11.ダメだった
しばらくして、祖父も亡くなり、実家の事でバタバタとした日々を送っていた。
私が家守りをしている、祖父母の家の向かいには、かつて祖母がやっていた華道教室のためのプレハブ小屋があったのだが、その土地を実父が相続したことにより、実妹夫婦がそこに新居を建てたり等、色々な変化があったが、気が付くと義両親が猫を飼い始めて2年が経っていた。
相変わらず義母は猫のお世話はしないものの、義父を仕事から呼び戻す回数は減っていた。
夫はコロナの煽りを受け、義父と勤めていた職場が倒産。
義父はそのまま年金生活。
夫は新しい職場に勤めていたが、義母の買い物タクシーは相変わらずで、毎週毎週うんざりしていた。
その年の年始。
義両親の家に足繁く通っていた訳では無いが、それでも年始の時だけは、義姉夫婦もこちらに帰ってくることもあり、義姉夫婦に会うために顔を出していた。
義姉には会いたかったからね。
義実家の2匹のお猫様たちは、立派な人見知りなお猫様に成長していた。
基本、私はお猫様の忠実な下僕なので、無理やり触ったり、会いに行ったりはしない。
お猫様中心に世界は回ってるので、お猫様が嫌がる事は一切しない。
2匹の内、オスの黒猫様は、私のちゅーる攻撃を躱せるはずもなく、ちゅーるの魔の手に堕ちた。
しかし、メスのサビ猫様は賢く、餌付けされることはなく、触らせてくれるどころか姿さえ見せてくれなかった。
前述した通り、私はお猫様の忠実な下僕。
「触っても良い」と言う確約が得られなければ触りに行かないが、黒猫様は私に「触って良いよ〜」と足元に来てくれた。
すると義母が言う。
「飼ってる私には寄って来ないのに、この子は可愛くない!」
は?コイツ何言ってんの?
前に私の母に言った事をそのまま返すわ。
あなたの飼い方が悪かったんじゃないの?
と、思わず笑いを堪える。
余程、私に寄ってきたのが気に入らなかったんだろうね。
しかし、お猫様は賢い。
お世話してくれる人、どんな気持ちでお世話してるのかをちゃんと理解してる。
お猫様たちの義母への態度は、警戒心を解いてない。
2年間、どんな接し方してきたんだ…?この人は…。
その年のある日、再び義母が救急車で運ばれた。
今度は脳出血。
脳神経外科に2週間入院し、その後リハビリセンターに転院、と、前回と同じ経緯を踏んだ。
義母の入院中、義父は生き生きしていた(らしい)。
義母のお世話をしなくても良かったからだ。
2匹のお猫様と平和に暮らしていた。
まさに「鬼のいぬ間に」ってヤツだ。
だから、夫も義姉もそこまで頻繁に義父に連絡をしている訳ではなかった。
そんなこんなで義母の退院が決まった。
義母の介助ができる人が一緒に暮らしている、と言う条件付きでの退院だ。
正直私にはどうでも良かった。
義父がいるわけだし、迎えに行くのは夫。
私は最初から迎えに行くつもりは全く無かった。
退院の日が1週間後に差し迫った夜。
確か、19時頃だったと記憶している。
義母から夫に電話があった。
「お父さんが電話に出ない、連絡が取れない。」と。
その時点で嫌な予感はしていた。
連絡が取れない、電話に出ない、だけなら良かったのだが、次の一言で行動に移すことになった。
「お父さんの携帯の電源が入ってないみたい。」
義母のその言葉に
「明日仕事の合間に様子見に行くよ。」
と言う夫に対して、私は少し強い口調で
「すぐ様子見に行ったほうが良いよ。この時間帯なら道もそんなに混んでないじゃん?」
と、夫を説得して、夫を義実家に向かわせた。
私は、何か特別なスピリチュアル的な力なんて持っているわけじゃない。
ただ、この時はホントに嫌な予感、と言うより「直感」みたいなものがあった。
胸騒ぎなんて生易しいものじゃない。
もっと、こう危機感を感じるような何かをずっと心に抱いていた。
しばらくすると、夫から電話があった。
夫が淡々と私に言う。
「悪いんだけど、お義母さんに車借りてこっち来てくれる?お父さん、もうダメだった。」