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悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第五章 お姉様を狙っていた見合い相手
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少女漫画産腹黒毒舌王子様

 水社一心に怪我をさせた過去を持つ郷田(ごうだ)に純然たる殺意を向けていると、十代くらいの小柄な男の人がガラッと部屋の扉を開け、入って来た。全員起立し、誰かが「礼」と声を上げ、一斉に頭を下げる。


「座ってください。そういうの嫌いなんで」


 男の人の言葉に、全員着席する。


「調査局……局長の伊能(いのう)と申します。我々の能力を異能と呼びますし響きも同じなので、無いとは思いますが、前後文脈の再考のほど、よろしくお願いいたします」


 ニコ……と柔和な笑みを浮かべる、軍服の上から白衣を羽織った少女漫画の王子様キャラみたいな人。


 小説に出てきたお姉様に惚れる男こと、調査局局長の伊能局長である。天才、テンプレートニコニコ腹黒敬語毒舌少年枠だ。見た目は中学生、高校生くらいだが年齢はたしか相模局長と同じ三十五歳。調査局と言うのは、端的に言えば検視官とか、刑事ドラマに出てくる科学的なキャラがいっぱいいるところで、死体から何か見つかったとかあやかしの成分を調べたらこれが見つかったとか、そういうのを担う局である。


 そういう局のトップである伊能局長は、レビューでは王子様キャラに舌打ちさせてギャップ萌えとはしゃぐ読者、舌打ちするようなキャラが果たして頭がいいのかという読者で、登場のたびにレビューを荒らしていた。そしてそういう隙間に、一切登場してない水社一心へのガチめのクレームが挟まっている。そういう地獄絵図で千年桜は恋と咲くは構成されていた。


「早速ですが、先日輝宮寺啓介という男の身柄を軍で拘束しました。罪状は……あやかしとの結託ですね。輝宮寺は低級のあやかしと結託して、見合い相手の拉致を企てた。その後、獄中で死亡が確認されました。病死です。この四行だけで不審な点がいくつかあるでしょう。君、答えてみてください」


 伊能局長が前の席に座っていた局員を指名する。


 局員は「えっと、獄中で殺されたことでしょうか」と答えた。


「不正解です。獄中で人間が死ぬことって結構あるんですよね。昔なんかは調査が軽んじられていましたから、自白させれば勝ちという訳の分からない結果主義者のせいで今まで何人の人間がずさんな調査で死んだか分からないんです。死んだほうがいいような奴は更生の余地があるだの言うくせにねえっ」


 ガァンッ


 と、伊能局長が傍にあった机を蹴り上げた。


 ニコニコ天然腹黒キャラで留まっていた小説とえらい違いだがみんな慣れた様子だった。こういうのにビクビクしそうな富山局長が「あちゃー」という顔をしている。


 小説ではお姉様視点で物語が進むし、コミカライズでもお姉様がメイン。読者はお姉様と出会った伊能局長しか見ない。つまり伊能局長は最初からこういう人なのだろう。お姉様が変えた……というよりは皇龍清明様がそばにいたし、抑えていたのかもしれない。


「正解は、あやかしと人は結託なんかできないということです。あいつらは節理が無く意思疎通も困難。先日討伐した猫又も、捕食本能ではなく殺人への興味で行動していた。にもかかわらず輝宮寺は見合い相手の拉致を行うまで、あやかしに殺されなかった、持病で死んだ。ある意味、持病で死ぬことが出来たともいえる」


 基本的にお姉様はあやかしに襲われる。そういうものと認識をしていたが確かにあやかしが人間に協力するなんて不可解だ。輝宮寺が人間に擬態したあやかしだったとしたら独房で輝宮寺が死んでることと辻褄が合わない。


「あやかしは気まぐれだ。輝宮寺との縁が切れたり飽きたら殺してるんですよ。それ以外の方法を知らない。なのに輝宮寺は牢で死ねた。おかしいんです。何か起きてる」


 伊能局長の声には確信が滲む。


 千年桜は恋と咲くでは人に化ける妖怪野狐禅がいるが、あいつはよほどのことがない限り誰かに擬態しない。なぜなら周りの人間にバレるからだ。野狐禅はオリキャラを作って介入してくる感じの擬態しかしない。擬態の為に戸籍も作るので、輝宮寺に化けていたとしたら、輝宮寺として獄中で死んでるのはおかしい。野狐禅がお姉様を狙うのはお姉様が覚醒してから、それもお姉様をお守りする皇龍清明様に心惹かれ誘惑しようとするのがスタート。何も覚醒してないお姉様を狙う道理が無く、お姉様を狙っていたとしても、あやかしを斬りつけた時点で正体を現わしお姉様を狙うはず。


 輝宮寺……シナリオ都合じゃないとしたら何であやかし従えてたの?


 というか完全には従えきれてないから獄舎で死んだ?


 でも病死で?


 獄舎でどうやって死ぬの?


 あやかし入り込んだってこと?


 入り込めるような上位のあやかしは、残りの三妖士である酒呑童子と野狐禅だが、酒呑童子はバトルジャンキーならぬバトルジャン鬼なので獄舎に入り込むのではなくドカンする。「突撃てめえと力試し」を地で行くから。野狐禅は「お姉様を守る皇龍清明様」に惚れない限りわざわざ屯所に介入しない。趣味人だから。


「さらにあやかしを利用しようとしていた人間の心を、水社家が読めなかった。これは大きな脅威だ」


 その言葉に、周囲はざわついた。


 千年桜は恋と咲くで、水社一心は軍に入らなかった。軍に入らなくても許されるくらい家が大きいからだ。心を読める能力は軍に必要だが水社家が潰れると困る。軍に入り跡継ぎが生まれる前に戦死でもされたらたまったものではない──というのが軍の意向だった。


 なのにあのアホは軍に入ってしまった。軍としても読心能力は欲しいので断らなかったが──。


「おかしいところだらけなんですよ。そもそも病気を持った人間が死ぬ間際に見合い相手と無理に結婚をしようと考えることも。あやかしが協力したことも、何もかも。そして調べたところ、西と東で同様の事例がいくつも発生していました。精神や相手を見透かす異能を持つ家への襲撃。中にはあやかしとの結託を見破られた例もありましたが、どれも被疑者は死亡しており、全員病死だった」


 ──つまり、と伊能局長が前を見据える。


「あやかしとの結託襲撃は実験であり、あやかし側が精神干渉系の異能を持つ人間への対抗策を模索している、ということです」


 ピロピロピロピロ。


 私は水社一心へのジャミングのために適当な言葉を思い浮かべる。こうでもしないとあのアホは美浜の娘の事件みたいに何をするか分からない。


「そのため、精神干渉系の能力を持つ人間およびその関係者を警備するとともに、大規模調査を実施、連続事件の裏にいるあやかしを特定し討伐してください」






 伊能局長より各局を班分けし、調査任務を割り振られていった。私たち管理局は輝宮寺の関係者──輝宮寺の実家に向かい聞き込み調査だ。各々調査に出発していこう、という所で伊能局長がゆっくりと富山局長に近づいて行った。


「ん? どした?」


 薄く笑う伊能局長に富山局長が困惑している。


「いや、富山局長、管理局に馴染んでいるなぁと思って」


 そう言って伊能局長はどこか安心した笑みを浮かべながら管理局の面々を見渡す。


「局長だからね?」


 富山局長は焦った顔で返す。


 多分伊能局長は褒めているのだろうが伝わっている感じがしない。


「……相模先輩がまた荒れそうですけど、ハハ」


 伊能局長は今度は少し、馬鹿にしたように笑う。


 相模──というのは水社一心のいる戦闘局の局長の名前だ。クール高圧神経質系の上司キャラである。皇龍清明様を人間らしくしたバージョンのクーデレとも言える。


 様子をうかがっていると福野さんが、「戦闘局時代、富山局長が上で、相模局長と伊能局長がついてまして」と小声で補足してくれた。


 じゃあ今、富山局長と真原さんと福野さんの三人組みたいな形式で、富山局長、相模局長伊能局長がついていたらしい。高圧系見下しクール後輩と柔和腹黒参謀キャラに挟まれる……しんどそうだ。


「な、なに相模くんが荒れるって、ど、どういうこと?」


「相模先輩は富山先輩が管理局で上手くいくのが許せないですからね」


「な、なんで……?」


 富山局長がオロオロしている。


「先輩に褒められたくて、追いつきたくて頑張った結果、出世争いで勝ってしまい先輩を地下に追いやって、先輩が自分に助けを求めてくれないかと、二次会のたびに咽び泣く……」


「二次会って何」


「局長同士の飲み会です」


「僕誘われてないよ……?」


 富山局長のオロオロが留まることを知らない。要するにハブられだ。可哀そう。でも娘がいるようだし……。


「娘さんがいるじゃないですか。赤子を誰にも預けず一人家に置いて飲み会に参加する親なんて生きてる価値ないでしょう」


 伊能局長が早口で言い放つ。心なしか『生きてる価値ない』の言い方が冷たかった。


「今年十六歳だよ……?」


「ええもうそんな大きいんですか……はぁ……えぇ……あらららら、え、じゃあもう七五三終わっちゃったじゃないですか」


「うん。無事終わったよ」


「はぁ~……」


 伊能局長は目を丸くした。腹黒参謀だけど驚き方が近所の人とか親戚のそれになっている。


「あと伊能くんさ、生きてる価値ないは、良くないよ。色んな家があるしさ……それに言葉……言葉は言霊が宿るから軍で気を付けようって話じゃない。一応、元上司として、言うけど……」


「でも、自白させればとか検挙数競う冤罪量産型結果主義と子供置いて飲み歩くカスに生きてる価値はないですからね。生贄に利用するにせよ、生贄肯定に繋がりかねないですし、生きてる価値ない」


 ニッコリと伊能局長は笑う。


「富山局長の下で働くのはどうです?」


 伊能局長の矛先が突如こちらに向いた。真原さんが「勉強させてもらってます」と訛りをなるべく廃して応える。さらに「枯賀も福野も同じです、な」とこちらが喋らなくてもいいようにしてくれた。福野さんは会釈のみで返す。多分……これもこちらへの配慮だろう。私は二人に感謝しながら同じように会釈した。


「彼女の異能は把握しています。管理局や保管局だと……知らされませんが、戦闘局や調査局は局員の異能を把握している。喋らずとも不敬にはしません。ただ──ある程度発しておかないと、いざ使う時、相当な規模になるはずです。自分の身を滅ぼしかねない。きちんと管理するように」


 ピロピロピロピロ。


 私は水社一心対策のジャミングを行う。正直、あやかしがしていたであろう異能のジャミングは私も欲しい。もう秋になる。さっきはお風呂どうこうについて思っていたけど、


 千年桜は恋と咲くは文庫一冊。およそ十二万字、ページ数は約三百ページ。だいたい三分の二の地点だし物語ではざまぁ展開も終盤だ。あとはクソみたいな枯賀家もろとも枯賀末理がざまぁされれば済むのに、現実はコミカライズ1話にも至らない。縁談がないから。和風シンデレラ、政略結婚から始まる話なのにまずそこで躓いている。


「それでですが、管理局には輝宮寺の身辺を再度洗っていただきます」


「もう調査局が輝宮寺について調べたんじゃないの?」


 富山局長が伊能局長に突っ込む。富山局長は相模局長にはどこか怯えた様子だったが、伊能局長とは比較的親しげだ。伊能局長も富山局長を先輩と呼んでいたし。


「調べましたよ? 容疑者の輝宮寺啓介に関して。でも、さっきの事件説明の時に配った書類にあるとおり、何も証拠が出なかった」


 伊能局長は視線を落とす。


 先ほど配られた調査書類には、輝宮寺啓介が親と離れた後にあやかしを招いたこと、輝宮寺夫妻があやかしを操れる異能や霊力を持たないことが立証されていた。水社一心や水社家のほか、お姉様についても書かれていたが、白黒写真がのせられたのは容疑者の輝宮寺啓介のみで、お姉様の顔写真は無かった。皇龍清明様が運命を感じる力が写真にも適用されるか分からないが、中々複雑だ。こんなことでお姉様の顔は晒されたくないし、かといって皇龍清明様との運命を繋ぐことに手段なんか選んでいられないし。


「根拠ないことで強引な調査も出来ませんから。でも、西と東で連続して事件が起きていると分かった今、ある程度強引な調査も可能ですから。もう一度一から調べなおせる」


「……怒られない?」


「怒られないように、根拠を揃えたんですよ。輝宮寺はいいとこのお坊ちゃんです。家も腐ってて、人命がかかると言っているのにあまりにも調査に非協力的だった。今度こそ、完全な調査を行う。ただ、僕や調査局が出ると角が立ちますからね、管理局にお願いしたくて」


「角が立つ……まぁ確かに……角が立つっていうか……伊能くん、暴言」


 富山局長の言葉に、伊能局長はニッコリ笑みを浮かべた。小説の中では腹黒でとどまっていたが、あれはお姉様や皇龍清明様が傍にいたからであり、実際は違うらしい。


 人は人によって態度を変えるものだ。人を選んで舐めた態度で接するなんて言語道断だけど、お姉様の前でこう、「生きてる価値ない」みたいな強い言葉を発していたらお姉様の自己卑下トリガーに触れるし……人によって態度が違うことそのものは、誰にでもあるものなのかもしれない。


 皇龍清明様は誰に対しても平等に「生きてる自分より弱い何か」で、お姉様だけ「守る必要はないかもしれないが守りたい相手」で見ていたし。


 小説やお姉様フィルターで見る水社一心と、屯所の人間が見ている水社一心も、同じように違う。


 それは多分、あやかしも。

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― 新着の感想 ―
思ってたよりも事態が深刻そうでマジか〜〜!みんな頑張れ。 局長3人の関係が意外にめちゃかわよ微笑ましい感じでにこにこしてしまいました。咽び泣いてるのかw。伊能局長軍で色々見てそうだから思わず言ってしま…
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