夢語り
夢を見た。不思議なものだ。世界観、人物、物、全て知っていて馴染みのあるものばかりだ。だが一つわからないことがある。俺は誰だ?鏡を見ても顔がいつもと違う。名前や家族すべて俺の知っている俺自身だ。なのに俺は誰だ?
これは夢だと確信したがこれはいつ覚めるのだろうか。
「えっと今は…仕事の時間だ。」急いで準備をする
階段を下り家族におはようと言った。
その時おかしなことを言われた。涙目になりながら
「本当に…よかった」
本当によかった?何がだ?そうか夢の中だからおかしい所があるのは当たり前だ。とりあえず目が覚めるまでは夢の世界を堪能しよう。
街はいつもと変わらず一つ違うのはいつもの職場へ向かう道が事故により封鎖されている事だ。
「夢にしてはリアルだな」ぼそっと呟くと後ろから
「おぉ、あんた大丈夫だったのかい?」
老人が聞いてきた。
なぜこんな事を聞くんだ?自分に問いかけてみたが分からずじまいで言う言葉に困り言った。
「どういうことですか?俺になにか?」
言ったら数秒の沈黙のあと肩をぎゅっと掴まれ
「もしかして覚えてないの?ならいいんだが…」
と言って振り向き去っていった。
誰だ?わからない。大丈夫か?ってなんだ?
そういえばさっきから動けない?なんだ…
目の前がぐにゃりと歪み倒れた、汗が止まらない。
そこに人が歩いてきた。さっきの老人だ。
「わからないのか?自分が誰か、この先で何があったのか」
わからない…どうしてもわからない
「わから…ない」
ため息をつき膝をついて老人は言う
「衝突事故だ。君は昨日病院を退院するまで昏睡状態だったんだ。君は夢を見ていた。自分が分からないのは今まで送っていた生活は夢だからだ。」
何を言っているんだ?夢?俺は昨日まで夢をみていたと?自分の顔がわからないのはそれが?
「あんたは?誰だ?」
「なんだそれもわからないのか、君がぶつかってきたくせに」
なに?ぶつかった?衝突事故はこの人と?
「どうしてここに?」
「私は夢を見ている。確実に多分ね、君と同じだろう君は昨日起きたが私はまだ夢の中だ。」
でも俺は起きてるのにこの人だけ夢っておかしくないか?夢から覚めたはずなのに?
「それって」
「君が見てるのは幻覚だ。」
「え?」
「君が夢から覚めたのは事実だがその後に幻覚を見ている。現実は今ごろ処置されて病室に横になってるこちらだろう。」
そうか。そういう事だったのか
考えていると空が光の眩しくなってきた。
ピー ピー ピー
「ここは?そういえば…病院か…」
ベッドから体を起こすと、周りには家族がいた。
「よかった…よかった…」
みんな泣いていた。不思議と自分は泣いていない。
さらに見渡すと隣のベットには幻覚でみた老人がいた。彼はまだ夢を見ている。
覚めることを願うことしか出来ないがベットの前に行き謝罪した。