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悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第四章 お姉様を助けてくれた水社家
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駄目な姉でも

 お姉様がダッシュでその場を離れ向かう先には規則性がある。


 その後、連れ去られるときは、暗くて細い路地。


 その後、風邪を引いたりして寝込む場合は大雨の往路。


 そうでないときは景色の見下ろせる高台だ。必ず行きつく先は映えスポットである。


 今日は晴れ、往路にはいないと踏んだ私は、暗くて細い路地を通過しながら街で一番の高台を目指した。この町には小高い丘の上に公園があり、夏の薔薇が咲き誇る映えスポットがあるので十中八九そこ。私の予想は的中しており、お姉様は薔薇の見える公園のベンチに座っていた。


 こういう時、皇龍清明様は「花宵」と後ろから名前を呼ぶ。突然横に座ったりしない。嫌がられたり怖がられないように努めているから。基本的に皇龍清明様はお姉様に近づかない。じっと見てる。皇龍清明様的には「生きてて嬉しい」とお姉様を見てるわけだが、無言でじっと見てるせいで死ぬほど誤解される。人形のように美しいと称されている皇龍清明様であるが、大多数の少女は日本人形に凝視され、自分を好いているとは思わないだろう。結果、お姉様から、「皇龍清明様は私のことが嫌い」と誤解を生み続ける。皇龍清明様のお姉様への矢印は触れない近づけない傷つけたくないで構成されているのに。


 私はしばらく悩んだあと、お姉様の背後に立った。


 声かけられないし目の前に立ったら威圧的だし横に座るのも畏れ多い。実のところ縁側で水社一心を加え三人で座ったときは、お姉様が座っていたのを後ろから三十分ほど見ていたら私の後ろから水社一心が「座れよ落ち着きがない」と叱ってきて、お姉様が横にずれてくださりそこに着席、お姉様の「一心さんも」の一声でああなった。


「末理さんっ」


 お姉様の背後に立ち続けていると、ふいにお姉様がこちらに振り返った。そうです。貴女の忠実なるしもべでございます。


「す、座って……、い、いつから後ろに……」


 それはもうずっと前からですよ、と応えられずに私はお姉様の前の地べたに座ろうとして止められ横に座る。


「ごめんなさい、大きい声を出してしまって……さっき……」


 お姉様は申し訳なさそうに謝罪する。視線の置き場がなくどうしていいかわからない貴女もcute。


 私は手のひらをお姉様に向け、首を横に振る。漫画みたいなそぶりだが漫画みたいなそぶりをしないと意志が伝わらないし、視覚情報命のコミュニケーションをしているため、漫画表現で生きていく。


「……私、駄目ね」


 お姉様は遠くの景色を眺める。私はお姉様の目の前に立ち大きくバツを作った。


 お姉様は駄目なんかじゃない。しかしお姉様は私をじっと見つめた。


「私ね、多分、今までなら……貴女は私を駄目だと思ってるって、考えていた。でも、多分……違う……?」


 お姉様はおそるおそる問いかけてくる。私は自分を指さし、お姉様をキラキラさせるジェスチャーをした。するとお姉様は申し訳なさそうな顔をして、少し何かを言おうとしては黙って──口を開いた。


「私、怖いの、多分、信じることが……」


 え?

 お姉様は小説で「愛されることが怖いのかもしれない」みたいなことを言っていた。自分には愛される資格なんて無いし、自分には愛せるところが何もないのに、愛をもらっていいのかと。皇龍清明様は「分からない」「私はお前を納得させられないかもしれない」「お前を愛することをやめられはしない」「だから許してほしい」と言って、双方の主張をぶつける形で終わった。綺麗な解決にはなってないだろうけど、二人らしいものだった。


 が、「信じるのが怖い」は初だ。


「貴女は、私を守ってくれた。でも、私の都合のいいように見えているんじゃないかって怖くなる。貴女がただ優しいのを、私が勘違いしてるだけなんじゃないかって……。貴女が言葉を持たないことを、勝手に、自分の都合のいいようにしているんじゃないかって」


 お姉様は言う。


 前に水社一心が自分の都合のいい解釈をしている可能性もあると自分の読心能力を疑っていた。


 お姉様は、私を通じて自分の視界を疑っていたらしい。


 そうさせたのは自分だ。私が何も言わないから。でも、私は行動で示すことしかできない。それが、お姉様を苦しめると分かっていても。


 私はしばらく悩んだ後、お姉様がベンチに置いている手とベンチの隙間に、自分の手を入れた。


 お姉様の手を勝手に握るのも申し訳ないし、お姉様の手を握るのは皇龍清明様の役目だし、私が踏み込み過ぎて──お姉様の幸せを邪魔したくない。


「私、お見合いで……なんとか、役に立とうと思ったの。見合いをして一人前になれたら、迷惑をかけずに済むんじゃないかって。貴女は、軍に入ってどんどん立派になっていく。私も自立しなきゃって」


 お姉様は呟く。


 これが、お姉様の、見合いの理由──。


 私が軍に入り、焦って見合いを受けたということだ。私はすぐに手で大きくバツを作った。ブンブン首を横に振り、大きくバツを描く。


 結婚は自立のためにするものじゃない。幸せになるためにするものだ。それも相手に幸せにしてもらうとかじゃなく、相手が一人で死んでいくのが嫌とか、相手を幸せにしたい、相手が汚くなっても結婚したいと思える相手とするものだ。だって最終的に結婚のゴールって火葬だし。相手が骨になってそれをスコップみたいな鉄金属ですくって大事にできる権利を得たいと思えるかだ。相手が一人でいるのが好きでも勝手に一人ぼっちになってほしくないという我儘を言いたい相手とするものだ。そんな結婚してないから自立してないとかそういうのは違う。カスみたいな時代を生きていくために共犯になるための結婚もありだろうけど、とにかく自立のために結婚しなきゃは危ない。変な奴とか悪人に利用されちゃうよお姉様駄目です。


 貴女は貴女が結婚したくなった相手と結婚してほしい。


 そばにいたいと思った相手と結婚してほしい。


 自分なんかと自分を否定していてもそれでもなお結婚したいと思う相手と籍を一緒にしてくれ。


 私は何度もバツを作る。お姉様は私を見つめ、何故か切なそうに顔を歪めた。


「私……お見合い断ってもいい?」


 私は口角を上げ丸を作った。全然、相手が文句言ってきたら殺してもいいです。私全然、山とかに埋めます。明日から死体を山に埋める練習する。人間ブルドーザーとして命名されるくらい穴掘りうまくなる。


「駄目な姉でも、許してくれる……?」


 許すも何もお姉様はそのままで花丸です。それに駄目な姉って絶妙に二十代から三十代の厄介な変態の男を刺激しそうで、ちょっと言葉変えたほうがいいかもしれないですお姉様。そういうので刺激される男は多分お姉様に踏まれたいとか思うどうしようもない変態なので。私は前世込みで男じゃないけど、そういうものだから分かる。お姉様は心の優しさから変態の性癖を受け入れそうで駄目。駄目です。変態は許しません。変態はメッ。


 ただ、私は空中に花丸を描いた。


 どんなお姉様もお姉様だ。世間一般で駄目でも、お姉様はお姉様。全部好きだし、常時満点じゃなくてマイナス得点をしていようが、お姉様はお姉様。評価に上下はない。比較も測定も出来ない位置に、お姉様がいる。


「……ありがとう」


 どうやら気持ちは少し伝わったらしい。お姉様は笑みを浮かべた。でもちょっと泣いてる。お姉様の水分がお姉様から出てしまった。地面にぽたっと落ちた。いずれここから神木が。


「お見合いを断られるのは困りますねぇ──せっかく水社との縁が結べるというのに、姉妹愛で台無しにされては困ります」


 悪役ムーヴ全開の輝宮寺が現れた。しかも茶寮で叩き潰した男と似たような輩を引き連れている。数は十五人くらいか。全員刀や棍棒など、分かりやすく武装していた。しょぼい。私からお姉様を攫いたいならもう少し桁を変えてもらわないとお話にならないんですけどねえ。


「花宵さんの為に、たくさんの演者も用意したんですよ。すべて無駄になってしまう」

「ど、どういうことですかッ……」

「貴方にいいところを見せようと思ってね」


 フン、と輝宮寺は微笑む。


 お姉様あるあるとして、その場を離れたお姉様の行きつく先は映えスポットもあるが、他にも、お姉様に近づく男はお姉様専属ナイト進化もしくはクズの極端二択説がある。ようするにお姉様の味方になるか、シナリオ盛り上げ要因で小悪党としてあっけなく散るかで、輝宮寺は後者だったということだ。


 でも何で水社一心が読んでないんだろう。こんなゴミみたいなの水社一心レーダーで一発で分かるだろ。あいつまさか私のことハメたのか……?

 お姉様の真意を私が聞けるように……みたいな。さっきも聞かなくても分かるような「どうしてここに」みたいな質問をお姉様にわざわざしていたし。私に対する問答の精度からして、あいつの能力に何かあったとも思えない。


 それに皇龍清明様が未登場なのでまだお姉様は特別な霊力に目覚めてない。


 厄介な男が飛んでくることに疑問を抱かなくもないが、甘い蜜を抱える花に虫が近づくのは必然。排除します。


 私はお姉様を庇いながら立つ。


「貴女の実力は先ほど確認したばかりですが──これはどうでしょうね」


 輝宮寺はパチン、と指を鳴らした。すると男たちの背後からあやかしが姿を現した。


「末理さん……」


 お姉様は不安そうに私を呼ぶ。私はお姉様を安心させるため口角を上げた。


 輝宮寺は犯罪者確定だ。私がただただ輝宮寺が気に入らないという身内のお家騒動から、帝都退妖軍案件にランクアップ。つまり、刀の解禁だ。



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― 新着の感想 ―
結婚の行き着く先は火葬! はっ!たしかにー! いや一般論ではないかと思いますが、なんかみょーに納得してしまった笑 つらつらと語られる心の声が面白すぎて、毎日更新されるの楽しみです♪
お姉様〜!、そういうのありますよね…。自分の都合のいいように見えているんじゃないか怖くなるのありますよね…。末理ちゃの結婚観本当それ!!すぎて高速で頷いてしまいました。お姉様そうですよ!!ダメです搾取…
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