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僕の盲想Ⅱ(1)

「ね、眠い……」

 悪夢のような、というかどちらかと言えば悪夢であって欲しかった出来事のあった次の日。既に昼休みも終わり、午後の授業が始まっていた。

 そんな中、僕は睡魔との激しい戦闘を繰り広げていたのだった。

 なぜ僕はこんなにも眠いのか。

 答えは簡単。あの後徹夜でゲームをしていたからである。

 帰ったら寝ようとか言ってたのにゲームの電源を入れたのは誰だ!

 もちろん、僕だ。むしゃくしゃしてやった、反省はしている。なんて犯行動機じみたことを考えながら、必死で耐える。

 しかし得てして人間という生き物は禁欲的なものに弱いものだ。僕もその例にもれず、すでにKO寸前だった。

 寝ちゃダメだ、寝ちゃダメだ、寝ちゃ、だめ、だ……ぐぅ。

「痛っ!」

 睡魔の激しい攻撃に耐え切れず、うつらうつらしていた僕の背中に突如鋭い痛みが走った。

 何事かと後ろを振り向くと、そこには美少女の革を被った汎用人型視線兵器・シノザキヒョウカが鎮座していた。

「……」

 対象は、無言を貫いている。

「……しゃす」

 振り向いてしまった手前、取り敢えずなにか言わなければならないと考えた挙句に口から発せられたのがこの一言だったという事実に、僕は自分の脳みそのスペックを呪った。

 そう、僕の背後では可愛らしいピンクのシャーペンをナイフか何かのように逆手に構えた篠崎さんがこちらを睨んでいたのだった。

 それはクナイを構える残虐なくの一の姿にも似ている。寝ている所を後ろから一突きだなんて汚いさすがくの一きたない。

 彼女の表情は昨日と同じく、いつも通り親の敵でも睨みつけるような顔をしている。非常に整った顔でそういった表情をされると、なんだが背筋がぞくぞくとした。

 それにしても……そうだ彼女、僕の後ろの席だったのだ。

 完全に失念していた。というか、どうせなら忘れていたかった。

 彼女は僕が脳内作戦部に切り抜ける手段がないかお伺いを垂れている間に若干前かがみでこちらに近づくと、僕の耳元で

「授業中に寝たらダメですよぉ」

 と囁き……そして、ニヤリと笑ったのだった。

 エマージェンシー、エマージェンシー。頭の中で警報が鳴り響き赤いパトランプが一斉に回転を始めた。

 僕は無言で何度も頷くと、急いで前を向いて教科書を睨みつける。

 もちろん全く頭に入ってこなかった。

 一体全体何事だ、これは。

 彼女は普段、男子に対してさっきのような物言いをする人では決してない。もっと高圧的で、上から命令するような話し方をするお方だ。

 しかも、最後に笑みを浮かべなかったか?

 ありえないありえないありえない。彼女が男子に笑いかけるなんて天地がひっくり返っても起こらないはずだ。

 と、いうことはだ。さっきのは、もしかして警告だったのだろうか。

「次に私の前で惰眠を貪ろうものならコロス。むしろ昨日あんな事言われたのに良くぬけ ぬけと登校できたもんねコロス。あーもう言葉にしても分からないんなら直接体に刻み込もうかぁコロス」

 という意思表示だったに違いない。

 そうとでも考えないと彼女の笑顔の謎が解けない。

 完全に眠気の吹き飛んだ僕は、今度は彼女という恐怖との戦いに放り込まれたのだった。

 どうしよう、もう微動だに出来ない。

 そっ、そうだ、こういう時は現実逃避だ。僕の得意技じゃないか~。あ、というか僕の自己紹介ってまだして無くない? よし、それで行こう。

 今日のお題は『自分のことを、他人に紹介しよう』に決定だ。

 ごほん、僕は斉藤廻、花の十七歳。身長百六十六センチ、体重五十キロ前後。趣味はゲームと現実逃避。文芸部に所属している。学力、普通。運動、ダメ。顔、ふつう|(当人比)。

 まぁ言ってみれば、どこにでもいる普通よりちょっと地味な高校二年生だ。

 ただ、一つだけ僕には普通じゃない部分がある。ふふっ、気になるかい? それは、この恐ろしいまでの妄想力にある。昔からおかしな話をでっち上げたりするのは得意中の得意だったのだ。

 もしも人の妄想力を測る機械(スカウター)があった日には、

「ふっ、妄想力5か……ゴミめ」

「はっはっは。何を勘違いしてるんだ。まだ俺のターンは終わってないぜ。今だ! 必殺・現実逃避(ジ・オウンワールド)!」

「何っ? 奴の妄想力が上がって行くだと……10、50、100、1000、い、一万を超えた! 何っ、ま、まだ上がっているだと!」

 ボンッ! 

 っと次の瞬間測定不能で装置破壊ってなもんだ。

 そう、僕はこの力を使ってライトノベルを書いているのだ。そして、僕はこの力を使ってラノベ界の神になる! と思っていてくれて、間違い無い――



「大間違いだ!」

 突然、頭の天辺に鋭い痛みが走った。

 驚いて顔を上げると、そこにはもう一撃繰り出そうと教科書を構える先生の姿が見えた。

「先生、いくらなんでも僕の思考にツッコむのはメタすぎます!」

 また叩かれるなんて冗談じゃない。

 僕はあわてて机に出していた教科書で頭をガードした。

「何を言ってるんだ? とりあえず英語の教科書は仕舞え。今は数学の授業中だ」

「えっ?」

 クラスにクスクスと忍び笑いが響く。

 僕は頭上に掲げていた場違いな教科書を仕舞いながら、こっそり辺りを見回した。退屈な授業に飽き飽きしていたクラスメートの視線が僕に集まっている。

 うわーこれは恥ずかしい。今学期一番の失態だ。

 こら、そこ。奄美翔子! お前は笑うんじゃない。お前も完全に今起きました、とりあえず周りに合わせて笑ってますって顔してるぞ。涎の跡ついてるし。

 僕は未だにジンジンしている頭を押さえながら、いそいそと数学の教科書を取り出そうとした。

 その時だった。

 確かに、感じたのだ。背後からの刺すような視線を。

 背筋に悪寒が走る。

 あぁ、これが殺気なんだな、と本来小説や漫画にしか出てこない感覚を僕は確かに感じたのだった。

 これが、身の危険というものなんだな、と。



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