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【和風】悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第八章 お姉様を面白がるあやかし
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雑魚は雑魚でも

 武術大会までの間、刀の使用が禁じられた。


 武術大会まであと二週間、突然酒呑童子が現れても水社一心を守れない。


 片っ端から道場破りでもしようと思ったが、普通に休日を利用し外で訓練することにした。


 従来帝都退妖軍は週休二日制だが、それは国の書類や求人に書かれているだけの、文字である。


 そう、実態がない。


 実際は休日出勤が当たり前だしそもそも屯所の中の寮で暮らしている人間が多く、特に管理局は武具・装具の修理が間に合わない。「や、す、み……?」という状態だ。富山局長が娘さんと上手くいってないという話をしていたが、休みが無さすぎて約束をドタキャンしがちなことも言っていたので、ブラック労務環境は過労死のみならずそういう問題も発生させる。


 しかしながら今日は休みだ。理由はただ一つ。国の労務調査が入るから。お偉いさん方が屯所の中を見学するらしい。その中には労務環境系の要人がいるらしく、休日に管理局の人間が働いていれば、軍で大問題になる。そのため一律休みだ。


 基本的に休みの日は、皇龍清明様と出会う、お姉様の為に強くなるという二つの目標のため、屯所内で身体を鍛えている。


 しかし性格的にわざわざ労務調査の日に皇龍清明様は現れないので、刀も没収されているし、こうして外に出てきたわけだが──、


 屯所を出たところで、ひ弱そうな男が軍人たちから恫喝されていた。


 輝宮寺に扮した野狐禅とお姉様のデート中に現れたモンスターカスタマーしかり、暮日村に現れた賊しかり、治安が悪い。四人で一人を囲ってなんて醜いことか。こういう卑怯者の声ばっかり聞いた結果、水社一心みたいなただでさえややこしい男がモラハラクソ男になるわけで。


 面倒くさいのでそのまま軍人の一人に回し蹴りをくらわそうかと思ったが──向こう見ずだのなんだの言ってきた水社一心の顔が浮かんで、やめた。


 ひ弱そうな男と、その襟を掴む軍人を引きはがした。


「なんだてめえ」


 軍人たちは突っかかってくる。今日の私は軍服ではなく私服だが、向こうは軍服だった。休日に軍服着て街に繰り出す軍人は二種類に分かれる。休日出勤前提でいる軍人か、軍人であることを周囲に示して得しようとしてるクソ。


「かわいい顔してんじゃねえか、気の強い女は嫌いじゃないぜ。丁度いい、遊ぶ金も女も手に入って一石二鳥じゃねえか」


 バッと軍人の一人が私の腕を掴み、他の軍人がひ弱そうな男を羽交い絞めにする。なんだこいつら。水社一心が煩いから丁重にしていれば調子乗りやがって。


 私は掴まれた腕をそのままに、思い切り男の腹部に膝蹴りを入れた。


 その瞬間──、


 ひ弱そうな男を羽交い絞めにしていた軍人が横に吹き飛んだ。


「雑魚は雑魚でも死んだほうがいい卑怯な雑魚はなー……あ、答え言っちまったわ」


 がっつり酒呑童子だ。角を隠している人間態だが、完全に酒呑童子である。


「っていうかお前やるなぁ」


 酒呑童子は感心したように私を見ている。本当に何でこんなところにいるの?


「お前、この女の男か」


 倒れている軍人二人に目をやりながら、残りの軍人二人が酒呑童子を警戒する。


「何言ってんだお前? 俺は鬼だ」


「ああ?」


 軍人は酒呑童子の返答に戸惑う。


 酒呑童子は男の鬼だ。それは確定している。自認も男だ。


 ただ酒呑童子にとっては、「俺、鬼」なので、「あなたはこの人の恋人ですか」といった意味で「お前、この女の男か」と質問しても「何言ってんだコイツ、俺は鬼」と言う返答になる。


 ただ私は解説が出来ないし、理解は難しいと思う。酒呑童子は、こういう存在なので。


「ふざけたことばっかり言いやがって、俺たちは帝都退妖軍の軍人だぞ」


「だからなんだよ」


「俺たちに何かしたら国が黙ってねえからなぁ」


「ほお、で?」


 酒呑童子は聞き返す。


 煽ってるわけではない。


 普通に疑問なのだ。


 軍人たちは、恫喝という蛮行をしながらも自分の立場が悪くなってきたら、国家権力使いますよと匂わせ始めた。


 ただ酒呑童子には通じないというか、どんなに匂わせようが察しないし、目の前でサンマを七輪で焼くレベルの匂わせをしても察しないので、直接言わないといけない。


 結果的に煽ってるように見える。


「そんなにやられたいなら先に言えよ!」


 軍人は酒呑童子に対して、異能を使おうとした。


 おそらく念動力に近いものだろう。片方は砂を操ろうとしている。


 酒呑童子の動きを封じ、砂で包み込み固めようとするが──、


「鍛錬の気配がまるでねえな」


 その一言と共に、砂の球体が崩れた。


 人間態のままの酒呑童子が、つまらなそうに拳を突き上げていた。


 どうやら二人の異能を、酒呑童子の拳で破ったようだ。


「戦う価値もねえ雑魚、さっさと散れ」


 唸るように告げると、軍人たちは怯えるように逃げ出す。


 そばにいたひ弱そうな男も、酒呑童子に怯えていた。


「で、なんでお前は絡まれてんだ」


「いや、わ、分かんないですけど」


「分かんねえわけねえだろ」


「いや、ふ、普通に、軍の見学をしようとしたら、なんか、実力試してやるとか、勉強代、寄こせって」


 男は声を震わせた。酒呑童子は「はぁ」と気怠そうに相槌をうつ。


「でも、やっぱぼく、駄目ですかね」


「逃げた雑魚もお前も変わんねえよ」


 酒呑童子は即答した。確かに酒呑童子からすれば全人類もあやかしも「雑魚」「面白くてつえーやつ」「よくわかんねーやつ」の三分類。しかも「よくわかんねーやつ」に該当するのはあやかしドブ煮込みや野狐禅だけなので、人間に対しては実質二択。


 しかし男にとっては励ましになったのか、「そ、そうでしょうか」と顔を上げた。


「ああ」


「そ、そうですか……す、すみません……助けていただきありがとうございましたっ」


 男は足早に去っていく。「別に助けてねえよ」と酒呑童子は返すが、男は気にせず走って行ってしまう。


 スルーされる酒呑童子。


 野狐禅のほうが戦いを好まないのに、戦い大好き酒呑童子のほうが控えめってなんなんだ。


 酒呑童子は「無視かよ」と走り去る男を見送りつつ、こちらに視線を向けた。


「お前軍から出てきたな」


 普通に話しかけられている。


 まぁ、酒呑童子がどういう存在か、私が一方的に知っているだけだし、そもそも酒呑童子がお姉様や皇龍清明様など、千年桜は恋と咲くの本編に関わりだしたのは、お姉様が覚醒した後のことだ。


 酒呑童子にとっては、私はモブ的な何かなのだろう。


「お前皇龍清明って知ってるか」


 私は頷いた。


 酒呑童子は皇龍清明様を探している。理由は簡単、皇龍清明様が強いからだ。ちなみに因縁はない。噂聞いて戦ってみたいと思っていただけ。要するに酒呑童子は面識ない存在の噂だけ聞いて探してる状態だ。


「どこにいるか知ってるか」


 私は首を横に振った。


「会ったことあるか」


 私は首を横に振る。


「そうかぁ、俺も全然会えねえからさぁ……軍にでも入ろうかと思ったんだけどよ、軍に入っても会えねえならいいか」


 どうやら酒吞童子は皇龍清明様に会うべく軍に入ろうとしていたらしい。


 最悪な気分だった。だって酒呑童子と同じ発想で私は軍に入ったから。お姉様をお守りする強さが欲しいのもあるけど、軍に入れば皇龍清明様に会えるかもしれないと思った。


 バトルジャンキーならぬバトルジャン鬼の酒呑童子と発想が同じ。


 戦いバカと同じ思考回路……。


「っていうかお前口が聞けねえのか、可哀そうだな」


 酒呑童子はドストレートに言ってくる。


 前世で、可哀そうだと思った人間に可哀そうと言う是非に関して議論が行われていた記憶があるが、ここまで直球で言われるとどうしていいか分からない。「可哀そうに……」と、落ち着いた感じで言われるならまだしも、運動部の挨拶みたいだった。


「でもお前口聞けねえのに、戦い挑んだのか」


 酒呑童子は私をじっと見る。「霊力なんにもねえのに、へぇ」とにやにやし始めた。


「強くなりてえのか」


 私は頷く。


「いいな、雑魚は雑魚でも強くなろうとする雑魚は好きだぜ、俺が稽古つけてやる」


 酒呑童子は不敵に笑った。


 普通に会話出来たので、ついつい返してしまったが、酒呑童子と稽古……?


 しかし今の私に刀は無い。


 そしてお姉様をお守りするためならば、正直手段を選ぶ気も無い。


 バレるまで酒呑童子を師として強くなるほうがいいのでは。


 私は長考の果て、頷いた。

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― 新着の感想 ―
酒呑童子、、、、すき 野狐禅、、、、、すき 死なないでほしいなぁ。 酒呑童子の単純さが好き、一貫性のある人って接しやすいし好き
末理ちゃん…ほんとおもしれー女すぎwww
「水社一心の顔が浮かんで、やめた。」ああ〜!!末理ちゃん一心くんのお顔が浮かんで辞めるの尊い…。 酒呑童子氏たまたまなんだろうけれど、ちょっとぶっきらぼうなだけで気の良い兄ちゃんみたいでかわよさがw。…
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