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絶対に許さない



3ページ目に改行ミスの誤字報告をくださった方へ

改行ミスです。本当にありがとうございました。


誤字報告してくださる読者の皆様へ

これ誤字かな? と思った部分は誤字です。

どうしても自分では気づきにくい部分があり、ノリにのってると見直しでもノッてきて加筆し漏れが発生するので、大変助かります。ありがとうございます。


「末理、声が出なくなったのか」


 お姉様がこの悪縁総本山に降臨賜れてから半月。和歌をサボりにサボり続けた結果、とうとう父が私の『声』に気づいた。全国の保護者が知ったら全員ひっくり返るだろう。私について「親不孝者」と考えていた人々も手のひらをかえすに違いない。世が世ならその在り方でネットニュースを飾れた男。我が父。「こういう男なんです」と宣伝カーで言いまわったあとに家に突っ込んでやりたいけど、この時代に無い。前世、免許も持ってなかったし。


 それに千年桜は恋と咲くの時代は、いわゆる昭和、大正、明治を混濁併せ持つ。こんな父でも「正しい」になる。世が世ならネットで絶対にズタズタにされているはずなのに。『父親が霊力至上主義で霊力のことしか考えず、私が声を出さなくなったことに半月くらい後に気づいたんですけど、これってどうなんですかね?』と質問サイトに投稿すれば確実に炎上が狙えるのに。前後の質問にさりげなく父親の特定につながりそうなことを仕込めば潰せるのに。時代がそれを阻んでくる。


「大変ねぇ、風邪でも拗らせてしまったのかしら~」


 正妻気取りの遠縁の女が言う。当たり前のように当主である父の横に座っているが、母親じゃないしお姉様を視界に入れないので私も視界に入れない。


「そろそろ術師に霊力を視てもらうか」


 父は遠縁の女に声をかけながら立ち上がる。


 私は定期的に霊力の検査をされている。健康診断みたいなものだ。小さい子相手なら「前回より数値上がってますね~」と成長具合を確認し、大人相手でがくっと霊力が下がっていたら「呪われてません?」と指摘して然る場所でお祓いを受ける。


 父は私の霊力の高さと自分の自己肯定感を直列繋ぎしているので、定期的に霊力を検査しているのだ。そして悦に入る。醜い。醜いオブザデッドです。


 嫌な予感がした。西に父親と私が行くのであれば、お姉様が女中と遠縁の女と一緒にこの屋敷にいるということになる。


 この半月。私はあの手この手でお姉様を嫌がらせから守ってきた。和歌以外、舞踊と三味線は師を招くので、お姉様に同席してもらい三人で学んだ。師はお姉様を懐疑的な目で見ていたが、自分の仕事にしか興味が無いのでお姉様を見下すまではしない。


 でも女中や遠縁の女は違う。特に遠縁の女に至っては、「無能だと大変じゃない?」「末理さんは霊力が強いから一緒にいて辛くならない? 霊力が無い無能だから」といちいちお姉様を下げる。そのためお姉様と遠縁の女が会わないよう画策していた。お姉様の心が傷つかないように。


「そうねぇ、花宵さんがおうちに来てから声が出なくなったのなら、呪いの可能性もあるでしょうし」


 遠縁の女がもっともらしいふうに言う。駄目だ。お姉様の顔を見ると傷ついた顔をしていた。違うと否定したいけど、庇わせているとお姉様が感じてしまうし、遠縁の女が何を言い出すかわからない。一度、術師に見せてお姉様の身の潔白を証明しなければいけなくなった。


 父親がいれば遠縁の女と女中のお姉様への嫌がらせは弱まる。父親がお姉様をどう思ってるか絶妙に理解してないふしがあるから。


でも父親はお姉様に手を出す可能性がある。


 粗悪な選択肢のなか、どれを選べば最良かではなく、痛みが少ないかを選ばなくてはいけない。


 打つ手のなさに喉の奥が詰まる。


 私を心配そうに見つめるお姉様を横目に、私は奥歯を噛み締めていた。



 術師のもとへは即日出立した。そこですべて視てもらったわけだが、結果は異常なし。父は「霊力が減退するといったことは」と、しっかり霊力について確認していた。父はそういう男である。娘の声が消えたことより「娘の声が消えた……霊力になにかあったら」というどこまでも霊力至上主義の思考しかしない。父は私の腕が吹き飛ぼうが片目を失おうが、霊力さえ高ければ問題ないのだ。逆を言えば霊力が低いとそれだけで駄目。勉学に優れていようと舞踊に長けていようと家畜以下と見下す。調子の良いことである。田んぼにでも落ちてしまえばいいのに。


「私は会合に戻る」


 父はそう言ってサッサと仕事に戻っていった。術師が「霊力に問題はありません」と言ったあたりから時計を見始めていたので分かりやすい限りである。私は父を見送り、父が遺した護衛と共に穢れた土地こと我が家に戻った。


 到着早々、私は護衛に無言で会釈ししを無視し、気配を消しながら早急に母屋に向かう。


 お姉様に何もありませんように。


 どうか無事でありますように。


 しかし、祈りは届かなかった。というか、前世込みで祈りが届いたことは一度もない。それをすっかり忘れていた。


「出来損ないの無能の分際で‼」

「枯賀を名乗るなんておこがましい」

「お前なんかいなくなってしまえばいいのに」


 激しい叱責が聞こえ、障子を壊す勢いで開く。


 ああ、遅かったのだと全身が凍り付いた。


 居間の中には、遠縁の女が笑みを浮かべて立っていた。その前には、土下座させられ、女中に髪を引っ張られながらも、頭を踏みつけられたお姉様の姿があった。床には生ごみがまき散らされている。被せられたのだろう。部屋中に腐敗臭が漂っていた。


「わかって……います」


 お姉様は震え声で呟いた。


「生まれてきて、申し訳ございません……」


 自分の存在を否定されてなお、誰も責めず詫びるお姉様。


「じゃあさっさと死んで頂戴。目障りなの。貴女みたいなのが娘なんて嫌で仕方ない」


 そんなお姉様に、まだ会って日も経っていないのに、どうして、そんな。


 私は怒りに任せ、拳を振り上げるが……やめた。今すべきことはお姉様を守ること。制裁ではない。 

 お姉様のもとへ突き進み、お姉様の頭を踏みつける女中を遠縁の女目掛けて突き飛ばすと、お姉様を無理やり立たせた。


「末理……さん」


 絶望に染まっていたお姉様の瞳が私を映す。一度強く抱きしめてから、その細い手首を握り、部屋から連れ出した。私は沐浴の準備をして、姉様を沐浴場に入れる。


「ま、待って末理さん、私……」


 お姉様は何か言おうとするが、扉を閉じた。今は一刻も早く身を清めたほうがいいし、かける言葉が無い。皇龍清明様じゃないから。というか私には励ましの言葉がない。励まされたことがないから。


 だからお姉様を勇気づけたり、元気を出す言葉を知らない。そういう意味で助けることはできない。


 ただ、ヒーローに出来ない方法で助けることはできる。


 物語が始まる前に。ヒーローが現れる前に。


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― 新着の感想 ―
好きな作品が長編になって帰って来たー------っ!!!!! 今日はケーキの日に決定ですね!!!!嬉しい(踊)
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