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KURUTABI STYLE  作者: やしゅまる
5/10

第5話『世界は遠くて、すぐ近く』

空港の滑走路が遠ざかる。

いぶきの心は、少しだけ浮いていた。


「本当に来ちゃったんだ、世界大会…」


FIFA主催の国際フリースタイルフットボール大会「FREESTYLE WORLD INVITE」。

会場はスペイン・バルセロナ。出場者は世界中から選ばれた20名。


いぶき以外、全員が男子。

ユニフォームは派手なスポーツウェア、シューズは最新のパフォーマンススニーカー。


その中で、いぶきは“くるたび”と久留米絣の羽織をまとっていた。



「足袋?」「なんでそんなの履いてるんだ」


「日本の伝統?これはパフォーマンスじゃないだろ」


控室で聞こえる英語の声に、いぶきは背中を丸めた。


持ち込んだ足袋を手に取る。

あの境内で、商店街で、笑顔に囲まれていた時間を思い出す。


(私はここに、“うちの蹴り方”で来たんやけん)



予選ステージ。

ステージに上がると、客席はすり鉢状に広がり、巨大なLEDビジョンがいぶきを映した。


「Next: IBUKI from JAPAN!」


地面に足袋の裏が吸いつく感覚。

音楽が流れる。リズムが鳴る。


いぶきは舞った。


回す、止める、蹴り上げる。

流れるようなステップと、布のようにしなやかなボール捌き。

足袋のソールが地を掴み、身体が空に浮く。


観客のざわめきが、手拍子へと変わっていく。


「Hey! Look at her moves!」

「What kind of shoes are those!?」


掛け声が飛ぶ。

いぶきの蹴り方は、ただ技を競うものじゃなかった。

“誰かと一緒に笑える踊り”だった。


演技が終わった瞬間、スタンディングオベーション。

いぶきは、思わず胸に手を当てた。


(自由って、ここにもある)



結果は予選突破、決勝進出。


宿に戻ると、足袋の裏が薄く黒ずんでいた。

初めて踏んだ異国のアスファルト。

だけど、自分の“型”は、何ひとつ変わらなかった。



決勝前夜。

いぶきは、階段に座って空を見上げていた。


すると、隣にひとりの選手がやってきた。

決勝常連のブラジル代表、レオナルドだった。


「イブキ。あなたの“蹴り方”、俺にはできない」


いぶきは肩をすくめた。


「うち、技術はそこまでうまくないっちゃん。みんなみたいにすごいこと、できんし」


レオナルドは笑って首を振る。


「でもね、あなたのプレイが一番“楽しそう”だったよ。観客も、俺も。それがいちばん大事なんじゃない?」



その言葉が、いぶきの胸に火を灯した。


遠く見えた世界は、こんなに近くにあった。

久留米で見つけた足袋とボールで、ここまで来た。


「うちは……くるたびで世界に蹴りかけるっちゃん!」



ステージに再び立つ。

赤い絣のリボンを結び直す。


ボールが跳ねる音と、地を蹴る音が、世界のど真ん中に響いた。


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