眠れない夜に欲しいもの
今日も夜が来てしまった。昼間に見上げたらきっと澄み渡ったような青空であろうに、今は真っ二つに割れた月がこちらを見下ろしている。
子どもたちの寝息も、扇風機の音も眠気を誘うものなのに、ぼんやりするばかりで夢の世界に行くことができない。いつからこんなに眠れなくなってしまったのだろうか。
「お友達と喧嘩して、お相手が怪我をしています。謝罪をしてください。」
「言ってること意味が分からない。」
「お子さんに愛情伝えてますか。」
「ご飯これだけ?お腹空いたんだけど。」
「お部屋にいられないんです。集団生活が難しいと思います。」
「あー、母さんのせいで上手くいかなかった。」
「母さんなんか嫌い。」
子どもたちが起きてる間は目まぐるしくて、でも、彼らが寝てしまうと途端に、思い出される言葉の一つ一つが雪のようにしんしんと心に降り積もっていく。じっとりと重たい空気にまとわりつかれているのに、心の臓は冷え切ったような感覚に襲われる。
これでも精一杯育ててるんです。周りのお母さんはどうやって立派に子育てをしているのですか。私も同じように頑張っているつもりですが上手くいかないんです。
苦しくて、でも答えのない問いをずっとぼんやり考えている。もう寝ないと、明日子どもたちと遊べないと思いつつ眠気は来ず。本を開いて文字を目で追うものの目が滑っていく。
「うぁああん」
末っ子が泣いている。様子を見に寝室に行けば、どうやらオムツが限界だったようで。汚れたオムツを脱がした途端にケロリと泣き止み、また寝入っていた。
仕方なしに観念して、布団に横になる。薄暗い部屋の中、子どもたちの寝顔を眺める。なんて平和なのだろうか。いっそこのまま時間が止まればいいのにとさえ願ってしまう。
寝室に母が来たのを感じ取ったのか、他の子らももぞもぞと寝返りをうち始めた。壁に向かっていって、なかなかにいい音を響かせている子もいた。それでも起きないとは眠りが深いのだろう、羨ましい。
頬をそっと撫でていたらキュッと指を握られ口元に引き寄せられた。歯固めと思ったのかだろうか。握ったまま口をむにゃむにゃ動かしている。
指を好きなにさせていたら背中側にそっとくっつきにくる子が1人。その背中にもう1人くっついていた。
兄が離れて寂しかったのだろうか。微笑ましい寝姿に心が凪いでいく。
掴まれた指と背中の温もりが、心に積もった雪をゆっくり溶かしていく。雪解け水がツーと涙になって流れていった。雪はまだきっと残っているだろう。それでも苛んでいた雪がゆっくりゆっくり溶けていく気がした。
少しずつ空が白み始めたころ、やっとうつらうつらしてきた。
もう数時間したら太陽が昇る。忙しい1日が、二度と戻ることの出来ない1日が始まる。
だから、今は何も考えず、ゆっくり休もう。
おやすみ、私ならきっと大丈夫。