つまさき
いちばん最初に見たのは、去年の秋、だったかな。
ほら、残暑でいつまでも暑くて、なかなか涼しくならなかった年だったじゃない?だからかな、見たときにはあんまり不思議に思わなかったんだけど。
近所のスーパーが、19時になったら、惣菜を値引きするのは知ってる?お父んの酒の肴に刺身を買うときは、その時間にスーパー行くのね。その帰りだから…夜の19時半すぎくらい、だったかな。
下の町内会の掲示板があるところ、わかる?
あそこね、帰り道だと、手前に掲示板があって、その向こうに電信柱、て並びでしょ。
買い物すませて車で帰ってきたときに、その電信柱の向こう側に、裸足のつまさきがちょろっと見えてたの。
時間もそんなに遅くはないから、ああ、近所の人が誰か、川べりの銭湯にでも行ってきたんだな、裸足なのは風呂上りだからで、暗くて見えないだけでサンダルかなにか履いてんだろう、と。秋だからその時間でもけっこう暗いし、わたしの車のライトを見て、後ろから車が来たのに気づいたから、邪魔にならないように、電信柱の影に入ってくれたんだろう……そのくらいの気持ちだったんだ、実は。そういうの、よくあることではあるし(お風呂のついてない借家が何軒かあるから)。
で、近所の人、じゃない?
こっちの車の邪魔にならないように、て、わざわざよけてまでくれたわけでしょ?
いちいち車をとめてまで、とは思わないけど、通りすぎるときに会釈くらいはしよう、と。
はみ出してるつまさき見ながら電信柱の真横に来たときに、顔をそっちに向けたのね。
だぁれも、いなかったんだ。