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悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第二章 お姉様の為に入った帝都退妖軍
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お姉様に害が無ければどうでもいい。


 帝都退妖軍の軍人は、二種類に分けられる。退妖武具・装具管理局みたいなサポーター系内勤組と、水社一心のいるような戦闘メインの花形外勤、退妖対実地戦闘局だ。


 どちらも勤務時間内での鍛錬が義務付けられているが、内勤組の人間で時間外にも追加で鍛錬する人間はほぼいない。元々戦いに出たくない人間が内勤の希望を出すので、日々の鍛錬も嫌、みたいなタイプが多いのだ。私はお姉様を守るために力が欲しいので日々追加鍛錬を行っている。


 ただでさえ3年間寝てたのだ。そして水社家の一件でお姉様と皇龍清明様との縁談が絶望的。


 基本的に帝都退妖軍は訓練をしながら実際に戦場に出てあやかしを討伐するシステムだけど、私はさっさと皇龍清明様とお姉様の縁を繋ぎたいので、軍で武功を積み皇龍清明様に近づく。お姉様を売り込む。そのためにも力が欲しい。同時に千年桜は恋と咲くで救えなかった──退妖武具・装具管理局の人間のような物語で死ぬ人間をどうにかしたり、物語であやかしになる人間の、あやかし化原因を排除したり、物語でお姉様を傷つける敵を先回りして倒していけば力は手に入り出世にも近づく。


 お姉様の幸せにつながる。


 そのために鍛錬に励まねばならない。


 今朝も今朝とて最悪ルーティーンを行い刀を置いてきた私は、屯所の敷地内をランニングしていた。


 刀は突っ込んでくるときと来ない時がある。朝は確実に枕元に鎮座していて、その後、伸びをするとすぐに戻ってくる。仕事中は部屋に置いていても来ない時があり本当によく分からない。気まぐれストーカーだ。


 そして敷地内を走り回っていると、福野さんを発見した。彼は「金輪際自分に関わらないでください」と全身に張り紙を貼っているかのようなオーラを漂わせながら鍛錬に励んでいる。


 気持ちはわかるので私は福野さんを無視し走り込むが、「枯賀さんちょっと」と福野さんから声をかけられた。


「そっち、今、退妖対実地戦闘局の人間がいるから多分絡まれる」


 別に絡まれても問題はないが、鍛錬の邪魔をされるのも嫌だ。会釈で返すと「あいつら怠いから」と付け足した。


「誰が怠いって?」


 嫌味を存分に含み還元濃縮したような声がかかった。退妖対実地戦闘局の男たちがこちらへとやってきて、福野さんが目を閉じて「あー」と短く呻いた後、「別になんにも言ってないですけど」と、シレッと嘘を吐く。


「あ? 俺ら退妖対実地戦闘局が絡むみたいなこと言ってなかった? 上等兵の福野さんよお……つか女いるじゃん」


 男は私のすぐそばに立ってきた。千年桜は恋と咲くあるある、治安の悪い一般兵だ。霊力もしくは能力さえあれば入隊可なので敵の噛ませ犬みたいな精神性をもった男がゴロゴロ現れる。そしてお姉様にナンパし皇龍清明様やメイン登場人物の男たちに追い返されたり、あやかしの前菜になる。


「そいつが枯賀家の女かあ。元天才の落ちこぼれ」

「いい顔してんじゃん。顔で入ったなら俺らのこともちゃんと助けてくれるよなぁ」


 退妖対実地戦闘局の男たちは私に下品な目を向けてきた。


 お姉様が傍にいなくてよかった。お姉様がいたら絶対そちらに下品な目を向けていただろうし、そもそもこういう人間はお姉様の目に触れてはならないので、お姉様の半径800メートル以内にいたら殺さなくてはいけない。軍人殺しは対象があやかしに乗っ取られていた、機密情報を流し国を陥れたなど軍や国に背いていない限り重罪になる。パワハラ上司殺してみたら死刑になっちゃったの世界観だ。ゆえに物理的にも構造的にも殺しづらいのだ。男たちは「返事は?」と私に視線を向けた。


「枯賀喋れないんで」


 福野さんが少し面倒くさそうに答える。


「なんだ、先言えよ。丁度いいじゃん色々」


 男たちは下卑た笑みを浮かべ私の手首を掴んだ。ぴらぴらと私の右手を勝手に動かす。いずれお姉様は屯所にやってくることもあるだろうし、今殺したほうがいいかもしれない。でも私に興味があるということはお姉様は好みじゃないのだろうか。お姉様が好みじゃないってどういうことだ? 頭がおかしいのか? こんな下品な連中に好かれるようなお姉様ではないという正論とお姉様は万物を魅了するというこの世の真理がせめぎ合う。どうしたらいいんだろう。考えるの疲れた。殺すか?


「うわっ」


 男たちが突然どよめいた。いつの間にか私の右手に呪いの刀が握られていた。どうやら刀が飛んできて、男にぶつかりつつも私の手元に納まったようだ。とんでもない横入りというか滑り込みである。


「なんだお前、部下の教育がなってないんじゃないのか」


 局員は福野さんを責める。福野さんは「あー」とやる気なく返事をした。


「この刀、今、修理中で、枯賀の手に飛んでくるんですよ。謎に。時期も読めないんで、近づかないほうがいいですよ」

「ああ?」


 男たちは疑ってくるが、福野さんの言う通りだ。時期が読めない。


「富山局長、あと保管局の人間に聞いてみてください。あと……そちらの局長、もうそろそろこっちに来る頃ですけど、いいんですか?」


 福野さんは遠くを見やる。そっちは多分嘘だ。私はずっと走り込みをしているけど見たことない。しかし局員たち「え」と顔を見合わせ、「行くぞ」と雰囲気をがらりと変えて去っていく。


 富山局長も恐れていたけど、退妖対実地戦闘局の局長はよほど怖いらしい。あっちの局長は千年桜は恋と咲くにも出ていたけど、皇龍清明様が冷酷どころか感情が感じられないタイプで、皇龍清明様と話の通じるクールキャラとしての印象しかない。少しキャラ被ってたし。状況説明係というか。そもそも役職的に重要な場にしか出ない人、いかに状況が危ないかを伝える人なので、「このままでは甚大な被害が……」を登場時に手を変え品を変え言う人みたいな。危険を知らせるサイレン替わりだった。女性人気はかなり高かったけど。


「ああいう奴ら、一人で会ったときは無視でいいんで。局長とか上の人間が多い場所に出れば追ってこないし、相手にすると長引くので」


 福野さんはひとりでに対処法を話す。そして居心地が悪そうに話をつづけた。


「あと……なんか、あれは元々だから。枯賀がどうこうってことないので。枯賀がどういう人間でもあいつらは……新人ってだけで狙うから」


 もしかして、フォロー……なのだろうか。手当てしてくれたこともあったし、今思い返せば、水社一心と共にすれ違った時、私を誘わなくていいのか富山局長に聞いたりしてくれていた。「全員滅します」「関わらないでください」「全員死ね」みたいなオーラがあるように見えるだけで、面倒見がいい気質なのかもしれない。


「なんていうか、元々、俺も真原さんも局長も退妖対実地戦闘局にいて、時期は違うし、局長は違うけど、色々無理になってこっち来てますし。そもそも、能力が戦闘向きじゃないのもあるけど……そういうので、あんな感じなので。階級はこっちが上でも、絡んできた奴らのが霊力は上だし、何よりあやかしと戦ってるし、元々、自局の出世組もバカにするような奴らなので。実力……たたき上げ主義っていうか、そういう感じ……です」


 元々三人とも退妖対実地戦闘局──水社一心と同じ局だったのか。


 そして自局の人間でもバカにするという言葉に気がかりを覚えた。福野さんは上等兵であり私の二つ上の階級を持つ。男たちがそれ以下と仮定すると、七段飛ばしで少尉になった水社一心なんていい玩具じゃないのか。


「じゃ」


 福野さんはその場から離れていく。あんまり話さないタイプだと思っていたけど、説明はかなり多めにしてくれる人らしい。私は退妖対実地戦闘局の人間たちと鉢合わせしないよう気をつけながら鍛錬を再開した。




 勤務が終わり、昼休憩の時間になった。朝、昼。晩の食事は、食堂で出されたものを食べている。通いの人間は弁当で、幹部クラスを超えてくると屯所を出たり出前を取ることも可能だが、そこまでになると自由に食事を取る時間が消えるらしい。局長が嘆いていた。


 そんな食事の豆知識を得られるようになったのは、水社一心にある。


「福野もよう喰う思うてたけど枯賀さんも相当やな」


 食堂のはじの席で真原さんが驚く。水社一心が「こいつは人と接するのが云々」と虚偽報告と謎設定を付け足したことにより、富山局長、真原さん、福野さんの四人で食事をすることになっていた。


 男三人で食べたほうがいいだろうに、食事の時間になると「行くで~」「部屋閉めるで」と号令がかかる。退妖武具・装具管理局は武具を管理している倉庫と地続きなので、誰かいないときは施錠しなくてはならない。新人一人だけいても意味が無いので合理性の観点から私の単独行動が面倒くさかったような話を受け大人しくしている。


 私は同じように大人しくしている福野さんを横目に見る。座席は富山局長と真原さん、私と福野さんの四人掛け、食堂の献立は職員一律ゆえに、全員同じものを食べている。今日のメニューは牛めしとわかめの味噌汁だ。牛めしは醤油濃い目の甘じょっぱい味付けで、かさまし用に入っている焼き豆腐に切れ目を入れると中まで汁の色に染まっている。


 福野さんは大盛りを頼んでいたが、牛肉は贅沢品なため肉は据え置き、ご飯も限りはあるので、ほぼ豆腐丼になっているし、さらに「福野くんよく食べるからねえ」と豆腐が別添えでてんこ盛りにされていた。


 私は規定量にプラスして豆腐だけ大盛りにした。身体を鍛えたいので栄養はしっかり補給しておきたい。一方で福野さんは、味浸み豆腐を主食にごはんをおかず、肉を箸休め代わりに食べている。


「真原くんも前よりは食べるようになったよね」


 出された量をそのまま食べるスタイルの局長は、真原さんの牛めしを見た。豆腐とご飯が少なめになっている。食堂は竹製のお盆を持って配給してもらう仕組みだが、真原さんは「全部半分にしてください」と事前申告し、調理員に「牛肉なんてめったに出せないんだから、血増やす‼ 肉はそのままだよ」と怒られていた。


「前は味がどうも、中々、食べてきた味と違うんで」


 真原さんは言葉を濁した。富山局長が「真原くん西の出身だからね」と私に補足する。訛り的にも驚きはしない。


「慣れたってこと?」

「慣れたいうか、こういう味もあるもんやな~て。それにそっちも食べてきたもんと違う思てはったら、似たり寄ったりやなぁって」

「へぇ」


 富山局長が当たり障りない返事をする。福野さんは無言で豆腐を食べていた。服の下は知らないので実際は分からないけど、局長は筋肉質、真原さんは「軍人の中では細身だな~」福野さんは「え、細」という印象なので、福野さんは筋トレをしていても食べていてもそれが見目に反映されず、霊力にいってるんじゃないかと疑惑を持っている。


「あの、退妖対実地戦闘局の人間たち、俺と枯賀に絡んできました。富山局長、向こうの局長に言っておいてください」


 別添えの豆腐を食べきりそうな福野さんが、どんぶりに入っている豆腐を寄せ集めながら切り出した。


「え、そんなことあったの? いつ、なんて?」


 富山局長が私を見る。私は説明する気はない。改善の希望もない。自分で殺す。


「なんか、普通に調子乗んなみたいな。俺みたいなのと、女に対してやってる感じのやつです」

「あぁ……じゃあそれは言っておく」


 富山局長は「災難だったね」と労わりの目を向けてきた。こういうことに福野さんは我関せずのイメージだったけど違うらしい。


「……元々俺がしくじったのもあって、枯賀が絡まれたのもあって……よろしくお願いします」

「うん。大丈夫」

「ついでに倉庫の予算も言うておいてくださいよ。是正勧告だけやったら角立つでしょ」


 真原さんが声を荒らげた。そういえばこの人はずっと前から倉庫がパンパンになって死人が出ると言っていた。正直なところ、出そうだなと思う。倉庫の中は一応棚が並んでいるけど、棚の間に桐箱が詰みあがっているし、棚の上にも桐箱が重なっているので、崩れたら死ぬ。


「お札がねぇ。改良品がねぇ、ちょと難しいからあれは……お炊き上げするにも色々手間が」


 お札。紙に色々文字を書き霊力を込めて、必要な時に結界を貼ったり攻撃したり、邪気を祓ったりするものだ。ただ、あくまで応急処置。結界にせよ手のひらほどのサイズ感だし、攻撃も、たとえるなら不審者に対して催涙スプレーをまく程度。射程範囲も狭い。決定打にならない。


「退妖対実地戦闘局の奴ら、わざわざ他所にちょっかいかけて、よっぽど時間あり余っとるんやねぇ。自分のとこで発散したらええのに。何で僕のこと狙わへんねやろ」


 真原さんは鼻で笑う。


「身内で発散してても問題じゃないですか」


 福野さんは寄せ集めた豆腐をかき込むと、ようやく牛めしを食べすすめ始める。


 真原さんは「せやな」富山局長は「確かにね」とそれぞれ相槌をうつ。


 そんな三人を横目に昼食を済ませた。



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味染みた豆腐はおかずになるよねえ
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