四話
やあ、雲鑑定士の私である。
さて、私が地精霊としての生を受けてから、多分何年かが過ぎた。
私のような無精者には4より多い数字は基本的に沢山と言う扱いなので日付けとかは正直把握していない。
年単位が経過しているのは確実なのだが、それを確かめる術が、近くに生えていた幼木の成長からうかがうしかないのだから仕方ないことである。
そう、実を言うと、私はあの転生した時から未だ同じ小石に《顕現》し続け、今日に至ったのである。お陰で、木々の成長を利用した、木時計なる田舎の時間感覚以上に遅々とした生活を送っているのだ。
そんな訳で、この数年の私の主だった行動を振り返ってみよう。
1:雲を観察していた。一番のお気に入り雲は夏場に見ることの出来る入道雲を更に数倍はでかくした、某天空城的な雲。私は竜雲と呼んでいる。
2:雲観察の傍ら、夜は現代日本とは比較にならないほどの星の数を延々と数えてみた。やはり、一夜が終わる前に全てを数え終わることは出来ず、いずれスターカウンターとして名を馳せられるようになりたい。
3:常に幼木に対して領域の認識能力を一つ割き、その成長を見守ってきた。
あいも変わらず何もしていない私だった。
いや、一つだけ、異世界転生っぽいことはしているのだ。
それがあの謎エネルギーの摂取である。
一応、推測ではあるが、その正体についても考えてみたのだが、あれは多分、地脈だとか、竜脈、霊脈とかそんなものから漏れ出るエネルギー系なのではなかろうか?
確証はないがテンプレートで言えば、魔力とかそういった幻想系燃料にあたるのだと思う。取り敢えず私は仮定としてそれをマナと読んでおくとにしている。
そして、その地脈系マナであるが、最初の頃に私が得ていたそれはどうやら余波のような、微弱ものであったらしい。
それに気が付いたのは、知覚領域で遊んでいた時だ。
どうやらこの領域は、無意識で使用すると球形がデフォルトであるらしいのだが、意識すれば広がっている領域の体積分の中でなら自由に形を変えられることが判明した。
その領域を糸のように細く伸ばし、100m程離れた森の中を知覚散歩したり、または上空に伸ばし、知覚ドローンごっこで遊んでいたりしていたのだ。
その過程で、地中にも知覚糸を伸ばしてみたのだが、深度が増せば増すほど、マナの質が良くなっていることに気が付いたのだ。
しかもそのマナの純度が良ければ良い程、あの入浴的な快感が増す増す。
ーーへへっ、私はもうこいつなしじゃあ生きていけそうにないぜ。
恐らく、もっと深くに本流とも言うべき地脈が存在し、そこから溢れ出たマナが地上付近まで影響を与えているのだと思う。
もしかしたら普通の精霊種はそういう最早、さざ波のような微かなマナを摂取し、膨大な年月をかけ、霊格を上昇させているのかも知れない。
まあつまり、私は知覚領域を粘菌の如く伸ばし、知覚ボーリングによって源泉を目指すという成長系転生の王道を踏襲しているのだ。
お陰で私もただなる小石より大きな躍進をしたのである。
その成果がこれだ。
個体名:ただなる小石(旧・高城錠一)
種:地精霊
霊格:87階位
技能:《顕現》
備考:異世界よりの転生体
なんか気が付いたら霊格が凄いことになっていた。
それに伴い知覚領域もデフォルトで半径50m位は余裕で超えている。
まあ、その広さもだんだん面倒になりきちんと把握はしていないので、取り敢えず、広い、で落ち着いている。
さて、それでは今日も雲の観察に勤しむとしよう。