表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
KURUTABI STYLE  作者: やしゅまる
3/10

第3話『たびデコ改造計画』

「ねえ理紗、お願いがあるっちゃん」


いぶきはミシンの音が鳴る裁縫室に飛び込んだ。

そこには、地味だけど手先が器用で有名な裁縫部の理紗がいた。


「へぇ……足袋? しかも手縫い?」


いぶきが差し出したのは、祖母の家で見つけた“つちや足袋店”の白い足袋。

すでに何度か使っており、ところどころに土の跡や草の染みがあった。


「この足袋で久留米のいたる所でフリースタイルフットボールをやりたいっちゃけど……もうちょい可愛くしたいっちゃん」


「ふふ、なるほど。久留米で可愛い足袋でフリースタイル!略してくるたびスタイルね」


理紗は針山を手に取りながら微笑んだ。


「でも、デコるだけじゃダメよ。蹴るときに邪魔にならないバランスが必要やけんね」


それから二人で改造計画が始まった。



まずは足袋の表面に刺繍糸で模様を入れた。

久留米のゆるキャラであるくるっぱ、そして筑後川の流れをイメージした曲線。


「ほら、可愛いやん。これに伝統の久留米絣着てフリースタイルやったら絶対可愛いけん」


「たしかに、蹴鞠っぽくて可愛いかも……」


そして最終仕上げ。

赤い絣の端切れでリボンを作り、かかとにワンポイント。

足袋の留め具には、祖母からもらった小さな飾りボタンをあしらった。


——世界にひとつだけの「くるたび・デコ」が完成した。



それからいぶきは、放課後になると商店街や神社の境内で練習をするようになった。

境内の石畳を蹴る音、ボールがポンと跳ねる音。

絣の着物の袖をアレンジしたトップスを着て、紅白の足袋で舞うように。


ある日、商店街での演技が終わったあと、小さな女の子が近づいてきた。


「おねーちゃん、その足袋かわいい! わたしも履いてみたい!」


その声に、周囲の大人たちも足を止める。


「ほんと、なんねあれ? 和風なのにスポーティーやね」


「昔は足袋なんて年寄りしか履かんもんやったけど……」


「若い子が履いたら、かっこよかねぇ」


いぶきは笑って答えた。


「これは“くるたび”っちゃん。久留米の足袋で、わたしが自由に蹴れる“型”ばい」


動画を撮ってくれていた通りすがりの人が、そのパフォーマンスをSNSに上げた。

「#くるたび」「#蹴鞠フリースタイル」「#久留米足袋」——そんなタグが少しずつ伸びていく。



学校でも噂が広まり、バスケ部の友達や軽音部の先輩が応援に来てくれた。

かつて「協調性がない」と言われて孤立していた自分が、今では輪の中心にいた。


「自分の蹴り方、やっと肯定された気がする」


祖母の家に帰ると、いぶきは足袋を脱いで縁側にそっと並べた。

夕日がそれを照らし、まるで自分の歩んできた足跡のように思えた。


「ありがとう。くるたび」


その夜。

いぶきは、ある“企画書”の画面をじっと見つめていた。


——“久留米フリースタイルフットボール大会”開催提案書。


次のステージは、きっとここから始まる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ