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第19話 この野球部には問題がある

これって野球小説だったっけ

 祐人が助っ人として野球部に加わってから早くも4日が過ぎた。野球から離れて約1年半の空白期間(ブランク)があった祐人だったが、練習に参加する内に徐々に勘を取り戻し、守備に関しては問題なくこなせるようになっていた。

 その日の放課後。練習を終えて制服に着替えた祐人は、健太と連れ立ってある場所へと向かっていた。その道すがら、健太が声をかける。

「もうすっかり練習にも慣れたみたいだな」

「まぁね! 日々すさまじい成長を感じるよ。分かりやすくまとめるとこんな感じ」


 筋力ポイントが0.7上がった。

 敏捷ポイントが0.3上がった。

 技術ポイントが0.5上がった。

 精神ポイントが0.8上がった。

 BPが300,000,000上がった。


「パワプロか! 微増じゃねーか! 何か一つだけ爆上がりしてるのあるし! 3億!? 桁違いじゃねーか!」

「ツッコミ多っ」

「お前が無駄にボケるからだよ! そもそもBPとは何だよ!」

「ボケポイントだけど?」

「じゃあ納得だよ! なら、俺のTPも相当上がってるわ!」

「TPって?」

「ツッコミポイントだよ!! 何でこの流れで分かんねーんだよ!」

「急にTPとかいう謎の概念持ち出すから……」

「お前が言い出したんだよ!!」

 目的地の前で健太がツッコミを響かせているとガラガラと()()()が開き、無精髭を生やした大柄な男性が姿を現した。男はじろりと二人を一瞥すると言う。

「店先で騒いでるのがいるなと思ったら、やっぱりおめーらか。中まで聞こえてきたぞ」

「悪ぃな、おっちゃん。うるさくして」

「客もいねぇから別にいいけどよ。それで今日はどうした? またグローブでも買いに来たのか?」

 男性の質問に健太は答える。

「グローブはグローブでも、今日はバッテをな」

「バッテ? あぁ、バッティンググローブか」

「こいつが打つ時に『手が痛い』って言うもんだからさ」

「痛すぎて辛い」

「慣れりゃどうってことないんだがな。ま、そこにあるから好きなの選んでってくれや」

 そういうと男性(みぞの)は野球用品コーナーを指差した。二人が訪れたのは、数日前にグローブを購入したミゾノスポーツだった。バッティング時の手の痛みの解決策として健太が連れて来たのだ。

「あざっす! どれどれ……おっ、グローブに比べるとかなり安い! これなら僕でも買えるぞ!」

 そう言うと祐人は早速バッティンググローブを選び始めた。

「今日はちゃんと金持ってきたんだろうな?」

「はぁ? 前回も持ってきてたんですけど?」

「40円だろ。心外みたいな顔すんな」

「ねーねー、この赤いのと青いのどっちが似合うと思う?」

「彼女か! どっちでもいいからさっさと選べ!」

「ちぇー、手厳しいなぁ」

「よぉ、ケン坊。野球部の方はどうなんだ?」

 祐人がグローブを選び直していると、溝野が健太に尋ねる声が聞こえた。

「どうって言われても……別に相変わらずだよ」

「相変わらずねぇ。その様子じゃ今年も期待できそうにねぇな。昔はこんなんじゃなかったんだがなぁ」

「……」

 諦めたような溝野のつぶやきに、健太は黙り込む。

「……なぁ、イガ。今の野球部をどう思う?」

 少しの沈黙の後、健太はおもむろに祐人に尋ねた。

「今の野球部? そうだなぁ……少子化で人が減ってるから、どうにか部員を確保していかないと、日本の野球界にも大きな影響が……」

「日本の野球部が抱える問題の話じゃねーよ!」

「あ、ウチの野球部の話?」

「当たりめーだろ!」

「まぁ、和気藹々としてるよね」

「和気藹々……か。良く言えばそうだな」

 そう言うと健太は再び黙り込んだ。そして意を決したように口を開く。

「……正直、俺は今のままじゃだめだと思ってる。野球部はこの5年間、一度も試合で勝ったことがないんだ」

「5年も?」

「あぁ。公式戦はもちろん、練習試合でも一度もだ。昔は結構強かったらしいが、今じゃ見る影もない。副会長が言ってたろ? 『毎年一回戦敗退の弱小ヘボチーム』って。正直あの時はイラっとしたけど、俺は何も言えなかった」

「確かに……それだけ勝ってないんじゃ、言われても仕方ないね」

「再来月には夏予選が始まる。でもきっと今年も一回戦負けだろうな」

「えー? でもみんな毎日頑張って練習してるじゃん」

「無駄だよ。あいつらには勝つ気がないんだから」

「勝つ気がない?」

「普段の練習を見て感じないか? どうも気が抜けてるっていうか、真剣みに欠けるっていうかさ」

 健太の言うことには思い当たる節があった。部員たちは練習中に雑談をしたりモノマネをしたりとふざけることが多く、その練習態度は真面目とは言い難いものだった。健太は彼らに思うところがあるようで、語気を強めてさらに続ける。

「今度の試合にしたってそうだ。『どうせ練習試合なんだから負けてもいい』と軽く見てやがる。予選前最後の対外試合だってのに、緊張感の欠片もありゃしない。こんな調子で本番で勝てるわけない」

「グチグチと情けねぇ。だったら勝てるような練習をすりゃいいだろうがよ。真剣にやらねぇ奴にはガツンと言ってやれ。それでも分かんねぇなら2、3発ぶん殴ってやりゃいいんだよ」

 話を聞いていた溝野が口を挟む。

「んな乱暴な……」

「乱暴もクソもあるか。気ぃ抜いた練習ばっかしてっから勝てねぇんだろ? だったら腕尽くででも、真面目にやらせるしかねぇだろうが」

「……イガはどう思う?」

「うーん、そうだなぁ……」

 溝野の意見を聞いた健太は少しの沈黙の後、祐人にそう尋ねた。祐人は腕組みをして、考えるながら意見を述べる。

「勝つ気がないっていうのは何となく分かるし、今のままじゃだめだってのも分かる。もっと真面目に、勝てるような練習をしなきゃいけないってのもその通りだと思う。でもいきなり厳しくするのは、かえって逆効果なんじゃないかな。ほら、『北風と太陽』って話あるでしょ?」

「……童話のか?」

「うん、北風と太陽のどっちが先に旅人の服を脱がせられるかって話。北風は強引に服を脱がそうとするんだけど、結局失敗しちゃうんだよ。でも最後まで諦めずに走った北風は、居眠りをしてた太陽を追い抜いて一着でゴールに……」

「別の話になってねーか!? 旅人どこ行ったんだよ! しかも北風が勝ってるし!」

「それにしても先に服を脱がせた方が勝ちって、すごいルールだよね。童話じゃなくて、もう猥談じゃん(笑)。子供に見せられるか!」

「いや、何の話だよ!?」

「北風と太陽の話だけど?」

「最後うさぎとかめになってたじゃねーか!」

「つまり僕が言いたいのは『みんなで練習頑張ろう!』ってことだよ」

「脱線しまくった割にはえれーシンプルな答えだな、おい」

「『みんなで練習頑張ろう』……ねぇ」

 溝野がぽつりとつぶやき、そして続ける。

「おめーらはまぁいいとして……他のやる気のねぇ部員共は、果たして頑張ってくれるのかねぇ?」

「そ、それは……」

 そう言って口ごもる健太とは対照的に、祐人ははっきりとした口調で答える。

「やる気はありまぁす!」

「STAP細胞みたいに言うな!」

「ほーん、何でそう言えんだよ?」

「だってこんなにもやる気に満ち溢れてるから! やる気モリモリ!」

「それはおめーの話だろうーがよ!」

 健太だけでは飽き足らず、ついに溝野からもツッコミを引き出した祐人だった。

「でも実際、他のみんなもやる気はあると思うよ?」

「……どうしてそう思うんだ?」

 今度は健太が尋ねる。

「だってさ、みんな部活には毎日来てるわけじゃん? まぁ、確かに練習態度は真面目とは言えないかもしれないけど……でも本当にやる気がないんだったら、毎日練習になんか来ないと思う。だからそのやる気をもう少し引き出せれば、みんな真面目に練習に取り組むようになるんじゃないかなぁ」

「やる気を引き出しって言ってもなぁ……それができれば苦労しねーよ……」

「ふっふっふ……」

 健太のぼやきに祐人は不敵に笑う。

「何だその笑いは? 妙に自信ありげだな。何かいい考えでもあるのか?」

「ない」

「ねーのかよ!」

 今日もまたミゾノスポーツには、健太のツッコミの声が響くのだった。

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