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お姉様を傷つける者は殺す


「──ゆえに明日、この家にひとり、子供を迎え入れる」


 和歌、三味線、舞踊、とりあえず令嬢はそれやっとけお稽古ルーティーンを消化し、寝に入ろうとすると父親に呼び出された。いったいなんだと思えど家長は絶対、反論すればややこしくなるのは目に見えているので黙るが吉、どうせ「枯賀家の血を継ぐ者として恥じないように」から始まるワンパターン父親面定期公演だろうと思いきや、身の上を話し始めた。


 要約するとこうだ。


 私が生まれる前に母親は子供を授かった。産んだら霊力が全くなく、枯賀家の恥でしかないので奉公に出した。その後、私が生まれた。


 私がいるので無能の娘はいらない。一切関与しないつもりだったが、無能の娘の奉公先があやかしに襲撃され無能の娘だけが生き残った。霊力を持っているかもしれないので、一応引き取ることにした。


 自己保身と保全と見栄に修飾された真意を探るうちに、全部思い出した。


 この世界は千年桜は恋と咲くの世界だ。


 小説の世界に入っているのか似た世界にいるのかは分からないし、原理もサッパリだが、私は前世で死んだ覚えがあるので、生まれ変わったのだろう。


 お姉様の妹に。


 つまり父が話す「無能の娘」というのはお姉様のことである。


「お前の姉にあたるがいないものだと思ってよい」


 畳が広がり行灯が揺らめく一室で、当たり前のように話す父に殺意が湧いた。


 前々から父親に対して思うことがあった。前世の記憶を保持した今、口も聞きたくない。


 そして私の母親についてだが、今この場にいないどころか枯賀家にいない。私を産んだ後、下男──使用人と駆け落ちしたのだ。入れ替わるように父親の遠縁の女が出入りしているが、籍は入れずに当主夫人として振る舞うが、当主夫人がすべきことはしないという頓珍漢なありさまだった。


 しかし、千年桜は恋と咲くではその女がお姉様の義母として登場していた。


 多分物語の流れはこうだろう。


 私の実母と実父からお姉様がご誕生。見る目がないのでお姉様が奉公に出される。


 私の実母と実父から私が生まれる。私の実母が男を抱えて大逃亡。


 お姉様が枯賀家にお戻りになられる。


 遠縁のよく分からない女と実父が再婚し、母親ぶり、お姉様の母親ぶり虐げる。


 登場人物全員ゴミです。


 現在お姉様は十四歳、私は十二歳だ。お姉様が皇龍清明様と出会うのは十九歳の春。物語が始まるまであと五年ある。


 死んじまえばいいのに。お姉様以外全員。


 今、父親の背後には刀がある。お飾りだ。父が握ったこともない、そしておそらく握れないであろう骨董品扱いの刀。叩き斬ってしまうのもありだが、お姉様を引き取る前にこの男を排除するとシナリオが狂う。お姉様の和風溺愛シンデレラストーリーの始まりが、被疑者死亡から始まる枯賀家惨殺人事件のエンディングになってしまう。


 今だけだからな。お前がそうやってのうのうとしてられるのは。


 お姉様をいないもの扱いしようとした罪は、重い。


「無能の娘など生まれてこなければよかったものを……せめてお前が、先に生まれていたら」


 刀を眺める私を、自分と目を合わせていると誤解している父は、こちらが何を考えてるかも分からぬままに言う。


 殺す。


 絶対に、殺す。


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