最悪
三題噺もどき―ななひゃくななじゅうさん。
頭上には、星が光っている。
あるはずの月は、あまりにも細くて見えやしない。
その代わりにとでも言うように、星は煌々と光っている。
「……」
住宅街ではあるが、街灯が点々としかたっていない。
そのおかげで、こうして星が比較的よく見えるのだろう。
冬になり始めて、空気が澄んでいるのも関係しているのかもしれない。
「……」
ひゅう―と、小さく風が吹く。
思わず身震いするほどに冷たい風は、徐々に体温を奪っていく。
一応、歩いているし、厚着はしているからそこまで寒いこともないのだけど。
とは言え、むき出しになっている部分はあるから、冷えてしまう。
「……」
今日はカイロまではいらないだろうと、持ってこなかった。
もうほとんど冬の装いになった状態で、更にカイロまでとなるとさすがに暑くなりそうだったのだ。
まぁあれはどちらかと言うと、手先を温めるのには向いているが全身とはいかないからな。貼るカイロなるものもあるが……あれはあれで火傷なんかしそうだ。
「……、」
小さく息を吐けば、一瞬だけ白く染まる。
この時期でこれならば、今年の冬は散歩の格好も考えようだな……あまり厚着をすると動きづらくなるし、かと言って寒いと鈍るような気がするし。
いい塩梅を探ることができればいいのだが、そう簡単には行かないからな。しかも今年の冬もどうなるかわかったものではない。夏でさえ毎日のように気温が代わっていたようなものだっただろう……。今年は異常気象もいいところだな。
「……」
少しでも冷えを抑えられるように、手を上着のポケットに突っ込んでおく。
首元が少し冷えるが、まぁ、コレは仕方あるまい。
むき出しになった耳の先の方は、ほとんど感覚もなくなりかけている。
「……」
あぁそう。
今日は久しぶりに公園にでも行こうと思って、歩みを進めている。
いつぶりかも分からないくらい……と思ったが案外そうでもないかもしれないな。それまでが頻繁に行き過ぎていたのだ。本来はこれくらいの頻度が丁度いい。
そうなると、公園のブランコが少々拗ねるかもしれないが……まぁあそこはシーソーを初めにそれなりに大人の対応をしてくれる遊具たちもいるからな。
「……」
きっとあそこにある桜の木も、紅葉をむかえるころだろう。この辺りにはもみじや銀杏の木はないから、紅葉を見るにはあの桜に頼るしかない。
花壇にも冬の花が植わっている頃だろうか。
「……、」
と。
まぁ、らしくもなく。
少し心なし、楽しみにしながら歩いていたのだけど。
「……」
『……』
厄介者はどこにでも現れる。
コレはやっぱり暇なんじゃないか……?それのついでにこちらに厄介をかけられても面倒なのでホントにやめて欲しいのだが。
今の状況じゃぁ、家のを呼ぶわけにもいかないしなぁ。
『別に暇しているわけじゃァないんだけどねぇ』
道の先に現れた、ソレは、今の時代に似つかわしくない貴族のような恰好で。
月の居ない夜空の下に立っていた。
にこりと、何が楽しいのか知りはしないが、口角をあげて楽しげに笑っている。
「……」
まぁ、こちらも暇ではないので。
関わらないようにしておこう。
不審者には話しかけられたら逃げろと何でも言うだろう。
『―って、ちょっ』
くるりと背を向け、来た道を戻ろうとしたところ。
あり得ない速度でこちらに近づき、あり得ない距離で目の前に立った。
「……近い」
『僕は君の御尊顔が見れて嬉しいね』
「……」
やはりコレは頭がおかしいのだ。にやりと三日月のようにゆがむその唇が神経を逆なでしていく。昔からそうだが、こういう変な奴はどうして同じような顔をしてこちらに接触してくるのだろう。……これなら、下手な刺客とかの方がましだ。
「……なんのようだ」
これ以上口も聞きたくないが。
絡まれても困る上に、この先についてこられても困る。
いや、もう公園には行けないか。
『用事……という程の事もないのだけど……』
「なら帰れ」
『そうそう。僕、君の母上と結婚したのだけど』
「……………………は、」
『親になったのだから、子供の事は好きにしてもいいのだよね』
お題:もみじ・シーソー・星




