広さありそう』
「うーん、いいわ。この大きさなら全て使うことにならないでしょうし」
ちゃぷん、とアズールは水を指先で触り確かめる。ひんやりとしてる温度が暑さを冷やし心地よい。
池の中心以外は木に隠れているが、僅かに漏れた日光で透き通る水で底の生えた水草が足元でよく分かる。濁りのない豊かな天然の池。
『ここで良い?』
「そうね、ピッタリだわ」
アズールに撫でられフォルは何をするのかよく分かっていなかったが満足することにした。
上を見上げ分かるのは、随分昔、ピコの村のヨードが毒を嬉しそうに食べたときの顔を思い出すような、何かを試す時に似ていることだった。迷いはない表情のアズールがいる。
「後ね、スライムちゃんが欲しいわ」
『スライムを?』
声に目を合わせると、ほんの一瞬だけ、どこか此処ではない何かを考えているような寂しそうな瞳をするアズールを見逃さなかった。
何をするのか、ここで疑問が生じた。
しかし、直ぐに答えに辿り着かず考えることをフォルは止めた。
次のご飯は何をお願いしようかなー。
…非常にマイペースなやつだ。
「そう、一匹連れてきてくれる?元気のなさそうな子」
『うん?待っててー』
木々の間を悠々と越え、草の茂みの奥へとフォルが消えていく。
そこでアズールは籠に添えていた敷き布を地面に敷き座り込む。
手をかざせば何もないところから神の壺が出現した。
持ってきた黒リンゴを入れスイッチを押すと細かく擦られていく。
アズールは再びぼんやりとファルを待つ間考えていた。
空が帰ってこないこともあり、計画を自らの手で少しでも先に進めなければと。
本来の計画では何もせず、この草原から移動しないで静観するつもりであったが、今は、この手元にある魔力を感じ取れる艶々な黒リンゴがどんなに秘めた力を発揮できるのか、確かめたくなり仕方がなかった。
ーみんなが揃っていれば大きな計画を勝手に立てるだろうから任せるのだけど、中心として動く空もどこかへ行ったっきり。あーあ。暇すぎるのよね。
先程の男達が子供を助けてもらったと話していたけど、どうせ彼等もまた貴族派でしょう?
スライムから出来るクズ魔石と呼ばれるものがある…その魔石は最近貴族が家電?を作るとかで、数を独占していると聞いた。
本来は例えば、火の魔力持ちが魔力込めを家の職として行い、裕福ではない子供たちのお手伝い程度で得れたくず石を使い捨てとして、更に各家庭で使っていた。使い切ると粉になるのだ。
今はそのくず石すら、必要としてギルド(飛翔)を通さなければ得られないようになってきている。火を使いたければ現状、薪かその家電?を買うように、と。民が暮らして行くには全てに金がかかる。
制限された当初は民による反発も多かったが、家電が便利ゆえにやがて声は抑えられ、今は裕福層が一家に一台少し高い額を出し手にしている。この手入れされていない世界が好きだ。保守派である。ゆえに、貴族達が困ることになっても気にしないわ。
そんな思考に至ってた頃、ガサガサと繁みが揺れ白い毛玉がスライムを共に飛び出してきた。
『よっ、と!』
ポイッと地面へと落とされた見るからに気弱そうなスライムが、プルプルしている。
「おかえり、フォルありがとう」
『アビスに噛まれてたやつだけどいた!』
「元気になるから大丈夫よ」
そう言うが早いと、立ち上がりそっとすくい取る。
手のひらでプルプルしている小柄なスライムをそっと池に落とした。
ゆっくりと水の圧によりスライムが沈む。
この世界の青スライムは元々水の中で生まれているので水中に落ちても問題はない。
水の底にスライムが着地するのを見届けると、先程擦って細かくなった粒状の黒リンゴをスライムの元へと落としていく。
スライムが黒リンゴを取り込んだ時、スライムを包み込んでしまった。そして、黒色の魔力に覆われた玉が静かな水面上へ浮かびあがった。
「これでいいわ。大丈夫そうね。後はこのスライムちゃん次第」
『そのままなするの?』
「そう。今はこのまま。馬車へ戻りましょう』
去りゆくアズール達の背中を見届ける
渦巻く黒い水球は少しずつ大きく育っていく。




