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KURUTABI STYLE  作者: やしゅまる
4/10

第4話『広がる輪、跳ねる想い』

「え、久留米でフリースタイルフットボールの大会?」


高校の職員室で先生が眉をひそめた。

「そげん訳わからんもん、ほんとに人が来るとや?」


企画書を手にしたいぶきは、深呼吸して答えた。


「来ます。……来させます。久留米に、ボールと音と自由を」



事の始まりは、理紗との何気ない会話だった。


「ねぇ、いぶきの演技、ひとりじゃもったいないよ。大会とか出てみたら?」


「福岡市内のイベントならあるけど、うちの足袋スタイルってちょっと浮くしさ……」


「じゃあ、作れば? いぶきに合った大会。久留米で」


その一言が、火をつけた。



「やりたいのは、大会というより“お祭り”です!」


商店街の自治会、文化振興課、神社の宮司さん、地元の中学生たち。

いぶきは毎日、自転車で町を駆け回った。


提案したのは、パフォーマンスと文化を融合させた一日限りのイベント。


・境内でのフリースタイル演技

・足袋ワークショップ

・小学生向けのキッズパフォーマンス体験

・高校生達の久留米絣のファッションショー

・豚骨ラーメンの屋台と焼き鳥!地域の酒蔵のお酒


最初は皆から「そげんの誰が見るとや?」と渋られたが、祖母がぽつりと言った。


「見せるとよ、いぶき。あんたが信じとる“蹴り方”を、みんなに」


その言葉で迷いが晴れた。



「KURU-FESくるフェス」開催当日。


境内の特設ステージに、いぶきは紅白の“くるたび”を履いて立った。

背中には、祖母が仕立ててくれた久留米絣のハッピ。


音楽が流れた瞬間、空気が変わる。

跳ねる、回る、蹴り上げる。

足袋のソールが石畳を叩き、ボールが陽を浴びて輝く。


人々が集まり、歓声が響く。

子どもたちが手拍子を送り、年配の観客も笑顔を浮かべていた。


「楽しそう……!」


そう呟いた声が、いぶきの背中を押した。



競技部門には、福岡市や北九州から集まった猛者たちも参加していた。

いぶきは技術では一歩劣っていた。

だからこそ、彼女は“表現”で勝負した。


蹴るときの間合い、目線、リズム。

そしてなにより、観ている人に届く“楽しさ”を。


結果、準優勝。


——だが、夜。意外な知らせが届く。


「いぶき!見て見てこれ!動画が拡散されとる!」


SNSに投稿された彼女の演技動画が、海外のダンスメディアで取り上げられていた。


“Japanese girl with Tabi shoes performs freestyle like a poem.”

(足袋を履いた日本の少女が、詩のように舞う)


再生回数は数十万回を超えていた。


翌朝、DMが届いた。

件名は——

『FIFA FREESTYLE WORLD INVITE/IBUKI』



祖母の家。縁側に座るいぶきは、足袋を手に言った。


「世界って、遠いと思っとった。でも、ボールでここまで来れたよ」


祖母は、笑ってお茶を差し出す。


「その足袋、今度は海を渡るんやね」



足袋は、ただの布とゴムでできた履き物。

でも、いぶきにとっては“自分らしく蹴るための型”だった。


久留米の空の下で見つけたその一歩が、いま、世界へ跳びはねようとしていた。


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