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第1章 片手剣シューティングスター ~その8~

「シールドストライク!」


 すかさず俺は盾スキルを発動させた。

 ロックジャイアントのメイアに対する敵対心を高めさせないためだ。

 常に俺に攻撃させる。


 まさしく騎士に相応しいプレイスタイルだ。

 壁、とか言わないように。


 ウンディーネの直接攻撃も、地味にロックジャイアントのHPを削っている。

 どこが地雷スキルなのか、俺にはわからなかった。

 十分、役に立っているではないか。


 円卓の旅団の3人は長い、長い戦闘を続けた。

 特に俺はロックジャイアントの攻撃を一手に引き受けているため、集中力を切らすわけにはいかない。


 じわじわとロックジャイアントはHPを減らしていく。

 作戦がはまっている証だ。

 円卓の旅団は崩れそうにない。


 気になるマリオンのMPも余裕がある。

 あとはロックジャイアントが瀕死の状態の際、特殊攻撃を行わないことを祈るのみ。

 これまでの経験上、そういうことはなかったが、今回もないとはいえない。


 ポーション系のアイテムをいつでも使用できるように準備しておき、ロックジャイアントの攻撃を凌ぐことに俺は集中する。


「あと少しよ」


 メイアが今回の戦闘で、幾度目かのバックアタックを決めた。

 ロックジャイアントのHPが、残り僅か数ドットのところまで、俺たち3人は持ち込んだ。


「マリオン、回復はいいから攻撃にシフトしてくれ!」


 俺は再びアップルジュースを口にして、マリオンに指示を出す。

 ここまで来たら一気呵成にトドメを刺しに行った方が良い。

 そのように俺は判断した。


 回復アイテムに余裕があったのも、作戦を変更した理由である。

 それに、そろそろ俺の集中力に限界が訪れそうだ……。


「わかりました、スワンさん」


 ウンディーネを帰還させ、マリオンは攻撃力の高い別の精霊を召喚し直す。

 現れたのは、全身に炎を纏った火の精霊(サラマンダ―)だ。


火の球ファイアボール!」


 マリオンはサラマンダ―を使役し、火球の魔法を放つ。

 さすがにウンディーネよりも高い攻撃力を誇るだけのことはあった。

 ロックジャイアントのHPゲージが、さらに減少する。


「ソードブレイカー!」


 待機時間リキャストが終わると同時に、俺は片手剣スキルを放つ。

 ロックジャイアント撃破まで、本当にもうちょっとだ。

 俺は勝利を確信した。


 だが、それで気を抜いたのが良くなかったのか、単に運が悪かったのか、あるいはその両方か?

 ロックジャイアントの攻撃がクリティカルしてしまう。

 俺に……。


 その直後、ロックジャイアントは倒れた。

 トドメを刺したのはメイアかサラマンダ―かは、この際どうでも良い。

 必要なトリガーアイテムも出た。


 何もかもが順調に運んだ。

 ただ1つ、俺が死んだことを覗いては。


「あ~、やっちゃったか」


 憐れむような目で、メイアは俺を見下ろす。

 最後の最後でやっちゃったのは、俺も痛いほど理解している。


 だから、そんな目で見るのはやめて欲しい。

 本当に同じギルドのメンバーなのか……?


「スワンさん、ごめんなさい。わたし、蘇生魔法は使えないんです」


 心の底から、マリオンは申し訳なさそうな顔をしていた。

 うん、召喚魔法スキルでは蘇生魔法を使えない事は知ってる。


「スワンは、そのままクリスタルポイントに戻っちゃって。私たちも呪符で戻るから」


 メイアに言われるまでもなく、それしかないよなあと俺は思う。

 蘇生を諦め経験値をロストし、クリスタルポイントに戻ることを選択する。

 経験値にゆとりを持たせてあり、1度や2度死んだくらいでレベルが下がることはない。


 一瞬で俺はティンタジェルへ戻った。

 目的を達成出来て、俺はほっと一息つく。

 次いで、メイアとマリオンが呪符を使用したのか転移してくる。


「おつかれ」


 俺はメイアとマリオンを労うように声をかけた。

 そろそろログアウトする時間だ。


「スワン、アメジストとトルマリンを渡して。さっき手に入れたオニキスと合成しておくから」

「やはり貴金属スキルだったか……」

「2万エレクトロンで、やってあげるわ」

「……金取るの?」


 予想してはいたが、まさか本当に金を取るとは。

 俺はメイアのがめつさに辟易した。

 マリオンも目をぱちくりさせている。


「冗談よ。同じギルドの人間から巻き上げたりしないわ」


 蠱惑的な笑みを浮かべ、メイアは俺の顔を覗き込む。

 かなりの近さだ。

 その妖艶な表情に、俺はドキリとしてしまう。


「スワンにだけ、特別よ?」


 メイアはそっと俺の耳元で囁く。

 残念ながらパーティチャットで他のメンバーに聞こえてしまうため、マリオンが顔を真っ赤にしていた。


 俺は言われるがままに、アメジストとトルマリンをメイアに渡した。

 他に貴金属スキルを上げているプレイヤーにアテがないため、ここは任せるしかない。


「ん? デュエルの最中か」


 マイハウスに戻る途中で、人だかりが俺の視界に入った。

 どうやらデュエルの最中のようだ。


「あれは……」


 びくっとマリオンの体が強張った。

 どうやら知り合いが、それも嫌な知り合いがデュエルをしているようだ。


 それを察した俺は、足早にこの場を立ち去ろうとした。

 君子危うきに近寄らずだ。

 メイアとマリオンもついてくる。


 が、少々遅かった。

 デュエルに勝ったプレイヤーが、マリオンに声をかけてきたのである。


「やっぱり黒竜騎士団を抜けたんだね、マリオン」

「ごめんなさい、アーニャ」

「別に謝る必要はないさ。実力のない奴は、いらないからね」


 巨大な大剣を背中に吊ったアーニャという女性プレイヤーが、謝罪は必要ないと言いながらマリオンを嘲った。

 これには少し、俺はカチンときてしまう。


「そんなんだから、黒龍騎士団は嫌われるんだよ」


 気付いたら、俺はそう口に出していた。

 アーニャは顔を怒りで引きつらせながら、俺のことを睨みつける。


「でかい口を叩くじゃないか。売られた喧嘩は、黒竜騎士団のメンバーとして買わないとねえ」

「待って、アーニャ!」

「あんたの新しいお仲間は、どれほどの強さなのか楽しみだ」


 マリオンの制止も聞かず、アーニャは俺ににじり寄った。

 物凄い威圧感を発している。


「いいのか? そっちは連戦だろ?」

「別に構わないさ」

「いいだろう。デュエルで勝負だ」


 俺はデュエルを了承した。

 言われたように、喧嘩をふっかけたのはこちらだ。

 逃げるわけにはいかない。


 互いにデュエルを申請し、正面から対峙する。

 開始までのカウントダウンが始まり、一気に緊張が高まった。

 見物人も、円卓の旅団の2人も固唾を飲んで見守る。


「……0。デュエルスタート」


 デュエル開始の合図と共に、アーニャが前へ踏み込み全力で大剣を振り下ろした。

 その軌道を見極め、俺は冷静に盾でガッチリと受け止める。

 態勢を崩したりすることはない。


「む!」


 余裕に満ちていたアーニャの表情が、険しいものへと変わる。

 重い一撃を易々と捌かれ、自分の対戦相手が平凡な力量の持ち主ではない事を理解したのだ。


「シールドストライク!」


 お返しとばかりに、俺は盾スキルを発動させた。

 しかし、アーニャも負けじと大剣で受け止める。


「やるな」


 それでも、こんなことで怯んだりする俺ではない。

 平常心を保ち、立て続けに片手剣を振るう。


 ジャイアントと戦った経験が、フラワーとのデュエルが、ステータスでは表されない強さを俺に与えていた。

 プレイヤーとしての技術が向上したのだ。


「パワースラッシュ!」


 アーニャが発動させた大剣スキルも、俺は盾で凌いでみせた。

 このデュエルは勝てる。

 俺は直感した。


 しっかりと大剣の攻撃を受け止め、片手剣で反撃する。

 小さなダメージしか与えられないが、累積すれば馬鹿にならない。


「デュエル終了!」


 今回は俺の目の前に、YOU WINの文字が浮かび上がる。

 HPのゲージの差はそれほどではないが、実際には俺の完勝だった。


「なかなか強い仲間を見つけたじゃないか」


 アーニャは自らの敗北を認めた。

 そしてマリオンに微笑みかける。


「うん」


 たった一言だけ発して、マリオンは大きく頷いた。

 それに自分を庇ってくれる優しい所もある、とは恥ずかしくで言えないが。


「さてデュエルに負けた私は、どうすればいい?」

「どうすればって?」

「普通、何か要求するだろう? エレクトロンとかアイテムとか」

「え? そうなの?」


 いつも単なる腕比べとしてしかデュエルをしない俺は、アーニャの申し出にきょとんとしてしまう。

 負けていたら、どうなっていたことやら……。


 それにしても要求か。

 俺は腕組みをして考え込む。


「あ! じゃあ、こうしよう。今度クエストの戦闘を手伝ってくれ。それでいいや」


 妙案だと俺は思った。

 ダイスとバギンズが手伝ってくれることになっているが、戦闘職が足りない。

 しかも攻撃役アタッカーが。


 アーニャなら、ちょうど足りない所を補える。

 実に都合が良かった。


「ウチは零細ギルドだから、仕方ないわ」


 メイアも反対しなかった。

 積極的な賛成でもないが。


「少しの間だけど、また一緒に戦えるね」


 このことに一番喜んだのは、マリオンだった。

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