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悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第四章 お姉様を助けてくれた水社家
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尊重でも謙遜でもなく自分のこと守ってるだけだ

 私は空に向かい手を伸ばす。


 ぼちぼち慣れてきた感触が掌に宿る。


 刀だ。やっぱり飛んできた。飛んでこなかったらどうしようかと思った。


「狙いは姉だ。妹は殺せ」


 わーい‼ やったー‼


 お姉様を殺せとか言われたら気が気ではない。全然もう、私を狙ってくれるなら助かる。助かりんぼです。軍人を狙うと国に背いた人間として刑が重くなる時代なので、私を止めるものがない。全然本当に私は正気ではないのでガンガン行きます。


 そばにいた男が胸ぐらを掴んできたので、そのままの勢いを利用して頭突きをする。ライフハックです。大抵の人間は暴行時、自分より小柄な相手に対して胸ぐらを掴む。殴りやすいようにだ。身長差があるとパンチが顔に入らないので調整を行う。そこまで男が考えているかは別だけど。その時、相手は自分のほうへ引き寄せようとするので、その勢いのまま頭突き。振りかぶってる利き腕の関節部分を狙い鞘に納めたままの刀で突く。


 そして集団戦において、誰かが胸ぐらを掴むと周りの人間は一発殴られふらついた相手を掴もうとフォロー体制に入る。しかしここで一発目が入らないとパニックになる。集団なんてそんなものである。予想通りに事が起きるから集まって見えるだけで結束力はモノによる。ということで私は初手失敗で途端に混乱が始まった男たちを鞘から刀を引きぬき、鞘でぶん殴った。


 ついでにこちらに向かってきたあやかしを刀で斬り伏せる。今回はいわゆる雑魚あやかしだ。千年桜は恋と咲くでは、ビジュアルが都度違う大型のあやかしやキモクソ猫又みたいなあやかしのほかに、こういう量産型雑魚がいる。


 人型あやかしと共に登場したり「街にあやかしがでたぞー」みたいな軽度戦闘で現れたり、物語的には盛り上げ要因だが普通に人を殺すので実害がある。排除です。


 私は刀のほうであやかしを斬り伏せ、鞘で人間を殴る。刀で人間を斬ってしまうと、血がブシャアするのでお姉様に見せられない。それだけの理由だ。


「道徳‼」


 戦っていると水社一心が乱入してきた。どうやら茶寮の前で潰した男たちを引き渡したらしい。あやかしの気配を察知してやってきたのだろう。


「乱入じゃなく助太刀だ‼」


 こんなの別に私だけでどうとでもできる。


「殺しかねないだろう」


 そう言いながら水社一心は水で出来たレーザービームみたいなものを放ち、男を昏倒させる。あやかしはビームで切り裂いてるので出力調整しているらしい。


 お姉様に少しでも水がかかったらズタズタにしてやるからな。


「お前なぁ……本当にもうっ……お前の心の中、軍の人間全員に聞かせてやりたいよ」


 水社一心は歯を食いしばりながらあやかしを水流で切り裂く。めちゃくちゃ苛立ってんじゃん。


 それに私の心の中なんていつもスピーカーみたいにお前が垂れ流してんだろ。


「俺がいない時、お前は黙って仏頂面してるだけだろうが。軍の中で誰とも付き合わず、お姉様もいない中で余計表情死んでるんだから」


 確かにそうだ。お姉様もいないのにひとりでに笑ってたらキモいだろうが。


「お前お姉様がそばにいても大して感情外に出てないからな‼」


 当たり前だ。なるべく出さないようにしている。だって確実にキモいから。鼻の下伸ばしてデレデレしてるだろうし。私はお姉様を見る時、なるべくすべての感情を廃している。皇龍清明様の場合は表情筋が死んでる、顔に出ないタイプだが私の場合はすんごい努力して表情を殺しているのだ。特に枯賀末理はコミカライズにおいて「顔芸」と揶揄されるくらい、お姉様を陥れる時のヤバ顔と悔しがるヤバ顔のレパートリーがとんでもない量あったのだから。そんな恵まれた表情筋で私がでれでれしたらもう、見せられない。絶対に嫌われる。いや、これはワガママだ。お姉様は他人の表情がいかにド変態フェイスであろうと軽蔑しない。「楽しそう」とか明後日の解釈をする。私が見せたくないだけだ。これは私の弱さ──、

「弱いも何も皇龍様と同じになってるんだよ‼」


 え?


 皇龍様と同じって何?


 私は男を殴りつけ水社一心に振り返る。隙だと解釈した敵が殴りかかってきたが躱した。甘い。馬鹿め。そのまま襲い掛かろうとすれば攻撃する前に水社一心が水流で敵を討つ。


「お前のその頓珍漢な内面なんか誰も分かってないんだから、お前軍の中でなんて呼ばれてるか知ってるか?」


 枯賀二等兵だろ。


「そうだが‼ 馬鹿ッ‼ 本当に……ッ」


 水社一心は八つ当たりするみたいに男たちが落とした木の棒を剣術の構えで討つ。


「静粛の修羅って‼ 呼ばれてるんだ」


 なにその二つ名。裁判カンカンじゃん。


「お前がずーっと黙ってるから、冷静、冷酷、怜悧、って、好き勝手言われてるんだよ」


 めちゃくちゃ皇龍清明様とキャラ被ってる。っていうかそういうの水社一心の所属してる退妖対実地戦闘局の相模局長にも重なってるじゃん。どうすんの? クール大渋滞じゃん。


「お前の内心知らなければ普通そうなるんだ‼ 今日だってお姉様が心配で見合いまで付け回してるなんて知らないから!」


 水社一心のツッコミに熱が入る。これでお姉様に付きまといしてることバレたらお前が軍で食事する時必ず味噌汁の上澄みすすってやるからな。原作にはそういう描写いっさいなかったけど知ってんだからなこっちは。軍でも必ず上澄みから飲んで、混ざってるとわざわざ上澄みできるまで待ってから飲んでるの。


 ったくもう。お姉様は自分の好意が聞こえない呪いにかかっているから、水社一心のビッグボイスも聞こえないから良かったものを。今戦闘中だし。でも一応念のため確認しよう。そう思って振り返ると──、

「末理さん……」


 がっつり聞こえていたらしい。


「心配してくれていたの……?」


 私は頷き、お姉様と私の見つめ合う瞬間を邪魔してきたあやかしを斬り伏せながら再度うなずく。


「顔に出ないようにしてるだけです。軍でも喋ってないです! 誰とも‼ 軍に入ってもこいつは成長してません‼ 何も変わってないんです‼」


 水社一心が援護しながら補足してきた。このパターン。水社家に居候することになった直前を思い出す。


 また私の不用意なあれこれでお姉様が……?

 もう切腹では。


 私は男たちを殴りつけながらあやかしを刀で貫く。悲しみにくれながら目の前の男の股間を蹴り上げようとすれば水社一心が男を水流で攻撃し倒した。手出しやがって。


「お前が下品なことしようとしてるからだろ! ったく、お前は周囲の人間の気持ちを考えたらどうだ」


 お姉様の未来を案ずるので忙しい。


「その結果お姉様を悩ませてるんだろうが‼ 少しは表情で伝えるなりしろ‼ お姉様大好き大臣とか言ってる暇あるならそれを行動とか表情で出せって言ってるんだ‼」


 行動とか表情って言っても……それの為の贈り物をしているし……。


「分からないんだよ‼ 贈り物だけで好きかどうかなんて贈り物するのが好きな人間だっているだろう‼ お前みたいな考え方する人間だけじゃないんだ世界は‼」


 なんでこんな偏見の塊みたいな人間に多様性を問われているのだろう。私は首をかしげながら襲い掛かってくる男をねじ伏せる。


 言っておくが、私がたとえ喋るようになったとしても、そういうのは心の中で留め声には出さないぞ。


「はぁ⁉」


 水社一心があやかしの攻撃を避けつつ、私をバケモノを見る目で見てきた。あやかしまだいるだろ。何で私をそんな目で見るんだ。私は水社一心に襲い掛かろうとするあやかしを刀で斬り伏せる。


 私はたとえ私の想いを口にできるようになったとしても、お姉様にそれを言うことは無い。引かれたくないし、お姉様のお心を煩わせてしまうのも嫌だし、言うのも軽くなる気がして。


「お前は本当に……ッ」


 水社一心は私の背後の敵を水流で切り伏せる。そのせいでお留守の水社一心の背後のあやかしを私は斬り伏せた。


 残りは何もしてない輝宮寺である。お姉様は私のせいで見合いをすることになったっぽいけど、それはそれとして、あやかしに頼ったり破落戸を用意してお姉様に近づこうとするほどお姉様を欲する気持ちは満点だが実行した卑怯さは有罪だ。よって死刑。


 私は思い切り刀の鞘を輝宮寺の顔面目掛けぶん投げた。ヘッドショット満点です。


「お前も大して変わらないだろ」


 はーい。地獄に落ちるんで大丈夫でーす。全然もう、天国とか興味ないんで。だから私はもうお姉様を幸せにするためには手段選ばないけど、お姉様を欲して手段選ばない人間を許さない人間なので、矛盾を抱えて生きていくので、開き直って生きていくので。


「許されないだろ」


 全然大丈夫です。お姉様は「駄目な姉でも許してくれる?」と気にかけてくれたし、他者を尊重していたけど、私は許されずとも生きていくというスタンスだ。


 とはいえ。


 私は水社一心がすべての敵を水の玉に閉じ込めたのを確認してから爆速でお姉様に土下座した。


「どうしてッ待ってッ末理さん……! 顔を上げて」


 お姉様はパニックになっている。


 まーた私は無言のせいでお姉様に変な誤解をかけてしまった。なのでもう詫びです。


 本当にもう、何度謝罪していいか分からない。地面に額をずりずりこすりつけていると、背後で水社一心が「言わなきゃ伝わらない」と、静かに警告してくる。


 そんなことは分かっている。でも、言えない。言わない。


「なら、その分、行動しろ」


 は?

「三年眠り続けた後にすぐやっただろ、お前は」


 抱きしめろって言ってる?


 今、土下座して汚いんですけど⁉


「いつまでも俺が隣で伝言し続けると思ったら大間違いだからな。それに、秘すれば花というが黙れば黙るほど相手がお前のことを汲み取ろうと苦労してるんだ。その分お前は恥をかけ、申し訳ないだの畏れ多いだの言うが、そんなもの尊重でも謙遜でもなく自分のこと守ってるだけだ。言葉以外でもいくらでも気持ちは伝えられるんだから、喋れない分、なんとかしろ、手抜くな。今のお姉様の顔見てみろ」


 様子を伺うと、お姉様は悲痛そうな面持ちで私を見ていた。


 土下座嫌だった……?

「当たり前だろ、好きな人間にやらかされても土下座なんてされたくない、そもそもお姉様は土下座喜ぶ人間じゃないだろ、お前のしたいことのためにお姉様の受け取り方を捻じ曲げて実行してるんだよ」


 そう言われるとぐうの音も出ない。


 私はおそるおそる立ち上がった。


 お姉様はオロオロしている。水社一心に振り返ると、奴は顎だけ動かした。


 えーでも私、土埃ついてるし乱闘したばっかりだし。


「正直にならないと、俺は、今後一切、お前の気持ちをお前のお姉様に伝えない。お前のお姉様がどんなに悩んで見合いを受けようとも、見合い相手がどんな卑劣漢であろうとお前に言わないからな」


 ごめんなさい。なんでもします。何でもしますから教えてください。一心様。ははーっ。


「さっさとしろ。自分の気持ちに正直になれ」


 私は思い切ってお姉様を抱きしめた。するとお姉様はギョッと身体を強張らせた。死のう。駄目じゃん。怖がらせたじゃん。すぐに身体を放そうとすればお姉様からガッと抱きしめ返された。びっくりした。かなりお強い。どっからそんな力出てるの?


 ぎゅうっとお姉様は私を抱きしめる。私は手の置き場に迷いながら、同じように抱きしめ返した。




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― 新着の感想 ―
戦いながら味方同士で会話するシチュエーション大好きです! 味噌汁を飲む時の癖を知ってるの、末理ちゃんも一心のことを見てるのが分かって笑顔になってしまう いつも一心に素直になるように促してたのが、立場…
本当に楽しませて頂いてます! 毎日、続きが楽しみすぎて、この連載を読むために生まれてきたのでは…?と真剣に検討しています。 短編も、50回くらいお代わりして繰り返し読んで、結末を知っていて猶毎回新鮮に…
末理ちゃんから良いライフハックを教えて貰ったから、いつか(ん?)使おうと思いました。(日記)
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