17.脳内に咲いたお花畑に除草剤撒いてやりたい
義姉が家にいる時、良くこう言っていた。
義母に嘘を付いているつもりは無い。
自分にとって都合の悪い事実を脳内で改ざんしているのだ。
だから義母は嘘を付いている自覚がない。
脳内では事実に改ざんされているから、義母にしたら事実。
だから義母はしょっちゅう
「息子が出ていったのは嫁の家に取られたからだ!」
「嫁が勝手に出ていって、息子もついて行った!」
「家事だって好きにやれって言ってたのに、やらなくなった!」
と、言っていたらしい。
それが義母にとっての「事実」、当事者にしたらただの「虚言」だ。
もちろん義姉は
「違うでしょ?アンタが追い出して、行く所なかった嫁ちゃんたちはこの家に住ませてもらってるの!勝手に記憶改ざんするのやめなよ!」
と怒って修正して、義母もそれを認めていた。
そして厄介なのは、誰かの好意を「裏がある」と捉える思い込み。
「きっと私に良くしてるのは、この人は私を利用しようとしている」と思い込む。
義母にとって「誰かの為にしてあげよう」は、「してあげれば、当然自分に良い事をしてくれる」としか思ってない。
そう言う考えだから、誰かの「好意」を受けた時、「自分が相手に何かしてあげると思ってる」=「利用してる」と考える。
だから基本的に他人を信用していないから、義母の言う事はこっちも信じなくて良い。
て、言うか信じちゃダメだし気にしたらダメ。
疲れるから。
なるほど、見事な脳内お花畑だ。
他人を信用できないって、ある意味可哀想だとは思うし、ある意味義母の猜疑心も大したものだ。
他人の言う事は聞いてないし覚えてない。
自分がしてあげた事は覚えてるけど、他人からしてもらった事は覚えていない。
自分の都合よく脳内記憶を改ざんして、他人に迷惑をかけている事すら気付かない。
ジブンガーは自分にしか興味はないんだ。
そんな生き方って疲れないのかしら。
しかし、私の知ったことではない。
義母に都合の良い最善なんて、するつもりは毛頭ない。
私はただ、「自分の為」に、義母の機嫌を損なわない努力をするだけだ。
自分の為、それは「お仏壇を壊されない努力」と、「この家で義母を死なせない努力」である。
1週間後、義実家のお猫様たちの引っ越しも済み、義母の転居に伴う手続きも終わった。
義実家は隣市だったため、転出と転入がちょっと面倒くさかったが、当然義姉がすべてやってくれた。
足が不自由ということもあり、行政に障害者の手続き、そして毎日どこにも出かけないであろう義母と、1日中一緒にいたら、私が参ってしまうだろうと気遣ってもらい、デイサービスを受けるため、ケアマネージャーとの契約も済ませた。
何度も言うが、義母は何もやっていない。
ま、そう言う手続き関係は私も何も手を出してないけどね。
その代わり、義姉が家にいる間の家事の全ては、義姉の分も含めて私がやっていた。
私の体調も大分落ち着いたので。
私は炊事への苦手意識があったのだが、義姉は「嫁ちゃんが作るご飯はいつも美味しい!」と言ってたくさん食べてくれた。
ホントありがたい。
義母もご飯に関しては特に何も言わず食べてくれたので、とりあえずは良かった。
これでケチつけられたら、義母には別の方法を考えなければならなかったから助かった。
そんなこんなで、義父が亡くなってから早1ヶ月、こちらでやらなければならなかった手続きは終わったので、ついに義姉が帰る日がやって来てしまった。
「嫁ちゃん、ホント何かあったらすぐ連絡してね?」
義姉はぎゅっと抱きしめてそう言ってくれた。
「ありがとうございます…まぁ、できれば何も無い事を祈りたいです。」
と、私は少し涙ぐみながら答える。
私は長女なので、姉や兄はいない。
だからだろうか、私はずっと「お姉ちゃん」「お兄ちゃん」が欲しかった。
だから本当のお姉ちゃんみたいで大好きな義姉が帰ってしまうのは、淋しいし悲しかった。
義母の事がなくても、もっと一緒にいたかったと言うのが本当のところだ。
「帰ったらまたダイエットしなきゃ。嫁ちゃんのご飯が美味しくて太っちゃったから旦那に怒られちゃうわ。」
と、義姉は優しく頭を撫でてくれた。
「またいつでも来て下さい!腕ふるいますね!」
私も笑って答える。
「お母さん、ちゃんと嫁ちゃんの言う事聞いて、家事も手伝うんだよ?いつか一人暮らしするためのリハビリだと思ってちゃんとやりなよ。あと、嫁ちゃんが怒らないからって調子に乗らないようにね?」
と、義姉は義母の方を向いてそう言うと、義母は
「大丈夫、分かってるよ。」
と、言うと少し涙ぐんでいた。
「本当なら嫁ちゃんが嫌だって言ったらここにいられなかったんだからね?ちゃんと感謝しなよ?嫁ちゃんをいじめるような事したら私が許さないからね。」
義姉が義母にそう言う少し強く言うと、義母は
「分かってるよ。前だってちゃんとやってくれてたのは知ってるから。勝手に出て行かなくても良かったのに出て行っちゃったのは残念だって思ってたんだから。」
と、泣きながら言う。
…んっと?え?は?コイツ何言ってんの?
と、涙が引っ込んだ。
「…まぁいいや。とりあえず帰るね。また連絡するよ。」
義姉がそう言って車に乗り込もうとした。
その時、義姉は義母に聞こえない様に、そっと私に耳打ちした。
「記憶修正したのに、また改ざんしてたね…嫁ちゃんごめん…。」
と言う義姉に私は笑いながら
「改ざんに改ざん重ねてたので、さすがに、脳内に咲いたお花畑に除草剤撒いてやろうか?って思いました。」
と、言うと義姉は豪快に笑いながら
「なにそれ!除草剤って面白すぎでしょ!」
義姉が車の窓から私と義母に手を振る。
私と義母も手を振り返した。
車が見えなくなると、私は
「お義母さん、家に入りましょうか。」
と、義母を促した。
はてさて、これからどうなる事やら。




