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お姉様かそれ以外か

 基本的にこの世界の男女はお姉様を好きになる。


 当たり前だ。楚々としながらも芯が強く控えめで外見に囚われず、誰よりひたむきで真っすぐで、危険があれば自分の身を犠牲にして誰かを守ろうとする女の子が好きじゃない人間なんていない。


 全人類、お姉様のような女の子がひまわり畑で自分に手を振ったり、緊張気味の表情が自分を見てちょっと安心してくれるさまを求めている。


 もしそうじゃない人間がいるとするならば、その人間は人ならざるわけではなく、まだ目覚めてないだけだ。この世界はあやかしという名の人を食らう怪物が跋扈しているが、あやかしだってお姉様が好き。繰り返しになるが、目覚めていないだけ。お姉様という世界を知らないだけ。花は開花状態でぽんと生えて来ない。種から芽が出て花となる。ゆっくりゆっくり時間をかけて。お姉様に惹かれない人間はまだお姉様を好きになっていないだけ。嫌いでもまだ好きになっていないだけ。最終的にはみんなお姉様を好きになる。


 だってお姉様はこの世界のヒロインだから。


 この世界は、和風シンデレラ小説『千年桜は恋と咲く』という小説の世界だ。たぶん異世界転生である。私には前世の記憶があるから。『千年桜は恋と咲く』は優秀で可愛い妹と比べられ、継母と実父から虐げられていたヒロイン──枯賀花宵(こがかよい)皇龍清明(こうりゅうせいめい)様と呼ばれる冷酷な貴族と政略結婚をしてに、溺愛される物語だ。


 メインは花宵こと私のお姉様と皇龍清明様の心の交流なので、物語開幕すぐ結婚する。


 ちなみに、お姉様が虐げられている理由は無能だから。


 あやかしは人を襲い喰う。


 その生態は、少年漫画でも青年漫画でも少女漫画でも統一されてる「弱い敵はバケモノビジュアル、強いのは大体人型の法則」通りの生態系だ。古今東西の敵あるあるをすべて踏襲している。


 それらと戦う稀有な力を『霊力』と呼ぶ。


 ファンタジー世界で言う魔力みたいなものだ。万人がうっすら持っているが、戦うほどの霊力を持つ者は限られ、遺伝の影響が強めである。


 そうした世界で、お姉様には、霊力がない。


 お姉様を愛するどころか虐げる忌まわしき血族、枯賀(こが)家の人間は、代々高い霊力を受け継いでいる。そしてお姉様の妹──ようするに私は天才と呼ばれるほど霊力を持ち、もてはやされているが、お姉様は霊力がないのだ。


 周囲は「どうして妹みたいになれないのか」とお姉様と妹を比較し、自尊心と自己肯定感をゴリゴリ削る。お姉様がどんなに頑張ってもその頑張りを見ない。無視をする。落ちこぼれだと責める。絶対に肯定しない。自己肯定感掘削ショベルカー。タイヤ全部パンクして横転してそのまま崖にでも落ちればいいのに。


 しかしお姉様は実のところ膨大な霊力を持ち生まれている。


 しかし無自覚に自分の霊力を封印してしまっている。


 何を語るにも「しかし」の多いお姉様。お姉様は例外、それがものすごく多い。それくらい特別なお姉様は嫁ぎ先で霊力のみならず守護の才能を開花させるのだ。この世界には霊力の他、限られた人間にしか使えない特殊能力が存在していて、お姉様は『守護』の能力を持ち、ゆくゆくは国を救う。


 つまりお姉様と義妹──私の能力についてたとえるなら、お姉様は時間をかけて出来上がった全貌の見えないフルコース、私はパッと食べられるカップ麺である。


 私が最初「虐げられている理由は無能だから」と称したのは、お姉様が無能だからじゃない。お姉様の才能を見抜けず、分かりやすい結果に流されたお姉様の実父および枯賀一族が無能、ということである。お姉様以外全員根絶やしにすべきだ。忌々しい血。私にも流れているけど。


 そんなろくでもないご家庭の妹に生まれてしまったわけだが、「千年桜は恋と咲く」の物語について思い出したのは、お姉様がこの家に引き取られる前夜のことだった。


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