表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第四章 お姉様を助けてくれた水社家
35/53

付き纏いでも傍にいる

 風呂場で付き纏われるようになり──盆休暇の前日。


 あらかじめ有休をとっていた私は、朝早くに屯所を出た。


 今日、お姉様への贈り物をする。水社一心のお中元もだ。


 元々私の給料は半額はお姉様名義の口座に積み立てており、半額を水社に送金している。しかしこういう節目も大事にするため、ボーナスはこちらに使う。


 澄み渡る青空。


 だというのに。


「なんだ」


 真横に水社一心がいた。


 ここまでくると付き纏いだろ。なんなんだよこいつは。睨みつけると水社一心はこちらを馬鹿にするように笑った。


「付き纏いか」


 そう。付き纏いだ。沐浴の時間も合わせて外出の時間も合わせるとなるとある種、狂気である。なのに水社一心は「そう思うならそうなんじゃないか」と適当に返してきた。


 否定すらしない。通報しよう。軍に密告だ。


「したいならすればいい。でも俺が先に軍をやめるようなことがあれば、俺は、お前が俺の部下を滅多打ちにしたことを上申する。そうしたら……どうなるか考えてみればいい」


 最悪のシンキングタイムじゃん。お前おかしいよ。


「俺のお前への付き纏いは、自分の部下を攻撃された真意を追求するためだと言える。実際の意図はどうあれだ。俺は処分されない。お前だけ除隊処分になる。それでいいなら通報すればいい。俺はそれのほうがいいくらいだ」


 水社一心は処分勧告を読み上げるかのように言う。


「お前は、お前のしたことで首を絞められてるだけだからな」


 いやどう考えてもお前が締めてるだろ。罠に嵌めてるというか。


「お前が俺の部下を滅多打ちにしなければよかっただけのことだ。余計なことして」


 水社一心は横目でにらんできた。部下を攻撃した人間のことなんて放っておけよ。


「攻撃したからこそ危険人物として監視してる」


 ああ言えばこう言うの権化だ。屁理屈ばっかり言いやがって。


「というか、今日は刀持ってないんだな」


 水社一心に呆れていると、話題をすり替えてきた。まだ水社一心付き纏い問題が未解決なのに。


 そして私は、今日は刀を持ってない。休みだし、今日私は軍服ではなく私服なので、刀なんか持ち歩いていたら町の人間がびっくりしちゃうからだ。この世界の文明は、前世で言う明治大正昭和のごった煮となっている。理由は霊力や異能の存在で、特に火力・電気系統の発展に変化が生じているからだ。同時にあやかしがいることで、前世で言う廃刀令こと「刀持ち歩きはダメですよ」といった法の整備はされていないが、あやかしは帝都退妖軍に任せたほうがいいという常識のほか、軍に入ってない自警団的存在を偽り無法するアホもいるので、軍服なしで持ってると若干気まずいのである。それにあの刀は、意思疎通出来ない割に自我あるし。


「一生どっかに置いてろ。刀なんかいらない」


 刀はいる。お姉様をお守りするために。


 皇龍清明様が現れたら……捨てるけど。


「ならさっさと会えるようにしないとな」


 水社一心は言う。こいつ軍に入ってすぐの頃は会えないって言ってたくせに。


 なんだこいつは。私は水社一心を無視するように進むが、奴は半歩遅れ気味に私についてくるのだった。


 目的地は、最近町で流行っている洋菓子だ。


 理由は皇龍清明様と被らないようにしたいから。


 彼もお姉様も慎ましいお方なので、皇龍清明様は自分の贈り物が誰かと被ったら気まずくなるし、お姉様もまた、私と皇龍清明様の両方に気を遣われてしまう。


 だから皇龍清明様が絶対に贈らないものをお姉様にお贈りするのである。


 私はお姉様が喜ぶ姿を思い浮かべながら、お盆直前、帰省手土産を求める人々でごった返す人ごみを歩く。人が多いところなんて大嫌いだが、お姉様への贈り物を買うというだけでなんだかとても美しい景色に見える。道行く人々がみなお姉様だと思えば、ぶつかられても腹は立たない。


 いや、今後、お姉様が歩いてる時ぶつかってくる可能性もある。殺したほうがいいかもしれない。


 でも今日はやめておこう。お姉様への贈り物を血染めにしてはならないし。


 皇龍清明様が贈らず、それでいてお姉様が喜ぶ素敵なもの探しを──、


「皇龍清明様が贈らないものなんて分かるのか?」


 心の中ではスキップしているつもりで歩いていれば、さっきから無断で併走してくる付き纏いが水を差してきた。


 皇龍清明様の贈らないものは分かる。


 あの人がこういう俗世の塊みたいなところに出没するのはお姉様に出会ってからだ。千年前から生きてるが、千年前にお姉様を弔ってからというもの、あの人がいるのは軍の屯所、千年前にお姉様と出会った桜の木のそば……は無理やり皇龍清明様しか入れない場所に土地ごとワープさせていて、そこの謎空間と、自分の屋敷。あとは強いあやかしが出る場所しかない。引きこもるか、ロケットで宇宙へ行くかの二択みたいな生活をしている。


 千年生きてるわりに俗世の健康な五歳児より外に出てる時間が少ないのである。あやかしも秒殺だし。なので俗世の知識が少ないし、そもそも感覚が人外寄り。お姉様に喜んでもらいたいけど、何が嬉しいのか分からないから、とりあえず一番高いものなら一番いいものだろうという直感的な発想をする。


 ようするに、「一番高いの以外」を私が選ぶ。あと、お姉様が「自分なんか……」と思って気後れする派手めのものだ。千年桜は恋と咲くでは、一応枯賀末理──私は派手で生きている。お姉様はそんな妹を羨ましく感じていたので、巷で話題の映え菓子を買うのだ。


「なんだ映え菓子って」


 水社一心は面倒くさそうだ。なんだこいつは。お姉様を好きな癖に。お姉様を好きなあまり物語では私に求婚してゴミみたいな結婚生活を送るのに。というかお前はお姉様に贈らなくていいのかよ。


「お前が贈るんだからいいだろ別に」


 効率厨かよ。贈り物に効率求めた時点で人は終わりだぞ。可哀そうに、軍で情緒擦り切れてるのかしら。贈り物に割愛という概念は無い。あの人はたくさんもらってるから自分の分はいらないだろうと思うのは、他の人と比較されたくない逃げだ。なんなら私が選ぶのを手伝っても構わない。


「いい。渡したいものくらい自分で選べる」


 なら、早速、現地解散、集合ナシでいきましょう。お前は好きなものを選び、私も好きなものを選ぶ。そしてさようなら。


 私は水社一心を置いていく。しかし奴は変わらず併走してきた。


 お姉様用の焼き菓子屋は、町の百貨店の一階にある。いわゆるデパートというやつだ。私は早速、レンガ造りの四階建ての建物の中へと入っていく。この時代、百貨店利用はステータスのひとつ、成功者の証でもあるので、お客さんは皆、西洋風の装いでオシャレに着飾っていた。


 皇龍清明様は、こういう所には来ない。ただお姉様が行きたいと言えば連れていくし、一階から四階までの商品どころか建物ごと買えるので、お姉様が喜んでいたら真顔で買おうとする。そういう男である。


「お前、こういう場所、ちゃんと知ってるんだな」


 そして建物の買えぬ男が横からなんか言ってきた。


 知ってますよちゃんと。お姉様の為ならば百貨店博士にもなる。


「皇龍清明様と比べられても困るが、水社家は別に、こういう場所に誰かを連れてこられないわけじゃないからな」


 何が言いたい?

「お前が金のこと言ってるから」


 別に家の資産なんかどうでもいい。お姉様の嫁ぎ先が金持ちならもうそれでいいのだ。私は別にお金なんかいらないし、お姉様に関係なければ百貨店なんてどうなっても構わない。お姉様が幸せなら私はドブ池に浸かる一生を送っても構わない。


「馬鹿」


 侮辱BGMの垂れ流しという憂き目にあいながら、私は目当ての店に並ぶ。


 どれも西洋風のレースをあしらった紙箱に包まれ、お姫様感がある。枯賀末理が好きそう。


 こうしたものは似合わないと諦めていたお姉様の御心を、救う。


 私は早速、店員さんに近づいた。


 一番大きな菓子箱を無言で差し示し、贈り物を示す。


「ご購入ですか」


 私は大きく頷いた。本当に迷惑な客で申し訳ないが、命に関わることなので許してほしい。店員さんの命に関わるかもしれないし。

「承知しました。住所のご記入をお願いいたします」


 私は水社家の住所とお姉様の名前を記入した。差出人はお姉様大好き大臣と書きたくなるのを必死にこらえ、枯賀末理という世界で一番忌むべき名前を記入する。私にはちゃんと理性もあるのだ。


「お包みにリボンをおかけできますが、いかがいたしますか」


 私は大きく頷く。会釈もすると店員さんは微笑んだ。


「赤と白がございますが、どちらにいたしましょう……あ」


 店員さんがリボンの見本を探す。しかし別の店員さんの接客対応に使われていた。どうしよう、さっきの赤と白を、の時に頷けば良かったがこのままだと伝え辛い。仕方ない、筆談にしようと私は手のひらに白と文字を書こうとするが、水社一心が私の手を握った。


「白でお願いします。すみません、喉を痛めていて」


 水社一心は紳士的な笑みを浮かべた。店員さんは「かしこまりました」と包装に移っていく。


 どうやら助けて……くれたらしい。かたじけない。


「かたじけないってなんだ、武士かよ」


 水社一心は小声で苛ついてくる。感謝の最上級だろと返せば「感謝が伝わってこない」とまた指摘してくる。してる。


「別に感謝されるようなこともしてないし、変な恩返しされても迷惑だからな」


 フン、と水社一心は冷静に鼻を鳴らす。


 フンフン一心、と心の中で突っ込むと肘で突かれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
一心くん吹っ切れて完全に末理ちゃんロックオン状態で可愛いです。これはもうデートだね〜!! 2人の会話にこにこしながら読んでしまいました。ケンカップルだね、尊いね…。さりげない一心くんのフォロー優しいし…
フンフン一心(笑) 読んだ瞬間ぶふっとふきました(笑) かわいいわー。 二人かわいいわー。 デートだわー。 かわいいわぁー。 お風呂のやりとりも良かったわぁー。 なんかほっこりの回で嬉し楽しかったです…
これは…(付き纏いからの強制通訳付き)デート! にっこり 2人の掛け合いやはり面白くてにっこりします! かわいい〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ