16.お猫様の忠実な下僕
義姉が毎日探してくれたおかげで、義実家お猫様の「新しいお家」が決まった。
引き渡しの日まで、私と夫はお猫様たちのお世話を精一杯させてもらった。
私はお猫様の忠実な下僕だ。
どんなお猫様でも私にとって神様に等しい。
オス黒猫のモカは、最近私と夫が行くとルンルンで駆け寄って来てくださる。
足元でスリスリしてくれるまでに人への信頼を取り戻してくれた。
メスサビ猫のチョコは、そこまでベタベタする程ではなかったが、隠れる事はなくなって触らせてくださる様になっていた。
さて、モカとチョコが「新しいお家」に行く前日。
義母が家に来てから3日目。
義母が二匹に「会いたい」と言い出した。
会いたくなるの遅くない?
私、意識がはっきりしだしてからすぐてっ君に会いたくて「帰りたい」って看護師さん困らせてたのに。
まぁ、その辺は人それぞれか。
それはさて置き、その日、義母が早急に使う日用品や家具を取りに行がないと行けないのもあって、義姉の車で、3人で義実家へ向かった。
私がいれば、二匹はそこまで警戒しないし、お世話もできるからだ。
義実家に着くと、私は先に家に入った。
義母は足に後遺症があるので、車の乗り降りにも時間がかかる。
普段、聞き慣れない車のエンジン音と聞き慣れない人の声、そして足音。
二匹がどこかに隠れるには十分な理由だ。
先に入った私は、台所でウェットフードの準備をして、お猫様の部屋へ入った。
「モカ、チョコ、ご飯だよ!」
と、言うと、二匹がどこからともなく姿を現した。
私はお猫様たちにウェットフードのご飯を差し上げる。
最近は私がいる所でも食べてくれるようになった。
そこへ、義母が部屋に入ってきて、2匹の姿を見つけて
「あら!元気そうで良かった!」
と、ニコニコでご飯を食べている2匹に手を伸ばした。
驚いた二匹はあっという間にタンスの隙間やソファーの下に逃げ込んだ。
「お義母さん!猫は食べてる時に触られるのは嫌いなんですよ!」
と、私は思わず言った。
すると、義母はそんな私には見向きもしないで怒鳴る。
「あんなにかわいがってあげたのに、ホントかわいくない子たちね!勝手にどこへでも行っちゃいなさい。」
と、ぷんすかしながらダイニングの椅子にどかっと座った。
は?コイツ何言ってんの?
義父が亡くなった後、二人で肩を寄せ合って生き抜いてきたんだよ?
人間に頼れないあの空間で命を繋いでくれたんだよ?
人間に見捨てられたって思ってたかも知れない。
でも、少しずつ人間への信頼を取り戻してくれたこの子たちにそれはないだろ。
それでなくても、食べてる時に手を出すのはお猫様には恐怖でしかない。
食べてる時とトイレの時は、無防備になるから警戒心も強くなる。
過去にお猫様を4匹飼っていた人の行動とは思えない。
それでなくても、荷物取りに来たんだろ?
座ってねぇで早く荷物まとめろや。
「いやぁ…さすがにそりゃねぇよ…。」
と、私は誰にも聞こえなほどの小さな声で言った。
つもりだった。
でも、義姉には聞こえていたようで
「猫をかわいがってる自分がかわいいと思ってる人だって知ってるけど…私もさすがにドン引き。」
と、小声で言う。
仕方なく、私はそれぞれのお猫様の隠れている場所にご飯を置き、猫トイレとお水を替えてエアコンの温度を調整した。
ウェットフードはそのままにしておくと傷んでしまうので、しばらく見て見ぬふり。
義母は義姉のセダンに乗る位の小さい家具や寝具、洋服を持って義母と義姉が先に家を出る。
義姉は
「お母さんと私がいると、猫たちも安心できないだろうから、先に車行ってるから、嫁ちゃんは猫たちのお世話してもらっていい?」
と、言った。
義姉と義母が家から出たのを何処かから見ていたお猫様たちはご飯を平らげて姿を現した。
私はチョコとモカに「また明日ね。」と、言いながら頭をそれぞれ撫でる。
そして、家を出ようとすると、お見送りまでしてくれた。
このお猫様たちも、「もうこの下僕とは会えなくなるから、ちょっと優しくしてやるか」と、思ったのかも知れない。
お猫様は賢く尊い生き物だ。
人の言葉も、お犬様と同じ様にちゃんと覚える。
ただ、言葉を分かってるけど、言うことを聞かないだけなのだ。
それなのに「かわいくない」とか「どっかいっちゃえ」とか良く言えたもんだな。
正直、あの人に猫を飼う資格なんてない。
私はお猫様の忠実な下僕にはなれても、義母の下僕には絶対になれないと確信した。




