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悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第六章 お姉様を面白がるあやかし
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三百年前の恋

 水社一心に付き纏われ湯あみが恒常イベントとしている昨今、私は千年桜は恋と咲くに関して心の中で整理しながら、日々の業務をこなしていた。


 本来の物語では、お姉様は春に皇龍清明様と出会い結婚して、恋を育みながら覚醒し、覚醒したことであやかしの親玉というか執着キショ概念に目をつけられる。


 そのお姉様をつけ狙うクソストーカーことあやかしの親玉、ドブ煮込み執着の概念が、あやかしを生み出しているし、猫又とか酒呑童子とか野狐禅を出しているわけだが、その三匹──ご本人たちは三妖士を名乗ってる幹部組は、ドブ煮込みストーカーの概念への忠誠心がないし、ドブ煮込みストーカーもまた、馬鹿で意思疎通が取れないドブ煮込みストーカーなので協力を仰がない。


 よく、イケメン無罪、イケメンでも許されないという大層悍ましい主張をする宗派がいるが、ドブ煮込みストーカーはイケメンと呼ばれる外見をしている。


 ヤンデレキャラ、と呼ばれていた。


 皇龍清明様ではなくドブ煮込みと結ばれてほしいと書かれていたこともあった。


 皇龍清明様より想いが強いんじゃないかという書き込みもあった。


 私は、絶対に、許しはしない。あれは、ヤンデレではないから。


 千年桜は恋と咲くという作中人物において、追いかけたいけど追いかけられず、政略結婚で出会っても好きなんて一切言わず悶々としている皇龍清明様の湿度に適う男はいない。


 顔で女性人気を得ていたが、やってることはぽこぽこあやかしを生んではお姉様を誘拐しようとしたり、お姉様のもとへあやかしを向かわせたりするだけ。それも不定期に。「ヒロインに重大イベントが起きない以外登場人物って全員足踏みして遊んでるんですか?」とレビューで酷評されることもある男だ。


 実際は三百年前のお姉様のスーパー封印パワーで満足に動けない、自尊心の肥大化したキモ犯罪者である。


 ドブ煮込みストーカーは元々皇龍清明様よりハイスペックな、本物の神様寄りの存在だった。皇龍清明様が龍神に近い存在だが、ドブ煮込みのほうは天上の神様の一角。


 学校で例えるなら、ドブ煮込みのほうはサッカー部と軽音部を掛け持ちしてる生徒会長タイプ。少女漫画でたとえるなら、絶対選ばれるヒーロー役くらいのポジションだ。


 一方の皇龍清明様は、学校で例えるならド陰キャである。休み時間は伏せていて、先生からの知名度はあるがクラスメイトからは名字に覚えがなく「ねぇ」と、若干気を遣った呼ばれ方をするタイプだ。


 少女漫画には、そもそも出ない。それくらいの格差があった。人外同士の格付けについては。


 そして、人外や神様側からしても、三百年前のお姉様にはびっくりするくらい霊力があり、目立つ存在だった。


 当時のお姉様の性格は……今の激しい自己否定、自責のお姉様から、「私なんていていいはずがない」という、強すぎる自己排除意識を抜いた状態。


 自分の力をおごらず、静かで謙虚で、ちょっとボンヤリ気味。


 どんなお姉様も好きだし今も最高だけど当時のお姉様も最高だったので、両方から惚れられたわけだが、お姉様は普通に皇龍清明を選んだのだ。


 三百年前のお姉様が皇龍清明を選んだ理由は、お守りしたいと思った、である。


 守ってくれた、助けてくれたではない。


『お守りしたいと思った』


 これである。


 当時のお姉様は当時の皇龍清明様の至らなさを愛したのだ。需要の化身である。皇龍清明様は誠実で奥手。甘い言葉も言えなければお姉様を励ます上手い言葉も見つからないキングオブ無口の不器用な男だが、お姉様はそんな誠実さを愛したのだ。


 ただドブ煮込みストーカーのほうは、好きだから諦めきれないのではなく、フラれて自分のプライドが傷つき追い回し始めたのだ。


 お姉様に振られて悔しい。


 自分より劣ってるはずの皇龍清明が何で選ばれたのか。


 この二点。


 この辺りの描写が始まった時、水社一心も退場しており、水社一心罵倒レビューが落ち着いたため、特にランキングから入った普段女性向け作品に触れない男性読者からは、イケメン無罪問題に関する議論が発生し、中々荒れていた。


 つまり人外の中でも、すみっこ落ちこぼれ枠だった皇龍清明様は、コツコツあやかしの討伐をして、お姉様の意志を継ぎ人間の為にコツコツ頑張り、今のあやかし殺戮機になったのである。


 ドラゴニックファイナルクラッシュをこの世界でまだ見てないので分からないが、そもそも彼は刀すら握れないところから始まった。


 そして結局三百年前にお姉様が死んだ理由は、そのクソドブ煮込みストーカーのせいである。


 三百年前のお姉様は知らん他人──子供、それも普段お姉様をからかうクソガキを庇って死んだが、そのクソガキを呪術を用いて襲ったのが、クソドブ煮込みストーカーである。


 ステキな俺が地味ですみっこの落ちこぼれに負けるはずがない。


 子供の危機を救ってヒーローになろう。


 そうすればお姉様も振り向くはず。


 馬鹿の論法により実行した作戦は、所詮馬鹿の発想なので失敗し、三百年前のお姉様が死んで終わった。


 そして自分の失敗や自分が選ばれなかったこと、自分が馬鹿である事実を受け入れられず、これは作戦だ。自分は相手を殺して相手を自分のものにしたと勘違いをして、ただの人殺しの分際で運命に酔いしれ、ドブ煮込み──あやかしを生み出すバケモンに変化した。


 とはいえお姉様。基本的に根が心配性、なにかを始めたら、もしもこんなことが起きたらどうしようという悲観のパターン200個以上考えないと実行できない慎重な性格をしている。


 かわいい。


 そんなお人なので、自分が死んだときや何かあった時、周りの人を守る結界や浄化術が自動発動するよう準備していた。クリスマスの日に強制お留守番を強いられた少年が泥棒に対して数多の罠を仕掛けたり、数多の罠を仕掛けゾンビのような化け物から逃れるホラーゲーム出身の少女の如くだ。


 結果、ドブ煮込みストーカーに向かってすべての術が全発動、ドブ煮込みは三百年間、行動抑制をされつつ、あやかしを生み出しながら、キモドブ煮込みとして全国にあやかしをまき散らしていたのだ。


 要するにキモいストーカーが、三百年にもわたりドブ煮込みとして全国民に迷惑をかけ続けているのである。


 あやかしは、元はドブ煮込みの出している呪いの瘴気で生み出されている。


 怨恨で人間があやかしになるのはドブ煮込みの呪いに共鳴してのこと。


 三百年前のお姉様が死ぬ原因となった、クソガキを襲撃した異物は、元はあやかしの試作みたいなもの。


 三百年前の出来事を整理するとこうなる。


 ドブ煮込み、お姉様に惚れる。


 ドブ煮込み、お姉様に振られる。


 ドブ煮込み、お姉様に振られたことが悔しく、さらに隅っこ地味コツコツ枠の皇龍清明様が選ばれたことを悔しがる。


 ドブ煮込み、呪いで皇龍清明様を殺そうとしつつ呪術研究。あやかしプロトタイプを生み出す。


 ドブ煮込み、お姉様にちょっかいをかけるクソガキ8歳にあやかしプロトタイプをけしかける。


 クソガキ8歳を庇ったお姉様が死ぬ。


 ドブ煮込み、「俺は悪くない」「愛ゆえ」「彼女を想うあまり」と、自己保身と自己正当化の嵐。


 ドブ煮込み、生まれ変わってもお姉様に会えるよう呪術研究で永遠の命を目指しドブ煮込み化。


 ドブ煮込み、お姉様が生前残した「何かを傷つける邪悪にだけ反応するセキュリティシステム」判定に引っかかり致命傷。


 ドブ煮込み、あやかしをぽこぽこ生みながらお姉様を作ったりお姉様を生き返らせる何かを作ったりしながら全国に迷惑をかけ続ける。


 こんな感じだ。


 その間、皇龍清明様はお姉様が死んだショックで100年引きこもっていた。


 あやかしが出始めたので渋々出てきて、あやかし殺戮機となりながらもずーっと悩みながら人間を守っていた。


 そして段々力がついてきて「あんまり人間に関わりすぎて人間の戦う力を奪ったらどうしよう」と、新たな悩みが生まれ、今に至っている。ド難儀不器用の極致にいるお方だ。


 そして皇龍清明様は、三百年前の死の真相を知らない。物語の最後のほうで知る。


 三百年前、皇龍清明様はお姉様から手を繋いでくれた思い出を大切に心に留めている。


 皇龍清明様は自分から手を繋ぐことはついぞできなかった。


 キスなんて一切できなかった。


 そのあたりが描写された時、それまで大絶賛状態だった皇龍清明様だったが「情けない」「女々しい」「延々とうじうじしてる過去パート」「幼馴染くんもアレでしたが、結局彼もややこしくてめんどくせー男だなーと」と、レビューで刺されていた。水社一心をアレと表現できる許容値のある人間がややこしくてめんどくせーと言いたくなる男が、皇龍清明様なのだ。


 一方クソドブ煮込みのほうは、人間態で女をたぶらかし、お姉様の代わりになる女を探し、普通に口づけしたりした後、「違う」と殺すのだ。お姉様の代わりなんてないのに。ひたすらキモかった。


 それを「三百年お前の代わりになる女はいなかった」と、あたかもお姉様を称賛するみたいに言う。


 キモすぎる。


 全部キモい。


 心の底から嫌いなものランキング、第6位。


 最愛の代わりを探す、または誰かを代わりに出来る奴。


 心の底から嫌いなものランキング第5位。


 自分がモテると思ってる成功者ぶった男。そして本当の男女平等の価値観ではなく、「男女に差は無いと思うんです」と、自分は女に接することが得意だと思いこみ、それをアピールするために話す男。


 ドブ煮込みはその重ね技みたいな男なので、読んでる間ずっと嫌いだった。


 しかし、強い。


 ドブ煮込みは強い。正攻法で戦ったところで勝てない。


 私は傍らに携えている刀に視線を移す。


 この刀は、色んな人型あやかしの元に渡った後、皇龍清明様に破壊されたが……これでなんとかならないだろうか。


 というかこの刀、本当に何なんだろう。どちらかというとこの刀にストーリーがあるのではなく、霊力を吸い持ち主を裏切りまくっているために、この刀と持ち主の在り方に焦点が当たっていたので、この刀そのものは「無血」と呼ばれど物語のない刀だ。


 今でこそ……管理局の面々というか福野さんがこの刀を「助けてくれようとしてる刀」と考えたことで、あやかし討伐に参加したり、この間の野狐禅のときだって、水社一心の霊力は吸わず、野狐禅の霊力だけ吸ったし……。


 私の最終手段は、異能だ。


 だからこの刀に無尽蔵に霊力を吸われようが問題が無かった。


 でも、扱い方を考えたほうがいいのだろうか……。


「あの」


 考えていると、管理局の入り口に伊能局長が立った。


 富山局長が「えーどうしたの」と警戒する。この間めちゃめちゃ怒られていたからだろう。


「今日は、枯賀二等兵に用があって」


「それはまた何か、おうちのこと?」


 富山局長が顔を強張らせた。福野さんや真原さんが伊能局長に視線を向ける。


「いや、刀のことです」


「刀?」


「野狐禅の襲撃の時、その刀が、野狐禅の金縛りに対抗する決定打になったでしょう。なので……野狐禅は分かりませんけど、似たようなあやかしが現れたときの対策の研究に、お預かりしたいんです」


 伊能局長は言う。確かに野狐禅の襲撃の時、この刀は役に立った。またいつ霊力でこちらの行動を押さえてくるようなあやかしが現れるか分からないし……野狐禅だけじゃなく、酒呑童子もそれが出来る。


「それで、武術大会があるじゃないですか、大会の間その刀を使うことは出来ないので、今のうちのほうが、ご迷惑をおかけしないかなって」


 伊能局長は申し訳なさそうに話すが、大会のみならず、その前期間からの刀の使用禁止と同然だった。



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