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第1章 片手剣シューティングスター ~その6~

 アイテム、トルマリンを入手した。

 残すアイテムはあと1つだが、片手剣シューティングスターまでの道のりは半分も来ていない。


 そして、ここでいきなり座礁する。

 次のクエストはモンスターを撃破するのが、アイテム入手の条件だからだ。


 クエストを受け指定の場所へ出向くと、そこには当たり前だが撃破目標となるモンスターがポップし、待ち構えていた。

 モンスターの名前はロックジャイアント。


 このことから最後のトリガーポップモンスターもジャイアント系だと予想されるが、今は関係ない。

 撃破、がクエストの条件なので2人しかいないがロックジャイアントに戦いを挑んだ。

 主に俺が。


 かなり健闘したと思う。

 それというのも、ロックジャイアントはストーンジャイアントに比べ、いくらか弱体化しているからだ。

 倒さないと駄目だからだろう。


 だが、俺は死んだ。

 弱体化しているといっても、1人で勝てる相手ではなかった。

 メイアは敵わないと見るや、さっさと帰還の呪符を使用し逃げてしまう。


 その行為自体に文句は無いが、気が付いたらいなくなっているというのはやめて欲しい。

 盗賊と名乗るだけあって、こっそり消えていたのだ。

 これは褒められたことではない。


 メイアらしい、といえばらしいが。

 そんなことをしなくても俺は騎士らしく、ロックジャイアントを引きつけて逃がす気だったのに……。


「勝手に帰還するなよ……」


 ティンタジェルの酒場で差し向かいで座っているメイアに、俺は恨みがましい目を向けていた。

 エターナルワールド内の紅茶を飲みながら、俺は愚痴を言う。

 この紅茶に、ステータスアップの効能はない。


 それなりに長いこと行動を共にしているせいか、女性プレイヤーでもメイアに対しては緊張しなくなっている。

 これは成長したと思っていいのだろうか?


「いやあ、ごめんごめん」


 やはりメイアは頭を掻いて誤魔化す。

 とても可愛らしい仕草で大概の男性プレイヤーなら、魅了されてしまうのは疑いないところだ。

 それも計算のうちかもしれない。


「まあ、いいや。それよりもロックジャイアントをどうやって倒すか、だが」

「スワンはエターナルワールドに知り合いとかいないの?」

「んん?」

「いや、んん? じゃなくて」

「……みんな忙しいみたい」


 ぼそり、と俺は呟いた。

 ダイスやバギンズとはフレンド登録をしているが、現在どちらも自分の『役割』に勤しんでいる。


「最後のモンスター討伐は、協力を約束してくれたけど」

「じゃあ、そこまでは私たちだけで進めないと駄目なのね」

「せめて魔法職がいればな。メイアはアテがないか?」

「んん?」

「いや、んん? って。俺と同じか」


 まあ、何となくメイアに知り合いがいない、もしくは敢えてソロでいるというのは何となく想像できたことだ。

 普通に考えれば、メイアは引っ張りだこのはずである。


 それが情報屋なんかをやっていて、自分にはプラスにならない俺の片手剣入手を手伝ってくれているのだ。

 知り合いがいないのも頷ける話だった。


「掲示板で募集するか?」


 ゲーム内の掲示板で募集するのを、俺は提案した。

 これはエターナルワールドでは人集めのオーソドックスな方法である。

 同じクエストをクリアしたい者で集まったり、報酬を出して人を雇うのだ。


「う~ん、変なプレイヤーに来られてもねえ」


 やたらと実感の籠ったメイアの言葉だった。

 そういえば、今はパーティを組んでいない。


 会話は周囲に丸聞こえである。

 別に聞かれて困る内容ではないが。


「取り敢えず、アイテムとかアイテムとかアイテムとか」

「揃えて勝てれば苦労しないわ」

「ソロでいけるんじゃなかったのか?」

「はは、ごめん」

「実装されたばかりだから仕方ない。それにしてもフラワーとの差は大きいな」


 人集めも実力のうちというのを、こういうときに俺は痛感する。

 これまでは問題なかったのだ。

 パーティもスキル上げでも、タンクである俺は重宝された。


 しかし、このようなイベントは苦労する。

 中学生で人間関係を構築するのは、なかなかに骨だった。

 須田ことダイスは、上手くやっているな……。


「あの、魔法職を必要としているんですか?」


 沈んだ雰囲気を漂わせている俺達のテーブルに、おずおずと声をかけるプレイヤーがいた。

 見るからに魔法職といった装備をしている女性プレイヤーだ。


「ああ。俺達は2人とも戦闘職だからね。どうしても倒したいモンスターがいるんだけど、魔法職抜きじゃキツいんだ」


 盗み聞きしていたのか?

 とは俺は言わなかった。

 専用チャンネルを使っていなかった、こちらの手落ちである。


「わたしは召喚魔法スキルですけど、良かったら手伝います」

「それは助かる! よろしく頼む!」


 俺は二つ返事で了承した。

 特に断る理由が見当たらなかったからだ。


「ちょっと待ちなさいよ!」

「どうしたんだメイア? そんなに大きい声を出して」

「召喚魔法スキルって、地雷スキルじゃない?」

「だから?」


 俺はメイアの言い分をさらっと受け流した。

 地雷スキルだろうが何だろうが、今はとにかく人を増やすことを優先すべきだからだ。


「騎士道大原則1つ! じゃないけど、スキルが何であれ協力してくれるプレイヤーを、俺は拒むことはしない」


 ゲームの中でくらい、俺はカッコつけたかった。

 別にデスゲームじゃないし、失敗しても構わない。


「それに、他にアテもない」

「そうだけど」

「決まりだ。えっと……」


 まだ召喚スキル持ちのプレイヤーの名前を聞いていない。

 自己紹介をするのを俺は待った。


「マリオンといいます。よろしくお願いします」


 ぺこり、とマリオンはお辞儀した。

 色白で瞳の大きい、清楚な感じのする女性プレイヤーだ。

 ややキツイ雰囲気を漂わせるメイアとは対照的に、大人しそうな物腰をしている。


「マリオンさんね。まあ、座って」


 俺は席を勧める。

 別に立ちっぱなしでも疲れないのだが、それでは申し訳ない。


「どうして私たちを手伝う気になったのかしら? 知り合いじゃないはずだけど?」


 早くもメイアが剣呑な目付きで、マリオンに問い質す。

 勘弁して欲しかったが、その質問自体は聞きたい事だったので、俺は成り行きを見守ることにした。


「その、わたし、ギルドを追い出されて、それで……」

「召喚魔法は需要がないからね」

「それもあるんですけど、人間関係が」

「あ~、そっち。私もあったなあ」

「召喚魔法スキルのプレイヤーなんか、仲間に入れてやってるだけありがたいと思えって」


 それでマリオンは色々と要求されたらしい。

 例えば付き合え、とか。


「何よ、それ? 馬鹿にするにもほどがあるわ!」


 マリオンの事情を聞き、メイアは憤慨する。

 差別としか思えない。

 実際メイアも、男性プレイヤーからセクハラまがいの嫌がらせを受けたことがあった。


「そういうことなら、私も反対する理由はないわ。どこのギルドか知らないけど、見返してやりましょう!」

「はい、メイアさん」


 なぜか女性同士、すっかり意気投合してしまった。

 メイアとマリオンは仲睦まじく、あれこれと情報交換をする。


「う~ん、取り敢えず私たちも専用チャンネルを開設した方がいいわね」

「は? メイアが手伝ってくれるのは、片手剣を取るところまでじゃあ……」

「男の癖に、つべこべ言わない。ぼっちから解放されるんだから、いいじゃない」

「ぼっちじゃねえ!」


 懸命に俺は否定する。

 フレンド登録しているプレイヤーの数だってだなあ。


「チャンネル名は、何にしようか?」

「聞いちゃいねえ……」


 俺はがっくりとうなだれた。

 チャンネル名、すなわち現状ではそれがギルド名となる。

 いずれギルドを創設するアイテムが実装されるかもしれないが、今はまだなかった。


 そもそも国に所属しているため、ギルドを結成しても意味がないんじゃないか?


 ずっと俺はそう思っていたが、これからは様相が変わってきそうだ。

 イベントを進める際に協力し合えるメンバーが揃っていれば、エターナルワールドで有利になるだろう。

 運営はそのタイミングを見計らっているのかもしれなかった。


「円卓の旅団というのは、どうかしら?」

「わあ、いいですね! メイアさん」

「メイアって、意外にセンスあるんだな。3人しかいないけど」


 そのネーミングに俺もマリオンも賛同した。

 何というか、円卓や旅団という響きがいい。

 白鳥の騎士にぴったりだ。


「だけど、いいのか? さっきも言ったけど、メイアは俺が片手剣を入手するまでの手伝いなんじゃ?」

「いいわよ、別に。スワンは他の男性プレイヤーと違うし。それに3人しかいないんだから、フレンド登録と変わらないわ」

「それならいいけど……」


 実のところ、俺は嬉しかったのかもしれない。

 これまでメイアと一緒にクエストを進めてきて、この件だけで縁が切れてしまうのを、名残惜しいと思っていたからだ。

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