第10話『この一歩が、未来になる』
イベントが終わった夜、いぶきは祖母の縁側で足袋を脱いでいた。
静かな夜風が、足元をすり抜けていく。
「ねえ、ばあちゃん。足袋ってさ、未来にも届くと思う?」
ふいに、そんな言葉が口をついた。
祖母はスイカの皮をゴミ箱に捨てながら、肩越しに言った。
「届くさ。ちゃんと踏みしめた足跡は、誰かが見るけんね。あんたの一歩は、もう誰かの勇気になっとるよ」
いぶきはゆっくり、くるたびを裏返してみた。
泥のあと。砂のきらめき。すこしだけすり減った布底。
(あたしの“蹴り方”って、ちゃんと残ってるのかな)
次の日。いぶきは久留米のある中学校からの招待を受けていた。
新しく発足した「フリースタイルクラブ」で、子どもたちにリフティングを教えてほしい、とのことだった。
「こんにちはー!」
体育館に入ると、小学生から中学生まで十数人の子どもたちがいぶきを待っていた。
中には、くるたびフェスで足袋を作ってくれた子どもたちの姿も。
「せんせー!オレ、レッグオーバーできるようになったっちゃけど!」
「わたし、足袋でチョンチョンリフティング、家の庭で毎日しよるよ!」
いぶきは笑って、「よし、じゃあ今日は“自由な蹴り方”教えるね」と言った。
レッスンが始まる。正解はない。上手いも下手もない。
ただ、“その人の蹴り方”を見つける。
それが、くるたびスタイル。
体育館の床に、足袋の音が跳ねる。
ボールが回る。転がる。笑い声が響く。
教える側になって、いぶきは気づく。
自分もかつて、誰かの言葉や視線に戸惑いながら蹴ってきた。
でも、今は違う。自由で楽しい!
いぶきのリズムは、誰かの背中を押している。
レッスンが終わった帰り道。
河川敷に立ち寄り、ボールを蹴る。遠くに沈む夕日。
赤く染まる空の下、風がスーッと吹き抜けた。
(きっと、これからも私は蹴っていく。くるたびと一緒に)
その夜、机に向かったいぶきは、一枚の紙にこう書いた。
《くるたびプロジェクト》始動
・久留米から世界へ。足袋とフリースタイルで地域文化を発信。
・学校訪問やワークショップを展開。
・子どもたちに「自由に蹴っていい」と伝える旅へ——。
書き終えた瞬間、スマホが鳴った。
海外の大会からのメッセージ。
「次は、フランス・パリでのステージに来てくれませんか?」
いぶきは笑って、ディスプレイの向こうを見つめた。
「うん、行くよ。今度は足袋ごと、もっともっと自由に」
——久留米の小さな平屋で始まった“ステップ”が、またひとつ、世界へと歩みを進めていく。
くるたびを履いた一歩が、誰かの勇気になっていく。
終わりじゃない。
これは、始まり。
——この一歩が、未来になる。
(完)




