邪魔なもの
大型あやかしを討伐したあと、私は水社一心の式神により福野さん、退妖武具・装具管理局のみんなと合流した。
真原さんと富山局長は私と福野さんに対し「危ない‼ あやかし討伐なんて他の局員に任せればいいんだから!」と大激怒だった。とんでもない他力本願である。
福野さんが「学費は」と言い返したら局長は「命より大切な学費なんてないから‼」とさらに怒っていたので、水社一心の怒りっぽさが感染したのかもしれない。私が眠っていた三年間、お姉様は水社家で過ごし水社一心と過ごしていたけど、怒りっぽさに感染しなかったのは奇跡だ。
「お前なぁ……」
屯所の廊下を歩いていると、隣を歩く水社一心が呆れてきた。
演習翌日、呪いの刀は正式に保管局預かりから管理局預かり──というか私の武具として登録された。
大型あやかしは、局員たちがせっせと討伐していた鳥型あやかしとは無関係、突然発生したあやかしらしい。水社一心が部下を庇って云々という誤報に踊らされたせいで討伐してしまったけど、少し待ってれば皇龍清明様が現れていたかもしれないのに。福野さんにまで迷惑をかけてしまった。
チャンスを失ってしまった。無念極まりない。
「お前なあ……!」
水社一心がまーた同じ言葉で呆れてくる。今日も今日とて煩い。刀の持ち手とか脇腹でも突いてやろうか悩み、私は携えている刀を見る。
小説でお姉様のことを斬っていたドブキショ刀こと無血は、保管局から管理局預かりに再度戻すことになった。
諸々の手続きは、心が読める水社一心が同行した。理由は肩書である。退妖対実地戦闘局は、帝都退妖軍、権力めちゃつよ偉い偉いランキング第一位だ。
皇龍清明様はランキングに入れたら不敬レベルの高い高いマンだが、軍の弱肉強食ピラミッドにおいて上位に位置しているのは退妖対実地戦闘局であり、正直、退妖武具・装具管理局の局長より退妖対実地戦闘局の人間のほうが権力が高めというか、事が早く進む。虎の威を借りようということである。
「俺が虎だと思うなら嚙みつこうとするなよ。よく分かんないことばっかりして。その刀とある意味お前は同じだからな」
折ったらどこまでもおいかけてくる事故物件刀が私と同じ、とは。
というか水社一心は千年桜は恋と咲くのレビューにおいてモラハラ事故物件呼ばわりされていた。事故物件同士相性がいいのは水社一心だろう。
「その刀に持ち主いなかったのか。お前のその架空世界の話で」
千年桜は恋と咲くで、この刀は何度持ち主を転々としていたか分からない。持ち主が危機に陥ると普通に見捨てたり、霊力を吸収して殺していた。薄情刀だ。無血じゃなくて薄情刀と命名すれば良かったかもしれない。それか尻軽ソード。
「そーど?」
異国の言葉。意味は刀です。お勉強になって良かったねえ。
心の中で煽っていれば、ふいに水社一心の傷が視界に入った。部下を庇って出来た傷だ。少年漫画の主人公が重傷になると絶対そこ切れるよね、という場所に傷が出来ている。
ある意味、部下に、与えられた傷。
「お前……」
水社一心が怪訝な顔をした。
水社一心の、顔。
千年桜は恋と咲くにてモラハラクソ男として名をとどろかせ、八百件を超す千年桜は恋と咲くのレビューのうち星1、3行以上のレビューを記したユーザー全員が名前を出していた男、ミスター低レビュー。
彼については「素直に言えない気持ちはわかる」という擁護派、「物語の中で見る分には、顔さえよければいい」「マジで水社一心の顔、好き」という、それは水社一心への好意じゃなくて多分イラストレーターさんとか漫画家さんへの好意としか思えない水社一心擁護派がいた。
今はそのモラハラクソ要素が無いので、最大特級短所が消え家柄の良いお坊ちゃんだが、傷なんてついてしまって、一体どうするのやら。親もミヤシロ様も泣いてしまう。
「うるさいな……ほら、サッサと降りろ、地下に行け」
退妖武具・装具管理局に繋がる階段の前、水社一心はあごを動かし降りるよう促した。モラハラ絶好調です。なんでこいつに顎で指図されなきゃいけないんだ。少尉ってそんなに偉いのかよ。
「二等兵より百倍偉いんだよ」
じゃあパワハラだ。パワハラ。
「また訳の分かんない単語を……さっさと行けほら、俺だって暇じゃないんだからな」
水社一心は大きくため息を吐き、がっくりと肩を落としながら退妖対実地戦闘局へ戻っていく。その姿が見えなくなるのを待ってから、私は彼と反対方向へ走り出した。
筋トレがてら屯所の外に出て、そばにあった角材を手に取る。身体を鍛える過程で筋を痛めたり背骨を痛めたりしないよう、入念に身体を伸ばしながら歩いていると、退妖対実地戦闘局の人間たちが裏手でたむろしていた。
「お前、次、謹慎なんだって」
「ああ。本当にやってらんないよな。何でぽっと出のお坊ちゃんに指図されなきゃいけないんだよ」
「少尉様だからだろ」
フン、と鼻で笑うのは水社一心の下につく局員たちだ。その中には水社一心と共に演習に参加していた局員もいる。
「あいつ、どんな攻撃をしかけてくるか分からない、人員が揃うまで待つとか言って、日和って邪魔ばっかしやがって」
「でもお前庇われたんだろ? あと少しで喰われるところだったって見たやつが言ってたぞ」
「頼んでねえよ。あの自分が正しいと思ってる感じ? 助けたいみたい‼ みたいな、立役者面、必死感、いつまで続ける気だよ。最近、女ばっかり狙うあやかしが出たらしいけど、あいつ女装させて囮に使ってやろうかな」
わははは──と、局員たちは水社一心を笑う。
水社一心はこういう、四面楚歌の中でやってきたのだろう。
軍の洗礼。
少尉という位置に一足飛びで着任しているわけだから仕方ないことのなのかもしれない。でも、人の気持ちはそう簡単に変わらないし、庇われてもなおこの調子ならこの先の改善も反省も何もかも期待できない。助けだって、期待できない。
私は角材を握りしめる腕に力を込めた。
局員たちのほうへ、歩みを進める。
湿度を帯びたぬるい風が頬を撫でる。
局員たちは私に気付かない。
そのまま、私は私の道を選んでいく。




