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第25話 答えよりもっと大事なことは

グラウンドでも、ギプスを着けて友達や後輩を怖がらせましょう!

「何事もなかったかのように話を進めんな!」

 とりあえず祐人が無事であることが分かり、若干の冷静さを取り戻した健太は激しくツッコミを入れる。

「何があったんだよ!?」

「今までの僕らとは違うじゃねーよ!」

「お前の様子が昨日までと違ってんだよ!」

「向こうに俺らの強さを教える前に、まずお前に何があったのかを教えろ!」

 部員たちも次々にツッコミを入れる。怒涛のツッコミラッシュだった。

「……その腕は何なんだよ?」

 その合間に訝し気に尋ねた安達に、祐人は答える。

「あ、これ? これはギブスって言って、怪我した時に患部を固定する医療器具で……」

「そういう意味じゃねぇよ! 何だよそのギブス!」

「何とこれ、グラスファイバー製なんだよ! 水で濡らすと数分で固まって、30分ぐらいで完全に固定される優れもので、従来の石膏のギブスに比べて5分の1で……」

「そういう意味でもねぇよ! 誰がこの状況で材質に興味示すんだ!」

 安達のツッコミもまた冴え渡っていた。not only Kenta but also Adachi(健太だけでなく安達も)だった。

 再び健太が叫ぶ。

「ふざけてないで真面目に説明しろ! 何があったんだよ!」

「実は試合に向かう途中……トラックの前に飛び出した子供がいて……」

「と、トラック!? それで怪我を!? 大丈夫だったのか……?」

「子供は無事だった……でもそのせいで和也は……!」

「タッチじゃねーか! 俺、『ふざけてないで真面目に説明しろ』って言わなかった!?」

「今だったら異世界転生してそう(笑)」

「ぶっ飛ばすぞ! 理由を言え!」

「打撲で死んだ僕」

「説明しろっつってんだよ! いい加減にしろよ、マジで」

「分かったよ。真面目に話すよ。実は……こうなったのには深い理由があるんだ」

「本当だろうな? 次ふざけたらマジでぶっ飛ばすからな!」

 健太の恫喝を受けながら、祐人は真剣な表情で話し始める。

「昨日の夜、僕は練習試合に備えていつもより1時間早くベッドに入った。ところが目を閉じてうとうとしてると、耳元で『プーン』と嫌な音がした。そう、蚊だ。最初は無視して寝ようと思ったんだけど、耳元でプンプンプンプンしつこくやられてさすがに僕も『堪忍袋の緒が切れました!』てなって、『やろう、ぶっころしてやる。』と思って飛び起きたわけ。そんで壁に止まったところを怒りを込めて『バン!』ってやったら……」

「理由しょーもねぇぇぇ!! せめて練習で怪我しろよ! 脆すぎだろ!」

「確かに試合の前の晩にこんなことになるなんて、我ながらおもろすぎだとは思うけど」

()()()()()じゃなくて、()()()()だ! 何も面白くねーわ!」

「で、朝イチで病院に行ってて遅くなったってわけ」

「それならそうと連絡しろよ! 何でずっと電話繋がんねーんだよ!」

「電源切ってたから。ほら、病院だし」

「病院出たら電源入れとけよ!」

「それがさー、最近機種変したばかりで電源オンのやり方分かんなくって。切った後に気付いたから、調べることもできなくて……いやー、まいったよ。ははは」

「笑ってごまかすな!」

「ちなみにヒビ入ってる」

「割と重症じゃねーか! どうすんだよ、その腕で!」

「確かに左手が使えないのは不便で仕方ない……でも大丈夫! ある程度は右も使えるから」

「誰もお前の日常生活の心配してねーよ!! 今日の試合のことを言ってんの! そんなギブスしてたら、試合出れねーだろ!」

「……ちょっといい? ギブスじゃなくてギプスですよ!」

「うるせぇぇぇぇぇ!! わざわざ遮ってまで言うことか! 大体、お前ずっと『ギブス』って言ってたじゃねーか!」

「ええい! 落ち着け! ギブスだのギプスだの、そんなことで言い争ってる場合か!?」

「お前が言い出したんだよ!!」

「これから試合って時にそんなに浮足立ってどうする! 今は一致団結して目の前の試合に臨む時じゃないのか!?」

「どの口が言ってんだこいつ!」

 祐人の言葉に健太は間髪を容れずにツッコミを入れた。さらに他の部員たちも健太に続く。

「誰のせいで浮足立ってると思ってんだ!」

「お前が団結を乱してんだよ!」

「お前への怒りで一つになってるわ!」

「よくこの状況でここまでふざけたこと抜かせんな!?」

「もう黙ってろ!」

 彼らは口々に祐人を罵った。「一致団結して試合に臨むべき」という発言は正論だったが、正論故に「お前が言うな」という心理が働いたのだった。大顰蹙、非難轟々、大ブーイングの嵐だった。

「総攻撃してきたー!」

「当たり前だろ!!」

「あのー……」

 彼らが大騒ぎしていると、背後からおずおずと声をかけられた。振り返ると白地に青いストライプのユニフォームを着た相手校の選手が、申し訳なさそうに立っていた。

「そろそろ試合始めたいんですけど……」

「す、すいません! すぐ行くんでちょっと待っててください!」

 応じた健太が再び祐人に向き直る。

「どうすんだよ! 試合はよ!」

「うーん……こうなったからには、山田くんにフルイニング出場してもらうしかないだろうね」

 全員の視線が一斉に集まり、山田はプレッシャーに見舞われる。

「そ、そんな……無理ですよ、自分じゃ……」

「無理だって? 僕を見てみろよ。この手でどうやって試合に出るって言うんだい? 本当に無理っていうのは、こういうことを言うんだぜ!」

「偉そうに抜かすな! 腹立つ!」

「……」

 祐人の発言に健太はツッコミを入れる。理由はどうあれ、ぐうの音も出ない正論に山田は黙り込んだ。さらに安達が口を開く。

「言っとくが、俺も怪我明けで本調子じゃない。ここで無理してまた怪我でもしたら、笑い話にもならねぇ。山田、お前が出ろ。お前しかいねぇんだよ。いつまでもうだうだ言ってねぇで、いい加減覚悟決めろ!」

「うぅ……」

 委縮する山田に、祐人は穏やかに話しかける。

「山田くん。答えよりもっと大事なことは勇気出して自分を試すことだよ」

「勇気出して自分を試すこと……」

「いい言葉だろ? この言葉にはちょっとした思い出があるんだけど、聞きたい?」

「いえ……大丈夫です」

「そっか。僕は昔、野球部だったんだけど……」

「大丈夫って言ったんですけど……」

「たまたまテレビ点けたらアニメやってて、そのアニメの曲の歌詞なんだ」

「全然大した思い出じゃない! アニメ見てただけじゃないですか!」

 山田は思わずツッコミを入れた。お構いなしに祐人は続ける。

「山田くんならできる! できるできる絶対できる! 頑張れもっとやれるって!」

「松岡修造かお前は」

 健太の冷静なツッコミを聞き流し、祐人は山田に言う。

「初めて野球部の練習に参加した日のこと覚えてる? 山田くんからグローブ借りたよね。その後でマイグローブを買うためにミゾノスポーツに行ったんだけど、その時に君がすごい努力をしてきたことに気付いたんだ」

「ど、どういうことですか……?」

 山田の問いに祐人は答える。

「試着して僕は驚いた。新品のグローブはびっくりするぐらい硬かった。『こんなんで球捕れるの?』と思った。それに比べて……山田くんのグローブはとても柔らかかった。『柔らかい……柔軟剤使っただろ?』と思った。それでどれぐらい使えば柔らかくなるのか調べてみたら、何と数か月から半年はかかるらしいんだ。それを山田くんはたった一か月ちょっとであんなに柔らかくした。つまりはそれだけグローブを使い込んだってことだ。あの(かった)いグローブを短期間であれだけ使いやすくするなんて、なかなかできることじゃないよ」

「……」

 祐人の言葉に山田は黙り込んだ。健太は祐人の言を補足するように、山田に語りかける。

「そうだぞ、山田。お前は今までよくやってきたじゃないか? 自信を持て。エラーなんて気にするな」

「もしエラーしても、俺たちがカバーするからよ」

「安心しろ、山田。俺が完封してやるよ」

「なら俺は全打席ホームラン打ってやる」

「いっそ大差付けてコールド勝ちしてやろうぜ!」

「練習試合でコールドってあるのか?」

「分からん!」

 口々に山田を励ます部員たち。そして祐人が口を開く。

「山田くんの気持ちは分かるよ。僕だっていつも『スベったらどうしよう……』っていう恐怖を抱きながらボケてるからさ。それに実際、顰蹙を買うこともしばしばさ」

「今まさにな!」

「それでも僕は決してめげることなく、ボケ続けてるんだ」

「お前は少しめげろ!」

「左手折れても心は折れず」

「『板垣死すとも自由は死せず』みたいに言うな!」

「ぷっ……あはははは!」

 祐人と健太のしょうもないやり取りに、山田はこらえ切れずに噴き出し笑い声を上げた。

「分かりました……出ます。ライトは自分が守ります」

 そしてひとしきり笑った後、晴れやかな顔でそう宣言した。

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