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第24話 練習試合を見に行こう

アポなしで練習試合の応援に行って、クラスメイトを驚かせましょう!

「はぁ……やれやれ。これで終わりみたいね」

「あぁ、そうだね。近くにもう反応はなさそうだ。二人もお疲れ様」

 強化スーツを身に纏った心が溜め息と共につぶやいた。それを受けて同じく強化スーツに身を包んだ青空が、これまた同様の恰好をした早織と凪雲に労いの言葉をかける。

 よく晴れた土曜日の午前中。彼ら生徒会は、いつも通り人知れず()()を果たしていた。祐人が野球部の助っ人として生徒会を抜けた後も、彼らの活動は変わらなかった。従来の生徒会としての学校運営に関する業務の傍ら、島の秩序を守るために霧人と戦うという二重生活。命を懸けた戦いの日々は着実に彼らを疲弊させていったが、泣き言や弱音を吐く者は誰もいなかった。彼らはそれが自分たちの宿命であることを理解していた。そしてそれ以上に諦めていた。戦える体がある限り、この役目から逃れることはできないのだと。

「いつものこととはいえ、休みの日ぐらいゆっくりさせて欲しいもんだわ。ま、あの家にいるよりはずっとましだけど」

 いつの間にか武装を解除した心が、皮肉交じりに吐き捨てる。強化スーツから白いTシャツにジーンズというラフな出で立ちへと変貌した彼女は、お役御免とばかりにくるりと背を向けた。

「じゃあ、解散しようか」

 青空が歩き出すと、凪雲はその後を追うようについていく。役目を果たし帰路に就くといういつも通りの流れ。

「あ、あの!」

 そんな中、早織が遠ざかる背中を呼び止めた。

「……練習試合を見に行きませんか?」

 振り返った三人に、早織はそう提案した。突然の申し出に心は怪訝そうに眉間に皺を寄せる。

「練習試合ぃ?」

「はい、野球部の。今からみんなで五十嵐くんの応援に行きませんか?」

「そうか、今日は試合の日か」

 思い出したようにぽつりとつぶやいた青空とは対照的に、心は鋭く言い放つ。

「たかが練習試合に応援なんていらないでしょ。そもそも応援する意味ある? どうせ負けるのに」

「そんなの分からないじゃないですか」

「はっ! 分かりきってるわ。野球部が最後に勝ったのいつだと思ってんの? どうせいつも通り負けよ、負け」

「で、でも最近は練習もすごく頑張ってるみたいだし……現に先週の日曜だって……!」

「頑張ったから何? いきなり強くなれるの? 今までだらだらと無駄な時間を過ごしてきたからこの体たらくなのに、今さらちょっと頑張ったぐらいで何が変わるって? あの弱小野球部が勝つなんて絶対にあり得ない。ま、相手が小学生ならいい勝負するかもね。それも低学年が相手ならの話だけど」

「そ、そんな言い方……!」

「まぁまぁ」

 嫌味たっぷりに野球部を批判する心に早織が反発しようとした矢先、青空が二人の間に割って入った。

「ここでいくら議論をしても仕方ない。今日の試合、勝てるかどうかは野球部次第なんだから」

「そ、そうですよね……」

 青空の穏やかな口調に冷静さを取り戻した早織は改めて尋ねる。

「それで……どうします? 応援に行きませんか?」

「試合の場所は?」

「うちの高校のグラウンドです。相手チームを招いているそうです」

「あたしは興味ないからパス。これから予定あるし」

「僕も行きたいのはやまたまだけど、()()()呼び出されてるから」

「そう……ですか」

 提案を断られて気落ちする早織を気遣うように、青空は付け加える。

「五十嵐君に会ったら、よろしく伝えておいてくれるかい?」

「分かりました。伝えておきます」

「じゃあ僕たちはこれで」

 そう言うと青空は背を向けて歩き出した。その場に残されたのは早織と()()()()

「……凪雲?」

 一向についてこない妹を心配した青空は、足を止めて呼びかける。凪雲は早織の側で両手を組んで何やらもじもじとしている。その様子に何かを感じ取った青空は凪雲に尋ねる。

「もしかして……練習試合を見に行きたいのか?」

「……(コクリ)」

 青空の問いに凪雲は恥ずかしそうに頷いた。それを見た青空はひどく驚いた。妹は大人しい内向的な性格で、昔から自己主張することは苦手だった。声が出なくなってからその傾向はますます強まり、いつも不安そうに周りの顔色をうかがうばかりだった。

 その凪雲が初めて自らの意思を示した。凪雲が自分の希望を伝えるのは、いつ以来だろう。覚えているのは幼少期のある夏の日、親が買ってきてくれたアイスを選ぶ際に「イチゴ味がいい」と言ったのが最古の記憶だ。その凪雲が自分の意見を……

「ふーん……いいんじゃない? 行きたいなら行けば」

 感慨に浸る青空の代わりに答えたのは心だった。心の言葉に青空も同意を示す。

「うん、行ってくるといい。悪いけど広瀬くん、凪雲も一緒に連れて行ってくれるかい?」

「もちろんいいですよ。じゃあ……行こっか?」

 早織の言葉に凪雲はおずおずと頷き、二人は学校に向かって歩き出した。

「気ぃ付けて行きなさいよー?」

 遠ざかる背中に心が呼びかけると、凪雲は振り返って小さく手を振った。その様子を見た心は薄く微笑み溜め息を吐くと、ぽつりとつぶやく。

「凪雲があんなこと言い出すなんてね……そんなに野球好きだった? あの子」

「いや、凪雲はきっと……」

「ま、いいわ。それより急ぎましょ。上から呼び出されてるんでしょ?」

 心は青空の台詞を遮り、足早に歩を進めた。幼馴染が何を言おうとしたのかおおよその見当はついていた。しかしそれを認めるの何となく(しゃく)だったので、彼女は自ら会話を打ち切ったのだった。


「凪雲ちゃんは五十嵐くんに会うの久しぶりだよね?」

「……(コクリ)」

 学校へと向かう道の途中、早織の質問に凪雲は小さく頷いた。

「最近はずっと野球部の練習に出てたもんね、五十嵐くん。相変わらず毎日元気だよ? 昨日もクラス中に触れ回ってたからね。『明日、練習試合なんだ!』って。まぁ、みんなからは軽くあしらわれてたけど……」

 そう言って苦笑する早織に、凪雲も思わず笑顔を返す。

「私たちが行ったら、びっくりするだろうな」

 祐人の驚く顔を思い浮かべた凪雲は、楽しそうにくすくすと笑った。早織は続ける。

「何だか寂しいよね、五十嵐くんがいないと。賑やかな人だから……」

「……(コクコク)」

「凪雲ちゃんが来てくれたって知ったら、きっと五十嵐くんも喜ぶよ」

「……(///)」

 早織の言葉に凪雲は赤くなって俯いた。それを見た早織は、穏やかな笑みを浮かべる。二人はそのまま歩みを進め、学校へと到着した。時刻は10時40分。試合開始の時間まで若干の余裕がある。

「とりあえずグラウンドに行ってみようか?」

「……(コクリ)」

 二人がグラウンドへ向かうと、白地に青いストライプが入ったユニフォームを着た野球部員たちが守備練習を行っていた。見慣れないユニフォーム姿にそれが相手校であることはすぐに分かった。一塁ベンチに目を向けると、白いユニフォーム姿の部員たちが集まって話をしていた。

「おい、まだ連絡つかないのか?」

「だめだ……何度も連絡してるけど繋がらない」

「どうすんだよ!? もう時間ねーぞ!?」

「あ、あのー……」

 何やら揉めている部員たちに声をかける早織。彼らの視線が早織に集まる中、一人の部員が声を上げた。

「広瀬さん? 何で休みの日に学校に?」

 声の主はクラスメイトの健太だった。見知った顔に安堵しつつ、早織は答える。

「11時から練習試合って聞いてたから、生徒会の用事のついでに来てみたんだけど……あ、こちらは同じ生徒会で1年生の浦上凪雲ちゃん」

「……(ペコリ)」

 早織の背中に身を隠すようにしていた凪雲は、おずおずと頭を下げた。軽くお辞儀を返すした健太は早織に向き直り、そして尋ねる。

「途中でイガの奴、見なかったか?」

「五十嵐くん? ううん、見てないけど……来てないの?」

 そう答えながら部員たちを見渡すと、確かにその中に祐人の姿はなかった。

「そうなんだよ。いくら連絡しても返事はないし、電話も全然繋がらないし、どこで何やってんだか……」

 二人のやり取りを聞いていた山田がぽつりとつぶやく。

「まさか……何かあったんじゃ……」

「おい、山田! 縁起でもないこと言うな!」

 安達は山田を一喝するが、不安は広がり彼らは良からぬ想像を口にする。

「来る途中に事故にでも遭ったんじゃ……」

「おいおい……タッチじゃあるまいし……」

「でも……連絡つかないんだろ?」

「まさかそんな……」

「どうすんだよ、健太? もうすぐ試合だぞ?」

「……まだ何かあったと決まった訳じゃない。試合の方はとりあえず今いるメンバーで……」

「おーい!」

 その時、背後から声がした。彼らが一斉に声のする方に顔を向けると、右手を振りながらこちらに向かってくる人物の姿が映った。

「遅くなってごめーん!」

 10時50分。試合開始の10分前に到着した祐人は、のん気な口調で謝罪の言葉を口にした。

「いやー、本当はもっと早く来るつもりだったんだけど……ちょっと色々あってさー。まいったまいった。でも何とか間に合ったみたいでよかったよかった」

 全員が唖然とする中、祐人はさらに続ける。

「よし! 気を取り直して試合開始だ! きっと向こうはうちを弱小チームだと思って油断してるはずだ。でも今までの僕らとは違う! 生まれ変わった新生野球部の強さを教えてやろう!」

 そう言って力強く笑う祐人の顔は輝いていた。彼の左腕に巻かれた純白の包帯と三角巾のように――

「いや、何か思いっきり腕吊ってるーーーー!!」

 爽やかな初夏の風が吹く晴れやかな空の下。鮮やかな健太のツッコミが高らかに響いた。

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