受付
オジキの店から20分ほど歩いてやって来たのは王都の中心街の中でも一際目立つ建物、つまり王城だ。
「はぁ……近くで見るとでけぇな……」
「ねぇ……」
「俺初めてこんなの見るよ……」
三者三様、それぞれ別の反応を示す。
辺境に引きこもっているとどうしてもこのような建物を見る機会は減ってしまうからな。たまにはこういうこともあって良いだろう。
父さんが城門の衛兵に話しかけ、中に入る許可を貰っている間に私は周りを眺める。
王城は基本、石のレンガで作られている。
それだけではただの王城でしか無いが、父さん曰くこの城は1万年前の戦争の最後の砦とも言われる城だったそうだ。
故に城のありとあらゆるところに魔法的な仕掛けが仕組まれている。
城壁などは分かりやすく、石レンガの内側から魔力が溢れているのが見て取れる。どうやら内側に魔法で硬化したレンガを並べそれがまた魔法陣が互いにそして外壁の石のレンガの防御力を上げるなどしているようだ。
そして門にも魔法的な意匠のみならず防御機構が施されているな。
鎖型の紋様を刻み込むことで城壁と対応させ一つの巨大な魔法陣を作っている。
大陸ごと破壊する力でも加えない限りそれを破る事は難しいだろう。
そんな事を考えながら歩いていると入り口の衛兵から許可が出たのか城の中へと入っていく。
「思ったよりすんなり入れるんだな」
「アポなしだから入れるか分からなかったが大丈夫だったよ」
「せめてアポは入れとこうぜ、父さん」
「ハハッ」
王城に入っても暫くは道を歩くだけだ。
道の周りには植物や花が植えられている。
今は無造作に色んな花が咲き誇っているが、コレも魔法陣だったのであろう。
所々に花壇が見えそれが魔法陣を形成している。
花壇で魔法陣とは一体どれほど魔法陣を必要とする城だったのか、そしてそれが当然のように高性能であり、今もなお発動できる状態なのは大昔の術者の腕がすごかったのだろうか。
そんな国に最後の砦を作らせるに至った魔族や魔王も気になるが、今はそんな事を考える暇はないか。
「今の王城は大部分が学院の所有地だから一応誰でも入れるんだ」
「じゃぁ何でさっき許可を?」
「王城勤めの知り合いに声をかけに行こうと思ってな」
「あぁなるほど」
父さんはこう見えて謎に人脈を持っていたりする。
学院時代の知り合いだったという貴族様などが家にくると言った事もあったぐらいだ。その中に王城勤めで王都から来たという人も何人かいたかな。
あんま覚えてねぇけど。
「失礼、学院の受付をやりたいのだが良いかね」
父さんが受付場であろうほったて小屋の中で作業をしている受付のお兄さんに声をかける。
赤い軍服のような服、そして首から下げたカードに学院三期生と書かれてある。
受付は生徒がやっているのだろう。
父さんが移動中に言っていたが王国で1番高等教育が進んでいるのが王立学院だそうだ、
この生徒はその評判に恥じないそこそこの魔力を保有している。魔力量だけで言えば鍛錬を始めて1年ぐらいのルナぐらいだ。
「はい、わかりまし……たぁ!?ちょ、ちょっとお待ちください!教授ー!」
受付の人は父さんを見た瞬間に目を見開いて立ち上がり、奥へと一目散に走って行った。
一体何なのだろうか。
10秒もしない間に先ほどの受付よりも豪華な黒い服を着用したシワシワの顔をし顎髭を生やしたお爺さんがやって来た。
その黒い服には金色の飾緒もある。
「ほっほっほ、久しぶりじゃのゼニス」
「おぉ!グラン爺じゃねぇか!久しぶりだなぁ」
「おぉ、もう5年以上も会っとらんからのぉ。お主がここで暴れ散らかしたのを昨日のことのように思い出せるわい。確か変な輩に絡まれたフリーナお嬢ちゃんを助けるために「ちょっとその話は後にしようか!今日は娘たちの受付があるんだ!」ん?おぉそうかそうか。ついにお前らの娘たちも入ってくる年頃か」
面白い話を聞いた、あとで母さんに問い詰めてやろう。
にしても父さん……男前だったんだな。
「んで受付するのが、俺の娘のリーシャとルナだ。下のは俺のと同じでフォートレスだ」
「あいあい、了解じゃ」
「知り合い?」
「おう、俺が入学する時に最初に世話になった先生だな。まだくたばってないようで安心したぜ」
父さんと母さんは今42歳、見た目からはとてもそうだとは思えないが中年なので、この教授、グラン爺さんは大体70前後と言ったところか。
魔力は70代の人間にしては多い部類。教授をやれるだけの技量はあるようだ。
「当たり前じゃ、今年はワシの孫も受けるからのぉ、それにハレの姿を見るまで死ねんわい」
「何だお前のところも今年か」
「そうじゃよ。はいゼニス。料金金貨4枚じゃ」
「うげ、また上がったのかよ」
「最近どうも隣国がきな臭いらしくてのぉ。色々物価が高騰しとるんじゃ」
「はいよ」
父さんが右手を収納魔法陣に突っ込み、そこから金貨4枚を取り出す。
「む、ゼニス、それは収納魔法かの?」
「あぁそうだ。リーシャが使えるから教えてもらったんだよ」
「なんじゃと……?リーシャちゃん、是非ともあとで私に収納魔法を教えてもらえぬか!」
「え、えぇ、良いですよ」
「ほっほ、良かったわい。あとは本人らのサインを書いてもらえれば終わりじゃ」
グラン爺さんから手渡されたペンを受け取り、自分の名前を書く。
「うむ、コレで完了じゃ」
「うし、じゃぁリーシャ、ルナ、ハル。父さんと母さんは知り合いの仕事の邪魔、ゲフンゲフン、話に行ってくるからコレで飯でも食って来てくれ」
そう言って父さんは金貨6枚を取り出し渡してくれた。
「りょうか〜い」
「くれぐれも迷子になるなよ〜!」
「迷子て」
知り合いの仕事の邪魔、もといお話に行くらしい父さんたちと別れ王城を出る。
王城の前の道は流石王都の中心街というか、多くの店と人で賑わいを見せている。
島国という地理的には不利なこのハイゼラード王国、しかし経済は世界的に見ても相当に上澄みである。
その中心地が王都ハイゼリア。
1億8000万人の人口の1割がこの王都に、そしてその周辺に3割近い人々が住み大都市圏を形成している。
そして外国の貿易のためにすぐそこに大規模な港町もある。
故に、外国の料理が立ち並ぶ専門店街やなども多くある。
「ハル、何か食べたいやつあるか?」
「う〜ん……さっきお姉ちゃんが食べてたっていうラーメン!」
「よし、じゃぁオムレツでも食いに行こうか」
「えぇー!」
「冗談だよ。にしてもラーメンかぁ……どこか良いところあるかな」
何か良い所がないか電話で検索してみる。
近くに何軒かあるな。
1番評判が良いのは……これか。
大通りに面した所にひどく評判の良い店があった。
そこに行ってみるとしよう。
数分ほど歩いたら目的の店が見えて来た。
「うし、ここにしようか」
中で何かガヤガヤと人が騒いでいる。
ものが壊れたり何か不穏な気配しかしない……。
ドアを開けて中に入ってみるとテーブルとカウンター席に分かれていそうな空間だった、
こんな言い方になっているのは今テーブルが全て無いからだ。
私たちから見て左側にテーブルがグッチャになって一箇所にまとまっており、そこに1人の少女が蹲っている。
そして右側に殴り飛ばしたであろう男がイラついた様子で首をポキポキと鳴らしていた。
そんな光景を見た私たちは思わず、
「「「えぇ…………」」」
普通に引いた。
ちなみに今は2月の後半ぐらいの設定なので受付をやっていた三期生のお兄さんは、進路が決まってるのに学校に来てしまったせいで、今年の入学受付係に選ばれた地味に不憫な人です。




