ひとりぼっちじゃない
私たち管理局は、早速輝宮寺の実家の調査に向かうことになった。
輝宮寺の屋敷は屯所からかなり離れた位置にあり、福野さんが富山局長の式神召喚を期待したが、普通に列車で行くことになった。
「福野お前弁当何個積んでんねや」
列車のボックス席で、私の隣に座る真原さんが眉間にしわを寄せる。その前には富山局長がいて、隣には福野さん。
廊下側が真原さんと富山局長。窓側が私と福野さんである。
「六とかじゃないですか?」
「お前普段の倍食うとんのちゃう?」
「季節限定、場所限定、期間限定、駅弁ってそれだけで、いいなって思いませんか」
「限度あるやろ。しかもお前、弁当の情緒やのうて、列車のこのよう分からん代表の犬猫に惹かれてんねやろ」
福野さんの弁当には、列車のマスコットキャラクターである犬と猫が描かれていた。どちらも制服を着ており手足が短い。真原さんの指摘に応えるように、ニヤァ……と福野さんは笑い、無言で弁当に描かれた犬猫を撫でた。「駅弁ってなんかいいよね」と笑みを浮かべる富山局長は、陶器に入った駅弁を食べていた。娘さんが容器を集めているらしい。
私と真原さんは、一番安いスタンダードタイプの駅弁を選んだ。いわゆる松花堂弁当というやつだ。弁当屋では松花堂弁当は特別枠だが、駅弁というくくりになると松花堂弁当はスタンダード枠に躍り出る。場所が変われば、評価も一変する。
三妖士のうちの一画、酒呑童子のような戦い至上主義のあやかしからすれば、相手の異能は関係がない。殴れば終わり、強い者が勝つ。水社一心の異能なんて脅威でも何でもないし、「次の手が読まれようが力で勝てばいい」理論でごり押しするだけだ。
しかし──野狐禅は違う。野狐禅は人に化ける。心を読まれたら終わる。心に干渉する能力を持つ人間は大抵その能力の貴重さから軍に入らず血筋を守ろうとする。あやかしのほうは、そもそも「精神に干渉する能力を持つ人間を根絶やしにしよう」と考えるほど知能があるあやかしは限られているし、そこまで頭が良ければ、そもそも関わらないという選択をする。
あやかしからすれば人間なんか面白半分で喰う、殺す、遊ぶ弱い相手だ。わざわざ駆除の手間がかかる、それも自分に率先して向かってこない虫を相手にしない。
しかし野狐禅だけは違う。あいつにとって水社一心は脅威だし、なにより水社一心が屯所にいる以上、対策を立てなければと考え、対抗策を編み出し誰かに化け……輝宮寺に化けこちらに接触してきた可能性がある。野狐禅は小説の中で、なるべく人を殺さないよう努めていたあやかしだ。理由は「人が好き」と博愛を気取っていたが本音は分からない。ただ、実際人を殺すというより人に化けて対立を煽ることが多く、特に皇龍清明様に近づきお姉様を揺さぶりに揺さぶっていた。
なので私的には死刑だが「三妖士の中で一番話通じそう」とも言われていた。対抗馬はキショシリアルキラーもどきサイコパスぶりっこジジイとイカレバトルジャンキーなので、その二体と比べれば大抵の人間は「話を通じる」に振り分けられる。
ただ、実際、水社一心を殺しにかかるようなイメージはない。水社一心を殺したところでまた新たな読心勢力が現れたら困るし、関わらずに対策しようと考えるタイプだ。
それに正直、水社一心対策が出来ているならばそれに越したことは無い。
どうしようもない脅威になっていたら消されるし、そもそもあいつは戦いの中にいていい人間じゃない。
水社一心には悪いがあやかし討伐で役に立ち殺されるくらいなら、役立たずで生きていてほしい。
こんなことになるなら角材で滅多打ちにするのは郷田じゃなく水社一心にすればよかった。
ということで集まりでは野狐禅が無関係というモノローグを捏造していたが、犯人は野狐禅っぽいし、野狐禅であれば水社一家は襲わない。それにこの調査状況だと水社家は屯所の監視下に置かれる。安全だ。ワンチャン皇龍清明様案件。
「輝宮寺の見合い相手て枯賀の姉さんなんやろ、大変やったなぁ」
弁当をつまんでいると真原さんが声をかけてきた。輝宮寺家に向かう前に配られた調査書類にはお姉様のことも書かれていた。なんなら写真も載っていたので顔バレもしている。
真原さんがお姉様に惚れるのは構わないが、物語上お姉様に惚れた男は、お姉様専属警備員になるかストーカーになって退治されるの二択。真原さんはなるべく退治したくないので正気でいてほしい。
私はゆっくり頷いた。
「霊力も能力もない中、怖い思いしたやろうけど、枯賀一緒におって良かったなぁ、なあ福野」
「確かに、枯賀的にもお姉さん的にも良かったでしょうね」
皇龍清明様がそばにいたなら安心感は絶大だけど、私がそばにいて安心になるだろうか……?
「どうだろうねえ、戦ってるところ見て、怖くなったりもしたんじゃないかな。こんな危ないことしてる……みたいな。僕らは戦う手段があるけど、お姉さんはそういう手段がないから、その分複雑かもしれない。人の家にあれこれ言うつもりないけど、妹さんのこと心配だろうし」
富山局長は一瞬私を見て、視線を落とす。
お姉様は小説で、自分には誰もいない。誰かに必要とされたいと願っていた。
役に立たない自分がそれを願っていいのか悩んでいた。
今、お姉様を思う人間は沢山いる。
福野さんや真原さん、富山局長とお姉様が会うということは、もれなくお姉様が軍に関わる……危険な目に遭うことに近いのであれだけど。
特別な能力に覚醒なんかしなくても、お姉様を心配したり、お姉様の気持ちを考えてくれる人はいっぱいいる。
それがお姉様に伝わればいいなぁと思う。
お姉様を想う人間が、私だけではないこと。
お姉様を大事に想う人間が、いっぱい、いっぱいいること。




