心の底から嫌いなものランキング第9位
作品に素敵なレビューを頂きました。ありがとうございます。
合同演習が終わり、六月。
「俺は倉庫でコツコツする人やのになんでや……書庫とかの前で分厚い本片手に……猟奇的な事件が起きて俺に協力を求めにやってきた美人監査局員とかに対して……何かあったんです? とかうすら笑いして調査にあたるんちゃうんけ……おかしいわこんなん、どないなっとんねん……」
真原さんはうんざりした顔で武具の修理にあたっていた。
合同演習中、ほぼ鴉の駆除と大型あやかしの討伐をしたわけだが、当然武具も装具も消耗するし、特に大型あやかしのせいで参加局員たちのの装備品がバキバキに破壊された。直せないものは廃棄、直せるものは修理と振り分けたあと、修理していくわけだが中々の数である。
そして、現在、玉の窃盗で福野さんは謹慎だ。深刻な人材不足に陥っている。
合同演習の会場となった山の所有者こと軍が無視できない権力者が大型あやかし討伐について感謝しており、これでも軽い処分らしい。福野さんには本当に申し訳ない。
「戦時やぞ、こんなんほんまに……なんでこんな……武具くらいは個別で局が管理するようなんとかならへんのですか」
真原さんは富山局長に訴える。真原さんはさっきからずっと弱音を吐きっぱなしだが喋る速度よりも手を動かす速度が四倍くらい速いので誰も手を動かせと文句は言わない。そもそも個別管理・セルフ修理より真原さんが修理したほうが効率がいいことを今まさに真原さんが証明していた。
「武具が各局管理になったら、予算減っちゃうからねえ。管理局なんかいらないって言われて……」
富山局長がのんびりと応えながら、高速で手を動かす。ド正論だった。
実際、武具が各局管理になれば、管理局は解体だ。
そもそも千年桜は恋と咲くでは局員全員死亡により武具・装具管理局は解体となり、すべての武具や装具の管理は個人扱いになる。
ようするに真原さんの願う世界は真原さんが死ぬことで完成する。
お姉様は武器を持たないし、皇龍清明様は自分の手のひらからぶわぁっとすごい剣を出すので、武具について語られる隙間も無いのだ。
読み手としてもお姉様と皇龍清明様のハッピーライフの描写しか欲しくないので興味が無かった。
しかし、霊力0の今、お姉様を守るためには武具頼みになるし、千年桜は恋と咲くでお姉様を傷つけたバカ刀こと無血がある。
私は腰に携えた刀を横目に見た。
大型あやかしの装甲を貫いた刀。
そのわりに折れる刀。
何を考えているんだかさっぱりわからないが、お姉様をお守りすることに使えるならば、使う。手段も道具も選ばない。ということで管理は私がすることになった。きちんと躾けてお姉様お守りソードに転生させる。
「うーん?」
富山局長がふっと壁を見る。
壁にはタイプライターに似た機材がかけられており、カタカタ音を立てながら備え付けの紙を巻き込みひとりでに文字を打っていた。会議以外の各局同士および上層部の指令、連絡は伝達がこれで行われている。ちなみに宛先、内容、末尾に送信元を記載するので紙が完全に排出されるまでは雑な扱いが出来ないし、構造上、文字が打ち込まれている間にも、読むことは可能だ。
「退妖武具・装具管理局──あぁ、ちゃんとうちあてだ」
富山局長は「なんだろう」と機材の傍で向かい、文字の打ち込みを待つ。
「退妖対実地戦闘局より、増援要請す──詳細は当局にて、至急当局まで召集すべし──え、なにこれ」
要約するなら水社一心のいる戦闘局から、お前ら暇だろ、来いよと命じられている状況だ。
「どうせお前ら管理局なんざ対して役立っとらんのやから掃除手伝えとか言うてくるのとちゃいます?」
「いや、でもこれ──戦闘局の局長からだよ、なにか……すごい大変なことがあったってことじゃない?」
局長は不安げに指令を見つめる。
すごい大変なこと。
皇龍清明様が現れるような案件かもしれない。私は作業の手を止めた。
◇◇◇
軍の最高司令部のある屯所の最上階──の一段下に、退妖対実地戦闘局は陣取っている。
退妖武具・装具管理局は局長室などなく十畳くらいの部屋がポツン状態だが、戦闘局は体育館、もしくは社内恋愛系ドラマの会社くらいの広さがあり、さらに局長室と副局長室が別で設けられている。どれも西洋アンティーク調で、「軍人の働く場所って戦地では? こんなオシャレな必要ある⁉」なんて唖然とする仕上がりだ。
そんな場所に、富山局長、真原さん、私で向かうと、局長室に通された。中は社長室みたいになっていて、中央にはデスクがあるが、退妖対実地戦闘局、局長──相模局長は、そこに座らず立っていた。背筋はピンとしているが、腕組みをしていてずっと片ほうの人差し指で自分の二の腕を延々とトントンし続けている。完全に急かしてるポーズだ。
「想定より遅かったな」
怜悧な瞳がこちらを射貫く。
「申し訳ございません。相模局長」
富山局長がいつになく頼りない調子で謝罪する。まるで責めるように相模局長は富山局長をずーっと冷たい目で見ていた。
相模局長は富山局長より年下、真原さんより年上、見目は30代くらいのクールドライインテリエリートジェントルマン、別名頭の固い見下し型高圧クールキャラ。千年桜は恋と咲くにも頻繁に出てくる……というか主要キャラだ。
相模局長の性格属性は字面のみだとクール属性は皇龍清明様と死ぬほど被っているが、全く別。というか色んな部分で皇龍清明様と真逆の男である。
たとえば皇龍清明様は人が馬鹿なことをしても心が動かない。人間と同じ土俵に立ってない。人外だから。ある意味究極の老若男女、全員平等(お姉様以外)だ。しかも皇龍清明様は独特な点があり、お姉様だけが愛おしく他はゴミではなく、お姉様だけが愛おしく他は規範上守るべき物体としての認識だ。
たとえるならこうだ。
皇龍清明様は、自傷行為などお姉様が傷つく行為以外はお姉様が何をしても嬉しいと感じる。
同時に皇龍清明様は、赤ちゃんがニコニコしていること、二十代男女の切ない恋愛模様、限界社会人三十代男性が箪笥に足をぶつけ悶絶、限界主婦四十代女性が階段で息切れする、限界社会人五十代男女の飲み会はっちゃけ大暴れ、それ以降の年代のあれこれ全部の所感が「平和」で終わる。
赤ちゃんはかわいいけど高齢者のはっちゃけなんてゴミ、みたいなことは思わない。西洋、中華、そして和風恋愛小説のヒーローのテンプレ属性で「着飾ることにしか興味がなく香水臭い女は嫌い」があり、水社一心は典型でそれだが、皇龍清明様の場合はそういう価値観がない。素朴で化粧や服に興味がなさすぎる女も、派手で化粧や服に興味が強すぎる女も、「人間だな」で終わる。
一方の相模局長は全部気にする。
皇龍清明様は馬鹿でも聡明でも「人間」で終わるが相模局長は馬鹿を許さない。化粧も香水臭い女も許さない。港区にぶち込んだら死ぬ。プロ彼女とかキャバ嬢の女を集めて相模局長を中央に封じたら死ぬ。
なぜなら相模局長は人間だから。
馬鹿も逐一注意する、見下すが選択肢に入る。相模局長は馬鹿に関わる。ここに大きな違いがある。お姉様に対しては当初「疑わしい」みたいな警戒のテンションで話すが、そのうち過保護になる。分かりやすいクーデレからのデレデレ。女騎士もびっくりの即堕ち具合だ。ただお姉様以外には絶対にデレない。そういう、テンプレクーデレだから。
ということで開幕早々遅いとか言われてるわけだが、富山局長の謝罪を相模局長は鼻で笑うと、「本題に入るが」と手を前に組んだ。
「うちの局員が、ちょっともめ事を起こしてな……」
「もめ事?」
富山局長が即座に聞き返す。
「貴様ら管理局から、対応是正の申し入れを受けていた連中が、戦闘不能状態に陥った」
対応是正──要するに福野さんや私に絡んでいた局員のことだ。水社一心に絡んでいた局員たちと同一人物かつ、うち一人は水社一心の命令を無視していた局員。
「そんな強いあやかしと戦ったの? 話入ってきてないけど。っていうかそんな強いあやかし相手なら自分が出ればいいでしょ、なんでうちの局員を」
富山局長が強い口調で追及する。こんな口調は局員に対してもしないのに。というかさっきまで怯えていたのに。
「あやかし絡みではない、うちの不始末だ」
相模局長は奥歯を噛み締めるように言う。何か強い感情を堪えているみたいだ。
「今は……貴様らの局と同じで今は新人の面倒を見たりと忙しい。応援要請があれば、我々は速やかに急行せねばならない。人手が足りない。貴様らには、負傷局員の代わりにあやかしの調査に向かってもらいたい」
「そんなこと言われても……今うち福野くん謹慎中だよ? 三人しかいないのに」
「管理局発足当初はお前と真原の二人だっただろう。それに戦力は申し分ないはずだ。その新人がいるなら」
相模局長が私を見据えた。あの後、改めて刀を保管局で調べて、結局何にも分からなかったので、分からないゆえに危険視されているのだろう。
「待ってよ、枯賀さん出すってこと?」
「ああ」
「でも彼女まだ新人だし、管理局として入ってるんだよ?」
「だから何だ。霊力は管理局相応だが、能力は違う」
「え?」
富山局長は眉間にしわを寄せた。「能力ってどういうこと?」と私にも目を合わせながら訪ねる。
「管理局の権限では知らないのか、そこの二等兵の能力は管理局の誰より……下手すればそこらの局員よりずっと戦闘向きだ。霊力、本人の希望が枷になったせいで、こちらに引き込めなかったが」
相模局長は私の能力について知っているらしい。そして引き込めなかったということは、戦闘局として私の能力が欲しかった、ということだろう。しかし霊力が無いので入れづらく本人の希望とも違う、なおかつ人材不足の管理局を希望していたから引き込めなかった。
「能力って……」
富山局長が眉間にしわを寄せる。富山局長は私の能力を知らない。相模局長に教えたつもりはないが、戦闘局のトップなら各局員の能力を知らないほうがまずいだろう。ある日突然知らない局員があやかしに乗っ取られて暴れだしたら大変だし。私は別に知られても構わない。使い時は決まってるし、それまでは使わないから。
「この二等兵の能力は──」
相模局長が言いかけたところで、コンコンとノックの音が響いた。別にノックで遮られるような重大事項の能力でもないのが言葉を止めた相模局長が「入れ」と命じる。入室してきたのは水社一心だった。
「失礼します」
水社一心は部屋に入りつつ私をチラ見し、局長の傍に立った。
「三本爪の犠牲者が現れました」
「三本爪って何? もしかして、それの調査?」
富山局長が不安げに訊ねる。
「ああ、最近帝都で不審死が続いている。皆──背中に爪で三本の傷を刻まれていてな。あやかしの仕業であることに間違いはないが、妙でな」
「妙?」
「傷をつけられた者は、すぐに死なない。一度、背中を爪で傷をつけられ―その後、もう一度……と、最終的に一本目の傷跡をつけられてから七日以内に殺され死に至る。どうしてそんな風に殺すか意味が分からないし、他のあやかしと違い、正体が掴みづらい。そんなものに人員は避けないゆえに貴様らは三本爪のあやかしの調査にあたってもらう」
爪跡。
その言葉を聞いたときに、ハッとした。
千年桜は恋と咲くに出てくる──強力なあやかしだ。
◇◇◇
ドラマやアニメで何らかの展開がひと段落したあと。
突然全く関係ない村や景色の場面が始まって、いい感じの中間ボスみたいな敵キャラが登場し、モブが殺されて終わりエンディングロールが流れる。
次に大きな戦いが来るんだなと、ワクワクする展開だ。
千年桜は恋と咲くでもそういう演出で登場するキャラクターがいる。人間に悪さするあやかしの大玉──猫又だ。ちなみに幹部クラスでは一番弱い。
千年桜は恋と咲くは年下男性キャラが少ない。理由は年下すぎると年齢差で問題になるから。皇龍清明様は人外年齢なのでお姉様との年の差を考えると「???」と混乱してくるが、実在の生きてる少年とお姉様のカップリングは倫理に反するので、その枠を担っているのが猫又だ。
結果、見た目は女性ファンが「イケメン」「かわいい」と愛される子供、中身は人外年齢、好きなものは人の恐怖というキショバケモノが飛び出てくる。
公式での紹介はサイコボーイだ。
どう考えてもサイコパスじゃなくシリアルキラー寄りのキモ変態なのに。優良誤認・誇大広告、不当表示を極めている。
心の底から嫌いなものランキング、第9位。シリアルキラーとサイコパスを意識的に混ぜたのではなく混同したキャラ。
サイコパスの根幹にあるのは退屈と共感性のなさだ。刺激のあるものに興味が出るゆえに猟奇的なものに興味を抱いたりする。だからこそ殺人だったりデスゲームに興味が向きがちだ。スリルがあるし、非日常的なので好奇心も満たされるし、サイコパスは総じて支配欲も強いので、コントロール欲求も満たされるから、興味が向きやすいというだけ。それらに固執しているわけではなく、刺激を受けられるなら何でもいいのだ。結局飽きるし、あまり思い通りになりすぎても飽きてしまい、唐突に自分で計画を変更したりするし、誰かの手で計画を壊されたら苛つくか面白がるかの二択。
一方のシリアルキラーは、変態である。誰かを殺して特定の部位を持ち帰るタイプは一生その行動様式を基軸に生きていく。ほかに興味が移ることは無い。計画を壊されたら苛つくどころか取り乱す。彼らの中で立てた計画は彼らの中では完璧であり完全であり宗教、過程すら完全でないと気が済まないので、絶望と混乱状態に陥る。
水と油なのだ。サイコパスは静でありシリアルキラーは動。「動のサイコパスもいるもん‼」というバカの理論を、「価値観は人それぞれ」「多様性」という言葉で補強する人間がいるが、 赤を青と呼ぶことを多様性と認めろというようなものだ。赤信号をエンジン全開で走り出し出し、「私の中では青」と言い出して認められるか考えてからモノを言ってほしい。一生サイコパステストから出てくるな。
そしてキモ変態猫又は基本的に人当たりがよく、外面100点の状態で物語に登場し、お姉様の「この子を守ってあげなきゃ」という庇護欲をそそる。
しかしその実、猟奇鮮血大好きマンであり、本性が分かるとウキウキスタイルでお姉様に突っ込んでくるのだ。「人が恐怖に染まった瞬間は最高だよねぇ‼」「ボクの爪で切り裂いて血染めになったキミを見てみたいよォ」と公道で発言する。
サイコパスは本気でそんなこと言わない。
サイコパスは人に共感できないから。
サイコパスは自分の価値観や性癖に関する同意を求めない。というか同意の有無に価値を置かないから。
人が恐怖に染まった瞬間が最高なんて感性を他人が持たないことを知り尽くしているから。
血染めのキミを見たいと宣言して対策を立てられ、血染めのキミを見る計画を邪魔されたら不愉快だから。
口にも出さない。
濁るし。
恐怖にそまったお姉様も血染めのお姉様も、どんな姿でも美しい。好きな人間に対して、どんな姿でも見てみたい、綺麗であればあるほど、見慣れない姿──謙虚でおしとやかで春風のようなお人が、自分の為だけに艶やかな雰囲気で惑わしてくる姿に焦がれる。というかお姉様に焦がれない存在なんてこの世に存在しないが、私は口に出さない。うすっぺらい共感で濁されるのが嫌だから。
私ですらそうなのだ。サイコパスなんかより嫌うだろう。
それにキモ猫又は「反省する‼ もうしないから! 助けて‼」とみっともない命乞いの果てに、「なんでボクが……」とアッサリ抹消される。
サイコパスに改心の概念なんてない。気質だから。
サイコパスは命乞いなんかしない。「あー自分死ぬんだー」で終わり。完です。完。
サイコパスが結果的に変態のようなことをする、サイコパスが結果的にシリアルキラーに間違えられるようなことをするものだが、ぐちゃまぜサイコボーイである。「今までになかったこういうのが好き」という趣向で描かれたものではなく、「サイコパスってこうだよね」「こういうのが面白いんでしょ」が透けて見えるバッタモンサイコボーイ。
そういう意味でも嫌いなのに、お姉様を狙うのだからもう生かしてはおけない。
お姉様を狙う害虫なんていないほうがいいんだから。
心の底から嫌い。お姉様を傷つける存在なんて生きていていいわけない。




