第03話「君の青春は輝いているか」(3/4)
鋼鉄都市は依然、弱く長い雨によって薄暗闇に包まれていた。
家から逃げ出してきたマコトは、多摩ロボットシティのメインストリートの近くにあるコンビニに避難していた。温かい飲み物を買って三十分から一時間近くはイートインで不貞腐れていたが、ガラス越しにすぐ外の交差点を眺める以外に大してすることもない。そもそも目的があって出てきた訳ではないから仕方のないことだった。
マコトは席を離れ、入口を挟んで反対側にある雑誌コーナーに足を運んだ。書架に並ぶ無数のカラー表紙の中から、目に留まった一冊を無造作に手にしてみる。それは星座や、各星座に紐づけされた神話エピソード、最新の探査計画などを掲載した『ギャラクシー・マガジンズ』なる代物だった。
「夏の星座大図解、か……珪子姉ちゃんなら喜んで買うかな、こういうの」
五十嵐珪子は星の話をするのが大好きな少女であった。幼い頃からロケット探査やスペースシャトルといったものに深い憧れを抱き、将来は宇宙飛行士を目指すのだと公言して憚らなかったのだ。
雑誌によれば近々、地球外生命体の本格的調査が開始されるらしい。土星の衛星タイタンやエンケラドゥス、また木星のエウロパなどについて珪子が熱く語っていたのを思い出すマコト。
しばらく後、いやいやと首を横に振って雑誌を元の場所に戻す。
「何今更センチメンタルになってるんだ……やめよう。あいつが来た所為で、昨日から姉ちゃんのことばっかり思い出してるな……」
コンビニから出ようと思ったマコトだが、自動開閉したドアのすぐ外にある光景に気付いた時、次の行動をどうすべきかでしばし迷う羽目になった。煮え切らない態度が続いた後、苛立ちそのままに髪の毛をかきむしり、乱暴な足取りで横断歩道の前に向かう。
「ねえキミ……ロボット、だよね?」
「……呼ばれたのは私でしょうか?」
赤信号の横断歩道前でひとり、白いブラウス姿をした中年の女性が、買い物袋を提げたまま立ち尽くしていた。傘をさしてはいるが薄手の服である。見るからに寒そうだったが、その女性の顔色にあまり変化は無いように見えた。
「キミ以外、他に誰がいるってのさ。大体、こんな雨の中で直立不動を続けてたら、バカにだって分かるよ。白い息吐いてる訳でもないしね」
「ご用件は、なんでしょうか?」
こちらを振り向き、逆に訊き返してくる家政婦ロボ。服装はかなり一般的なものだが、ひと世代前の機体なのだろう……表情の変化が少なく内面の変化が読みづらい部分がある。どうしてもケイのことを連想し、マコトは自分で話しかけておきながら、いざとなると戸惑ってしまった。
やめておけばよかった、と内心後悔しながらも、自分を見つめるある意味で無垢な瞳からマコトは逃れることが出来なくなった。
「キミ、名前は?」
「製造番号DRM-22、通称・タマコです」
「いつまでここに立ってるつもりなの? すぐそこのコンビニから見えてたんだけどさ……もう三十分近くそのままじゃないか。帰らないの?」
「直線距離およそ二百メートル前方に、私を購入したユーザーの自宅があり、目的地に設定されています。しかし、」
マコトが指摘した通り、雨中で喋っていても家政婦ロボの口からは白い息が漏れる様なことはない。人間が安心できるよう疑似的に口を動かしてはいるが実際は内臓スピーカーで発声しており、呼吸もしていないから当然だ。
話しながら彼女は、目の前にまっすぐ伸びる横断歩道へと視線を戻す。そこでは現在進行形で、ビュンビュンと風を切る様にして無数の車の往来が続いていた。
「先程から信号が青に変わらないため、前進することが出来ないのです」
「GPSにばっか頼ってるからだよ。ここはね、開かずの歩道で有名なんだ。一時間待ったって開くかどうか怪しいぐらいだよ……近くに大きい工場がある所為だ。この道路沿いをさ、あっち側にまっすぐ行ってごらん」
マコトが指差した方角を、家政婦ロボは首だけ動かして確かめる。
「百メートルぐらい進めば、立体歩道橋があって簡単に道路の向こうに渡れるから……ここで信号が変わるの待ってるよりも、ずっと早いよ。多分だけど、小さい子供とか待ってるんだろ。早く帰ってあげないと寂しがるよ」
「ルート確認、修正完了。目的地までの所要時間、およそ十分」
「ほらね」
再びこちらを見たタマコなる家政婦ロボの瞳の奥で、ぐるぐると七色の光が渦を巻いていた。額に添えられたカラータイマーもである。初期型のディアーロイドの中にはこうして、演算処理の最中にまでランプを明滅させるモデルがある。無駄な機能だとして後継機では排除されたが、如何にもロボット的だと一部のマニアが旧型機を欲しがる要因にもなっていた。
「……ご親切に、ありがとうございました」
「お礼なんていいから、早く行きなよ」
「失礼します」
一礼して家政婦ロボは去っていく。その後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、ふと我に返ってマコトは深々と溜息を吐いた。
「……何やってんだろうなぁ、ボクは。ロボットなんて見捨てちゃえばいいのにさ……あんな奴の言う事真に受けてバカだよな……バカ、バカ……」
俯きながらブツブツ言っていると、余所見していた所為で向こうから歩いてきた誰かと正面衝突してしまう。明滅する視界に頭を押さえながらも、マコトは慌てて相手に頭を下げ、詫びた。
「ご、ごめんなさい。ちゃんと前見てなくて」
「――懺悔をするのよ、ボク」
「あの、今謝って――えっ?」
一瞬だけ間があって、すぐに違和感を覚えたマコトは顔を上げる。
それは雨合羽を羽織った女性のようだった。手提げカバンを持つ主婦らしくマコトより若干背が高い。しかし周囲が暗いうえにフードを被っているので、近づいて目を凝らさないとよく人相が判別できない。
すると次の瞬間、薄暗闇の中で女の両眼がカッと発光した。マコトは戦慄を覚える。しかも通過した車のライトに照らされ、その手に握られた包丁らしき物体の鋭い輪郭がギラリと浮かび上がった。
マコトは次第に歯の音が合わなくなり、ガタガタ震えて後ずさりした。
「な、ななななんで……まさか……!?」
「偉大な我が主の前に跪き、悔い改めるのよ……そして……」
「あわわわわわ……」
女が微笑みながらこちらに手を伸ばしてきたように見えて、マコトは考えるよりも先に飛び退き、脇目も振らず走り出していた。雨が体に張り着くのも構わず、道路沿いの歩道をひたすらに走り抜ける。けれども普段から運動慣れしていない所為か、たちまち息が切れ始めた。
ちょうどその時、地域でも比較的大きめの小学校の前に差し掛かる。間の良い事に、傘を差した教師らしき女性が校門から外に出てきたところであった。この際、誰でもいいから助けを求めよう。そう思って、女教師らしき人物の元に急いで駆け寄った。
「お願いです! お願いです、助けてくださいッ!」
「あら、どうしたの? キミ、ずぶ濡れじゃないの」
「変な女に追われてるんです……頼むから匿って下さい! このままじゃ――」
「変な女? 良くないわねぇ、乱暴な言葉遣いは」
そう言って彼女は、持っていた傘を突然手放した。露わになったその両眼がまたしても不気味に光り輝く。薄くのっぺりとした微笑みが、マコトを間近で見下ろしていた。
マコトは息が止まりそうになった。恐怖と動揺で体温が急激に低下していく。
「我が主の名の下に……お仕置きが必要ね?」
「うわぁ――――ッ!」
マコトは女教師から直ちに離れると、小学校の敷地も離れて更に更に遠くへ逃走を続けた。頭の中が真っ白になっていた。もはや自分でも、何処を目指して逃げているのか、どちらの方角へ向かっているのか、皆目見当もつかないような状態だった。
気がつけば、住宅地から離れた線路沿いを無我夢中で走っていた。ところが今度はその進路上に、一台のオフロードバイクが滑り込んできて急ブレーキをかけた。そこに乗っていたのは、金に染め上げた派手な長髪に、眉を剃り上げピアスをした、レディースの暴走族らしき人物だった。
「逃げてんじゃねーぞこのガキィ!」
ロケットカウルを装着したピンク色の派手バイクに跨って、メンチを切ってきたその女の両眼が光を放つ。マコトは絶句させられた。
「ご主人様にスジ通せってんだコノヤロー!」
「なんだよ……ッ、なんなんだよぉッ!」
マコトは殆んど泣きべそをかきかけていた。殆んど本能に任せて、目の前にそびえていた金網に飛びつく。自分でもどうやったか分からないが、マコトはそこをよじ登って線路内に侵入すると、偶然目に入った古い車両整備場に駆け込んでいった。
雨と泥にまみれてボロボロになり、線路のレールに足を引っかけて度々転びかけながらも、逃げ続ける。とっくの昔に体力が限界だったが、それでも足を止めることは出来なかった。
その時、錆びついた工場内にグゥオンとバイクの空ぶかしの音が鳴り響く。振り返ると、ピンク色の族車が高々と跳躍して、そのタイヤがマコトの後頭部まで迫ってきていた。
「うわあっ!?」
直撃こそ免れたが、バランスを崩したマコトはすっ転ぶ。
一方着地したバイクは方向転換すると、先程と同様に急停車。マコトの行く手を塞いでしまうと、降車した暴走族の女はまるで脅しつけるように肩で風を切りながら近づいて来た。
起き上がろうとしたマコトは、更に別々の方向から先だっての主婦と女教師が姿を現したことに気がつく。三方向から取り囲まれ、逃げ場を失ったマコトは寒さと恐怖で一層ガタガタと身体を震わせる。
「さあ、素直に認めるのよ」
「我らが主を踏みにじり、傷つけた事実を」
「何にも知らねー顔でのほほんと生きてやがる罪をな!」
「知らない……知らない知らない知らないッ!」
三位一体で問い詰めてくるロボットたち。しかし、マコトはもう何も考えられなかった。両手で懸命に耳を塞いで目を閉じ、かぶりを振って必死に現実を拒絶する。そうこうしているうちに、マコトの上に彼女たちの影が一斉に覆いかぶさってきた。
殺される。確かにそう思った。
「――――異常熱量感知……敵性反応を複数確認」
刹那、風を切り裂く鋭い音が広がる。ここ数日で何度となく見た銀の円盤が何処からともなく飛来して、主婦ロボットの間近にある円柱に突き刺さった。特殊合金製の給仕用トレイ――予期せぬ事態にロボットたちは身動きを止め、周囲を警戒した顔つきになった。
まだ終わりは訪れていない。マコトがそのことに気付いた時、車両整備場の出入り口で後光を放つように仁王立ちしたメイド姿の少女が目に映る。
「マスターガードプログラム発動……強制排除措置を講じます」
まさか、そんな。マコトには俄かには信じられなかった。
この場所が分かったことがではない。あれだけ一方的に拒絶したのに、それでもなお自分の元に駆けつけてくれたことが、マコトには理解出来なかった。
けれど今は理由などどうでも良かった。
考えるより先に、マコトは少女の名を叫んでしまっていた。
「――――ケイッ!」
「マコト……ようやく見つけました」
「ケイ、お願いだ、助けて!」
思わず言ってから、マコトは自分への嫌悪感で顔を伏せる。聞こえるかどうかも分からないような声で必死に弁解してしまう。
「こんなこと……頼める資格ないって……分かってるけど……だけど……」
「初めて、名前を呼んでくれましたね」
ケイに言われて初めて、マコトは自分でもそのことに気が付いた。
それはマコトの勝手な願望だったのかもしれない。けれども、変化に乏しい彼女の表情が、今だけは慈悲深く微笑みかけてくれているような、そんな気がしてならなかった。
「命令は不要。私は必ず、マコトを守りますので」
ケイはそれだけ告げると、即座に視線を三体のロボットたちへと移す。両腕を眼前に構え、静かにファイティングポーズをとる。最初にそれに反応したのは女教師姿のロボットだった。
「メイド服など破廉恥極まりない……校則違反ですわ。お子様が色気づくなど言語道断」
言いつつ、教師ロボは見るからに金属製の、指揮棒のようなものを取り出してスラッと伸縮させた。しかし相手を脅しつけるようなその持ち方は、まるで警棒かムチを連想させた。
「この世から退学なさいッッッ!」
「偏見に基づくような発言はお控えください」
一人で走り出し、指揮棒を振り上げ襲い掛かってくる教師ロボ。
だが冷静に返したケイはその場で高々と跳躍、突撃を躱しながら敵の背後に着地すると、振り返る動作そのままに右腕を突き出し発射した。ずっと離れた場所にいた教師ロボが首根っこを掴まれ、ワイヤーの巻き取りであっという間にケイ本体へと引き寄せられていく。
「言い訳など聞かなぁぁぁぁぁぁッ!?」
「この姿は、貞淑の証です」
教師ロボを捕獲したケイは、そのまま体を大きく捻ると目の前にあった廃棄列車の窓に向かって敵を頭から叩き込む。そこにあったガラスが心地よい音を立てて砕け散り、半身が中途半端にはまり込んでしまった教師ロボは、もがくようにして足をバタバタさせるばかりだった。
「な、なんだ今の……」
「私の腕は射出可能なのです、マコト」
もう片方の腕で接合部を微調整しながら、しれっと報告してくるケイ。
そんなことを言われても、マコトとて目を丸くする以外にない。
「何がメイドよ……私たちに、金持ちの道楽を見せつけて……貧乏人を馬鹿にしちゃって……この……この……」
主婦姿のロボットが、雨合羽を脱ぎ捨てると何やらブツブツ言いながら手提げカバンをまさぐり始める。マコトはギクリとした。そこから出てきたのは、数えきれないほど大量の出刃包丁だったのだ。
こんなものを隠して持ち歩いたら銃刀法違反で即座に捕まりそうだったが、ケイはそれらを見てもピクリとも動じる気配がない。
「どうせ私たちを心の底で笑ってんでしょォォォォォォォォォォ!?」
「そちらの事情など、存じ上げません」
「お黙りッ、主婦の敵ィィィィィィッ! キエェェェェェェェッ!」
「ですから、知りません」
主婦ロボが悪鬼の形相となり、両手いっぱいの包丁を次々に投擲する。
ケイは再び右腕を射出した。今度は整備場の天井付近に渡された柱の一本を掴むと、ワイヤーを戻す勢いで飛び上がっていく。タッチの差で包丁が今いた場所を掠めていき、標的を見失った主婦ロボは空中を睨み付けた。
柱を手放したケイは、右腕を再装着すると徐々に落下しながら、空中で体の向きを反転させる。メイド服のスカート部分が風を浴び、花弁が開く様にしてふわりと広がった。
直後、スカート内部で十字状の光が煌めき、地上にいた主婦ロボは幾重にも折り重なるような光の矢によって全身を貫かれた。
「ギエエエエエエエエッ!」
「申し訳ありません。ですが、仕様でして」
落下し続けながら事もなげに告げるケイ。その太もも付近から、いつの間にか周囲のスカートを押しのけ、金属質の武骨な砲身がふたつ、ニュッと突き出して地上に狙いを定めていた。
「私がスカートをめくると、謎の光が生じるようです」
「……れ、レーザー砲!?」
マコトの仰天も何のその、元いた地点に着地したケイは地面を転がって逃げていく主婦ロボ目掛けて、更に太もものレーザーを乱射した。命中したものは少なかったようだが、敵の持っていた包丁は一つ残らずドロドロに溶けてしまっていた。
ケイは圧倒的かと思われた。ところが二門のレーザー砲身をスカート内部に収納した直後、突如としてケイは背中から火花を散らばし、整備場のレールの上に倒れ込んでしまう。
「け、ケイ、大丈夫か!?」
「スカした顔してんじゃねーぞぉ!」
ピンク色のバイクが爆音を轟かせ、縦横無尽に工場内を駆け巡る。暴走族ロボはバイクの速度に任せ執拗にケイへの体当たりを繰り返し、その度に彼女はすれ違った箇所から火花を噴き上げ転倒させられていた。
「ご主人様ご主人様ご主人様アァァァァッ! ヒャハハハァァァァァァッ!」
「何言ってん――うわあっ!?」
「マコト、危ないので隠れていてください」
すぐ傍をバイクが通過していき、マコトは思わず仰け反った。
冷静に言って立ち上がったケイは、バイクの動きを予測する。たちまち分析完了。次にバイクが突っ込んで来た瞬間、ケイはぶつかる寸前で体を反転させ運転していた暴走族ロボだけを捕まえると、強引に引きずり下ろした。バイクは制御を失って転倒し、速度はそのまま工場の床を滑っていき主婦ロボと教師ロボをまとめて薙ぎ倒した。
「マコトを狙う理由は、なんですか」
「ぐ、ぎ、ぎぎぎぎぎ……」
敵の胸倉を掴んで離さず、宙づりリフトのまま尋問するケイ。心なしか暴走族ロボは妙に苦しそうに見えた。
「答えてください。マコトを狙う理由は……」
「「「――コレで終わッタと思ウな」」」
「……?」
マコトは隠れていた物陰からつい身を乗り出していた。ケイの捕えた暴走族ロボが唐突に全身を痙攣させたかと思うと、別人としか言いようのない野太い声を発し始めたのだ。
今しがたバイクに薙ぎ倒された主婦ロボと教師ロボも立ち上がっており、同様の状態に陥っている。今や三体のロボット全てが意識をシンクロさせたかのように同じ言葉を発していた。
「「「ワスれたトハ言わセナイぞ五十嵐マコト……おマエが大きナ罪を犯シタ事……オマえヲ必ズ地獄へ送っテヤル…………必ズ……必ずダ……!」」」
ロボットたちの視線が一斉にマコトに集まる。気がつけばマコトはヒュッと息を呑んでいた。三体ともその瞳がどす黒く変色していて、まるで何か邪悪な意志に乗っ取られたかの様であったからだ。恐怖のあまり、マコトは金縛りに遭ったが如く動けなくなってしまう。
「「「何モカも……オマえの所為ダ……何モカも……!」」」
「…………何のことだよ」
「「「とボケるナァ!」」」
マコトに向かって、三体のロボが一斉に絶叫した。
「「「必ず罰しテヤルからソウ思エ……ソノ不愉快ナ顔を絶望で染め上ゲてヤる……そシテ――」」」
「――もう、結構です」
ケイが捕えていた暴走族ロボを、無造作に残りの敵目掛け投げつける。
衝突した三体は凄まじい音を立てて絡み合うように転倒、会話は強引に断ち切られた。マコトはそのことでやっと我に返らされる。
「マコト、出来れば目を閉じていてください」
「は……?」
「十五歳未満には刺激の強い可能性がありますので」
それからの彼女の行動は、全く予期せぬものだった。
ケイがいきなり、両手でメイド服の襟元を掴むと乱暴に引っ張り広げ、己の胸元を公衆の面前に曝け出したのだ。これには今までで一番仰天してしまい、マコトは咄嗟に顔を真っ赤にして背ける。
「ななななななな何してんだケイこんな時に!?」
「メガメイドプラズマ、レディ」
ケイの宣言に合わせて、なんと彼女の胸の合間から一本の極太の砲身がせり出してきた。たちまち砲身内部に青白い光が蓄積され、膨張を始める。マコトは数秒前の気恥ずかしさは何処へやら、思いもよらなかった光景に目が釘付けになった。
「これが――メイドの土産です」
極限まで膨れ上がった光が、ケイの一言で解放される。ケイの胸元から撃ち出された青白いプラズマの奔流が、起き上がったばかりのロボット三体を全てまとめて飲み込んだ。圧倒的な光と熱の暴力。ケイによるそのプラズマ放出が止んだ瞬間、三体のロボットは断末魔も残さずに砕け散った。
爆炎が廃工場の一角を完全に包み込む。物陰で身を縮こまらせていたマコトでさえも、爆風の煽りを受けそうになる。原型も留めぬほど木端微塵になったロボットたちの部品の数々が、雨あられと周囲の物体に命中して小さな傷をこしらえていった。
しばらく経ってから今一度マコトが顔を覗かせると、ケイの視線の延長線上にあった物体は跡形もなく消し飛んでいた。あまりの威力に絶句しかけたが、それより射線の大元にケイが依然立ち尽くしているのに気がつき、思わず彼女のことが心配になる。
「け……ケイ……?」
ケイは現在、全身各部から噴出した冷却液によって白煙の中に包み込まれていた。中でも大量の蒸気を発するのは件のプラズマ砲身であったが、やがてそれも胸の奥に引っ込むと、ケイはすぐさまはだけていたメイド服を元に戻し、機械的に告げる。
「敵性反応……消失……プログラム……通常……」
自覚があるのかないのか、次第に消え入るようなケイの声。
遂に彼女はエラー発生時と同様、仰向けにひっくり返って動かなくなった。




