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KURUTABI STYLE  作者: やしゅまる
6/10

第6話『“久留米”の意味を、世界に』

ステージは闇に包まれている。

巨大スクリーンが回転し、観客の期待を煽るように光を散らす。

その中心に立つのは、小柄な少女——いぶき。


「Final performance… IBUKI from JAPAN!」


轟くアナウンスに、客席がどよめいた。


(いよいよ、うちの“くるたび”が世界の真ん中に立つときや)


いぶきは、深く息を吸い込んだ。

この舞台に立つ直前、ある“お願い”を大会側にした。


「この曲で、踊らせてください」


——流れ出す、三味線とヒップホップが融合した和風トラック。

観客が一瞬、静まり返る。


いぶきは静かにボールを地面に置く。

そして、跳ねた。



足袋の底から地を掴み、絣の袖が風をはらむ。

和と現代、伝統と自由、全てが交差するステップ。


“蹴鞠”のように空中でボールを優雅に捌き、背中で止め、片足で押し上げる。

まるで舞。


観客がざわつく。

その足元に、いぶきの個性が宿っていた。


“久留米”の文化。

“つちや足袋店”の歴史。

“祖母”が縫ってくれた布の温もり。


それらをまとい、いぶきは蹴り続けた。



最後のトリック。


いぶきはボールを空高く放り上げ、ジャンプしてくるりと一回転。

空中でボールを首の後ろで受け止め、笑顔でフィニッシュ。


会場が爆発するように沸いた。


「KU-RU-ME! KU-RU-ME!」

誰かが叫び、コールが広がっていく。


久留米という地名が、今、遠いヨーロッパの空に響いている。



表彰式。


優勝は、やはりブラジルのレオ。

技術も難易度も圧倒的だった。

だが、会場の空気は明らかに——いぶきを称えていた。


メダルこそなかったが、運営から特別賞が贈られた。


「Cultural Expression Award」

“もっとも文化を昇華させた表現者”として。


ステージで賞状を受け取るいぶきに、司会がマイクを向ける。


「IBUKI、君にとってフリースタイルとは?」


いぶきは少し考えて、言った。


「うちにとってフリースタイルは、“ふるさと”そのものです。

 地元の人が作った布を着て、昔ながらの足袋を履いて、自分の好きなようにボールを蹴る。

 そいが、うちの“くるたびスタイル”です」


会場が静まり返り、やがて拍手が起こる。

だれもが“帰る場所”を思い出したのかもしれない。



帰国後、久留米空港でいぶきを出迎えたのは、理紗、祖母、商店街の人たち、そして知らない顔の子どもたち。


「テレビで見たよ!」「たび、カッコよかった!」


少女が小さな声で言う。


「わたしも、くるたびで蹴ってみたい」


いぶきは微笑んで言った。


「いいよ。今度一緒に、舞おっかね」



この街に戻ってきたボールが、また新しい輪を描き出す。

“世界”を蹴った足袋が、今、久留米の風を蹴っている。


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