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は?コイツ何言ってんの?〜自己中戦隊ジブンガーの実態〜  作者: NAO
第2章 誰にでも心には冬が棲んでいる
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8.買い物タクシー

 義母は脳梗塞の治療後、リハビリセンターを経て二ヶ月程で自宅へ帰ってきた。

 右手と右足に少しの後遺症を残して。

 後遺症とは言っても少しだ。

 全く立てない訳でも、全く動かない訳でもない。

 普通に歩けるし、普通に指が動かしづらい位で、日常生活をどう送るかでも、後遺症を更に軽くできる、と医者に言われていた。

 しかし義母はなかなか堕落した生活を送っていた。

 勤めていた会社を辞め、自宅でずっとテレビを見ている毎日。

 買い物も家事も義父任せ。

 そんなんでは良くなるものも良くなるはずもなく。


 そして、夫にもその負担はのしかかった。

 毎週、仕事の休みの日に買い物に連れて行け、と言うようになった。

 私はこれを「買い物タクシー」と呼んでいる。


 最初のうち、私はその買い物に付き合うことはなかったが、うちも買い物はしなくてはいけないので、仕方なく付き合うことにした。

 夫が義両親の買い物と、家の買い物、別々に行っていたら効率も生産性も悪いから。


 そんなある休日。

 安定で義両親の買い物に出かけていた。

 夫が運転し、私が助手席。

 義両親は後部座席。

 お陰で私は義母の顔を見なくて済んでいる。

 私は自分の存在を消し、空気になる。

 私から話しかける話題もないし、報告なんてない。

 それに義母の近況も正直興味はない。 

 義母は常に夫と話をしている。

 お店に着くと、夫は義母に付き添い、そそくさと先に行ってしまう。

 私と義父もそれを追いかける、と言う構図の時だ。

 義父が私に言った。

 「今までごめん。」

 私には意味が分からない。

 「何がですか?」

 「自分の嫁(義母)の言う事だけ信じて、嫁をだめな子って思ってた。」

 義父は本当に申し訳なさそうにそう言う。

 そんな事を言う人ではないって聞いていたので私は驚いた。

 「いや、自分の奥さんの言うことを信じるのが普通ですから、お気になさらず。」

 と、私が答えると義父はさらに申し訳なさそうに言う。

 「息子や娘に言われたよ。嫁ちゃんは自分の事より他人を優先する子だから、お母さんの言う事の方が間違ってるんだって。お弁当の事も、掃除も、洗濯も、洗い物も、なんでやらなくなったのかも息子から聞いた。あなたが自分から辞めたんじゃなく、あんな事言われたら手を出せなくなるのは当たり前だ。」

 私は誰かに味方になって欲しくて、他人に自分の良さをアピールしたり、誤解を解くことはしない。

 人間の心理は、自分の信じたい人を信じるからだ。

 私の行動や言動を、自分の意思で判断してくれる人が味方でいてくれれば良い。

 夫や義姉のように。

 だから義父に自分がされたことを言うつもりもないし、誤解を解くつもりもなかった。

 それに長年連れ添っているのだ。

 新参者の私の味方をされても、それはそれで違うでしょ。

 「私も気にしてないので、お義父さんも気にしないでください。」

 私は笑って言った。

 「そうか…?ありがとう。」

 と、義父はそう言うとそそくさと夫と義母を追いかけていった。

 私はふっと笑いながら

 「義父の面倒なら見てあげたいな。」と、思った。


 買い物が終わり、帰りの車の中。

 私は安定で空気だ。

 私の人生に、義母の必要性を感じない。

 だから無理に話を合わせる事もしないから話の内容も聞いちゃいない。

 興味ないし、私には関係ない。

 すると義母が

 「嫁は最近どうなの?」

 と突然話を振ってきた。

 「特に変わりはないですよ。」

 ただし、話を振られた時は別だ。

 私は笑いながら答えた。

 人間関係は距離感が大事。

 私との会話をしようとするならする。

 義母は会社の「お局様」だ。

 「実家から引き取った猫ちゃんは元気?猫ちゃんがいるだけで幸せよね。」

 そう言ってきたので、私は

 「そうですね。甘えん坊なのが更にかわいいです。」

 と、笑いながら言うと義母は

 「でも、今までいた家を追い出されてかわいそうよね。ちゃんと最後まで面倒見れないなら飼わなきゃいいのに。無責任ねぇ。」

 その言葉に少しカチン☆としたが

 「13年何事もなく仲良くしていたのに、急に毎晩、毛がごっそり抜けてたり、おしっこ振り撒く程の大喧嘩しだして、動物病院の先生に相談したらお互いのために離れて暮らしたほうがいい、と言われて泣く泣く私たちに委ねたんです。母だって最後まで面倒見るつもりだったのにできなくなって凹んでます。」

 と、とりあえずそう返答する。

 「でもねぇ?無責任じゃない?喧嘩しただけでしょ?飼い方間違えたんじゃない?その子もかわいそうね、追い出されちゃって。喧嘩なんてうちで飼ってた子たちはそんな事なかったもの。」

 は?コイツ何言ってんの?

 だから無責任って何だよ。

 泣く泣く私たち委ねたんだよ。

 私たちにしたら「任せて貰った」んだよ。

 てっ君が安心で安全に生活できる環境だし、私たちの家は実家からも歩いて5分の場所。

 まぁ、確かに猫様は環境の変化を嫌う生き物ではあるけど、今では私たちにべったりだよ。

 この人はいちいち癪に触る事を平然と言う。

 「そうかも知れませんが、私にとってはお猫様が来てくれて幸せなので、実家にいたときよりもあまやかしてますから。」

 心を落ち着けてトゲのないようにそう返した。

 それがあの時の私の精一杯だった。

 夫がちらっと私の顔を見る。

 きっと私はすごい顔をしていたんだろう。

 「それぞれの家の飼い方があるんだから、お前の飼い方が正しかったかどうかなんて関係ないだろ。それに、オス猫同士はそういう事多いみたいだし、また元に戻って仲良くなることもあるし、ならない事もあるんだよ。うちはオス猫同士の多頭飼育なんてしたことないのに偉そうなこと言うなよ。」

 と、義母をたしなめた。

 「そうね。」

 義母は少し機嫌を損ねて、それ以上の会話はなかった。


 私はこの時気が付いた。

 私の怒りのトリガーは「自分以外の人に向けられた悪意」だ、と。

 私自身が馬鹿にされたり、けなされたり、窮屈な思いをしたり、いびられたりラジバンダリでは「あー、またですかワロスワロス」程度の気持ちしかなく、むしろ「嫌いな私を構ってる程の暇人」と思ってた。

 だから、同居してる時も、嫁いびりだと気付かなかった。

 今、コイツは、うちの実母をけなした。

 無性に腹が立つ。

 私が「コイツ何言ってんだ?」と思って反論する時の殆どは、「他人、特に私の知人に向けられた悪意ある言葉」の時だった。


 私自身がそれに気付いてしまった事に、激しく後悔する事になるのだが…それはまた別の話。

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