第3話『たびデコ改造計画』
「ねえ理紗、お願いがあるっちゃん」
いぶきはミシンの音が鳴る裁縫室に飛び込んだ。
そこには、地味だけど手先が器用で有名な裁縫部の理紗がいた。
「へぇ……足袋? しかも手縫い?」
いぶきが差し出したのは、祖母の家で見つけた“つちや足袋店”の白い足袋。
すでに何度か使っており、ところどころに土の跡や草の染みがあった。
「この足袋で久留米のいたる所でフリースタイルフットボールをやりたいっちゃけど……もうちょい可愛くしたいっちゃん」
「ふふ、なるほど。久留米で可愛い足袋でフリースタイル!略してくるたびスタイルね」
理紗は針山を手に取りながら微笑んだ。
「でも、デコるだけじゃダメよ。蹴るときに邪魔にならないバランスが必要やけんね」
それから二人で改造計画が始まった。
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まずは足袋の表面に刺繍糸で模様を入れた。
久留米のゆるキャラであるくるっぱ、そして筑後川の流れをイメージした曲線。
「ほら、可愛いやん。これに伝統の久留米絣着てフリースタイルやったら絶対可愛いけん」
「たしかに、蹴鞠っぽくて可愛いかも……」
そして最終仕上げ。
赤い絣の端切れでリボンを作り、かかとにワンポイント。
足袋の留め具には、祖母からもらった小さな飾りボタンをあしらった。
——世界にひとつだけの「くるたび・デコ」が完成した。
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それからいぶきは、放課後になると商店街や神社の境内で練習をするようになった。
境内の石畳を蹴る音、ボールがポンと跳ねる音。
絣の着物の袖をアレンジしたトップスを着て、紅白の足袋で舞うように。
ある日、商店街での演技が終わったあと、小さな女の子が近づいてきた。
「おねーちゃん、その足袋かわいい! わたしも履いてみたい!」
その声に、周囲の大人たちも足を止める。
「ほんと、なんねあれ? 和風なのにスポーティーやね」
「昔は足袋なんて年寄りしか履かんもんやったけど……」
「若い子が履いたら、かっこよかねぇ」
いぶきは笑って答えた。
「これは“くるたび”っちゃん。久留米の足袋で、わたしが自由に蹴れる“型”ばい」
動画を撮ってくれていた通りすがりの人が、そのパフォーマンスをSNSに上げた。
「#くるたび」「#蹴鞠フリースタイル」「#久留米足袋」——そんなタグが少しずつ伸びていく。
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学校でも噂が広まり、バスケ部の友達や軽音部の先輩が応援に来てくれた。
かつて「協調性がない」と言われて孤立していた自分が、今では輪の中心にいた。
「自分の蹴り方、やっと肯定された気がする」
祖母の家に帰ると、いぶきは足袋を脱いで縁側にそっと並べた。
夕日がそれを照らし、まるで自分の歩んできた足跡のように思えた。
「ありがとう。くるたび」
その夜。
いぶきは、ある“企画書”の画面をじっと見つめていた。
——“久留米フリースタイルフットボール大会”開催提案書。
次のステージは、きっとここから始まる。