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第1章 片手剣シューティングスター ~その7~

「よう、スワン。ギルドを作ったんだって?」

「俺じゃなく、メイアがな」


 専用チャットチャンネルを開設したのは、俺ではなくメイアだ。

 それよりも、いい加減学校でゲーム内の名前で呼ぶのをやめて欲しい。


「でもスワンも、そのチャンネルで繋がっているんだろう?」


 そんな俺の気持ちも露知らず、須田は相変わらずアバタ―名で呼ぶ。

 全く……。


「3人しか繋がっていないから、フレンド登録と同じだよ」


 俺は小さく息を吐いた。

 たったの3人でギルドを結成したと言われてもなあ。


「1人増えてるね」

「ああ。マリオンっていう召喚魔法スキル持ちが、手伝ってくれることになったんだ」

「また女性プレイヤーなんだ。白鳥よりもスワンの方が、モテるんだね」

「ほっとけよ!」


 リアルよりもゲームのがモテるというのは、なかなかに残念なことだった。

 何か、俺は瀕死状態の気分だ。

 体が重い……。


「でもマリオンさんか。聞き覚えがあるよ。どこのギルド、というかチャンネルに繋がっていたかな?」

「俺が聞いたところによると、交際を迫られたから抜けたみたいだけど」

「その手のトラブルは大なり小なりどこでもあるけど、そこまで露骨だと、あそこかもしれない」


 ここで須田は渋い顔になる。

 他のプレイヤーの悪口を言うのは、あまり良いことではない。


「黒竜騎士団」

「大手じゃないか」


 その名前は俺でも知っていた。

 アルビオン王国でかなりの規模を誇る勢力である。


 しかし評判はあまり、というかすこぶる悪い。

 それというのも黒竜騎士団は数に任せて狩場を占有したり、領土戦も敗色濃厚と判断すると、勝手に離脱してしまう。


 自分達の利益しか考えていない。

 それが黒竜騎士団という存在だった。


 マリオンのような大人しいプレイヤーが黒竜騎士団なんかにいたら、確かに食い物にされてしまうだろう。

 相当、我慢したに違いない。


「スワン、気を付けろよ?」

「ああ」


 須田の警告を、俺は胸にとどめた。

 黒竜騎士団と、一悶着起きそうな予感がするからだ。


「そうだ、スワン。話は変わるけど、そろそろ本格的にギルドアイテムが実装されるっていう噂がある」

「確かにチャット回線名イコール、ギルド名というのは、ややこしいからな」


 アバタ―の頭上に丸い球でも付くのかどうか知らないが、俺は興味が湧いた。

 一目でどこのギルドに所属しているのか見分けがついた方が、わかりやすくていい。

 黒竜騎士団のような嫌な連中には、近寄らずに済むのだ。


「最近、色々と実装されるな。やはり1年経って運営がコツを掴んできたということか」

「よく、そういう事に頭が回るな……」


 エターナルワールドのことなので、俺は尊敬の眼差しを須田に送る。

 勉強や運動が出来る生徒には、そうならないのが問題だ。


 恐らく運営会社はこの1年、平穏無事にエターナルワールドを管理することで精一杯で、バージョンアップまで手が回らなかったと考えられる。

 だが、そのことで不平を唱えるプレイヤーはいなかった。


 VRMMORPGであるエターナルワールドにフルダイブできる。

 それだけで十分満足できるほどの、完成度を誇っていたからだ。


 この1年でプレイヤー達からの予想以上の支持を得た運営は、いよいよ新しいことに挑戦し始めた、ということだろう。


 それは楽しみな事でもあり、また不安でもあった。

 新たな冒険に心躍らせると同時に、これまで積み重ねてきたことが無駄になってしまう恐れがあるのだ……。






「何でいつもいるんだ?」


 今日も俺がエターナルワールドにダイブすると、即座に専用チャンネル『円卓の旅団』からメイアの声が届いた。

 ハンズフリーの携帯みたいだ。


「それは秘密よ?」


 メイアは妙になまめかしい声を出す。

 そういう場面じゃないと思う。


「マリオンちゃんが来たら、出発するわ」

「……わかった」


 メイアがマリオンちゃんと呼んだことに、俺は目を丸くする。

 昨日の今日で気安くし過ぎではなかろうか?

 女の子という生き物が、俺には理解できなかった。


 俺は一度エターナルワールド内のマイハウスに戻り、倉庫の整理をする。

 使えそうなアイテムを持ち出すためだ。


 その後で、俺は昨日の酒場へ向かう。

 待ち合わせ場所が、そこだからだ。


「スワン、こっちこっち!」


 専用回線だから他のプレイヤーに聞こえていない。

 しかし、何だか俺は恥ずかしくなってしまう。


 姉に呼び出される弟の気分だ。

 俺に姉はいないけど。

 メイアの前の椅子に腰かける。


「マリオンちゃんが加わったけど、ロックジャイアントに勝てるの?」

「多分、大丈夫だと思う」


 前回の戦いで、ただ無駄に死んだのではない。

 少しでも粘り、俺はロックジャイアントの攻撃パターンを観察していたのである。

 そこから勝つ方策を、かなり多くのアイテムを消費することになるが、俺は見出していた。


「今回はマリオンが、召喚魔法スキル持ちで良かったよ」


 ふっと、俺は口の端をほころばせた。

 1パーティは通常6人編成だが、人脈のない円卓の旅団は3人しか揃わない。

 だから召喚魔法スキル持ちでよかったと言ったのだ。


「スワンさん、ありがとうございます」


 いつの間にかダイブしていたらしいマリオンの声が、専用回線から届く。

 聞かれてしまい、俺はちょっと恥ずかしくなった。

 ゲームの中でくらいカッコつけたいが、実際は照れ臭くなる。


「マリオンちゃん、出発できそう?」

「はい。わたしの方は大丈夫です」

「じゃあ、行きましょうか」


 メイアが合図を出し、俺とマリオンはその通りに従う。

 3人は合流し、目的地へとアバタ―を走らせて向かった。


「そろそろ、何か乗り物が実装されないかしら?」

「確かにメイアの言う通りだな。時間がもったいない」


 走っていても別に疲れないのだが、いかんせん時間がかかりすぎる。

 これは俺にとって無視できない問題だ。


 アルビオン王国の王都ティンタジェルから国境の街へ向かう途中で街道から外れ、荒涼としたエリアを突き進む。

 3人ともレベルが高いため、途中でモンスターに絡まれることはない。


 それなりの時間を要して、目的地にたどり着くとロックジャイアントが湧いている。

 どうやらクエストを受けたプレイヤーが、ある程度接近するとポップするものと推測していた。

 そうでないと、他のプレイヤーに倒されてしまう。


「わあ、大きいですね」


 ロックジャイアントを始めて目にするマリオンは、感心したような呆れたような感想を口にする。

 ある意味、いい度胸をしていた。


「じゃあ、マリオン。打ち合わせ通り頼んだぞ」


 俺は自作の食事を食べながら、集中力を高める。

 別に腹が減っているのではなく、食事にはステータスを上げる効果があるのだ。

 もちろん、防御力の上がる食事しかありえない。


 さらにアップルジュースで喉を潤す。

 こちらは効果が切れるまで徐々にHPが回復する。

 食事はその費用の割には、効果が高かった。


 準備万端整えた俺は、ロックジャイアントに突撃する。

 ついでマリオンも精霊を召喚した。


召喚サモン水の精霊ウンディーネ!」


 派手なエフェクトと共に、青い水で彩られたウンディーネが出現する。

 精霊を召喚中はMPが減少していく。


 そこで俺はマリオンにイチゴタルトと、アッサムティーを渡してあった。

 前者はMPの上限を増やし、後者はMPが徐々に回復する食事だ。

 これでウンディーネを長く召喚できる。


「ソードブレイカー!」


 いきなり俺は片手剣スキルの技を繰り出す。

 これでヘイトを稼ぎ、ロックジャイアントの敵対心を集中させる。

 一緒に攻撃しているウンディーネを守るためだ。


 ひたすら俺は片手剣を振るい続け、ロックジャイアントの攻撃を受け続けた。

 当然、アップルジュースの回復量では追いつかず、別の回復手段が必要となる。


「癒しの水!」


 そこでマリオンの、正確にはウンディーネの出番である。

 ウンディーネを使役し魔法を使わせることで、俺のHPは一気に回復した。

 これをポーションなどのアイテムで賄おうとするのは、不可能だ。


 ロックジャイアントは単純に攻撃力、防御力、HPが高いだけで、状態異常が起きる攻撃をしてこない。

 まれに範囲攻撃をするが、これは気にするほどでもなかった。


 とにかく粘れば勝てそうなモンスターなのである。

 そして、それは俺の得意とするところだった。

 さらに今回はマリオンがいた。


 彼女の呼び出したウンディーネは回復も出来るし、それなりに威力のある攻撃魔法を放つことも可能だ。

 また他の精霊を呼び出せば、大きなダメージを与えられる。


 しかし、今回は俺の回復だけに集中するというのを、事前の打ち合わせで決めていた。

 それが一番確実だからである。


 バシュッ!

 という効果音が響きわたると同時に、ロックジャイアントのHPが目に見えて減った。


 メイアが背後から短剣のスキルである背後からの攻撃バックアタックを決めたのだ。

 瞬間的に与えるダメージは、現状のエターナルワールドでは、もしかしたら短剣が最高かもしれなかった。

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