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第13話 とある昼休み

バトル回からの日常回

そして1話からずっと段落の先頭字下げをしてなかったことが判明(直した)

 学校の教室で生徒たちが静かに授業を受けている。聞こえるのは教壇に立つ教師の話す声と、生徒たちがペンを走らせる音だけだ。やがて鳴り響くチャイムの音。四時間目の授業の終わりと、昼休みの始まりを告げる音に生徒たちは解放感に包まれ、さっきまで静かだった教室はたちまち賑やかさを取り戻した。

「日直の人は昼休み中に黒板を綺麗にしておいてくださいね」

「ようやく昼休みだな。一緒に弁当食おうぜ」

 担任の桐原が柔らかな口調で日直に指示を出すのと同時に、振り返った健太が祐人に言う。

「それと五十嵐さんは職員室まで来てください」

 健太に返事をしようと思った矢先、桐原はそう言い残して教室を去って行った。

「イガ、何やったんだよお前」

「えー? 何もやってないよー?」

 健太の問いに祐人は気の抜けた返事をする。

「でも職員室に来いって言ってたぞ、香ちゃん。何かやらかしたんだろ?」

「そう言われても特に心当たりがないんだけど……あっ、もしかしてアレかな。昨日の夕飯前にポテチ食べちゃったことかな」

「んなわけねーだろ。何で学校がお前の食生活把握してんだよ」

「うーん……そうなるともう何も思い当たらないな。大体、怒られるようなことをするはずないじゃないか。正義と秩序を愛するこの僕が」

「じゃあ、なんで呼び出しなんか食らったんだよ」

「むしろ……逆なんじゃないかと」

 そう尋ねる健太に祐人は真剣な顔で答える。

「逆?」

「呼び出しを食らったからといって、怒られるとは限らない。むしろその逆で、褒めるために呼び出されたという線は考えられないだろうか?」

「仮にそうだったとして、何か褒められるようなことしたのか?」

「転んでも泣かなかったとか」

「子供か!」

「お腹いっぱいで苦しかったけど、残さずちゃんと全部食べた」

「だから子供か!」

「でも、めちゃくちゃ頑張って完食したんだよ?」

「ポテチ食うからだよ! 高2が夕飯完食したぐらいで褒められるわけねーだろ!」

「いや、完食したのはポテチの方」

「ポテチの方かよ!」

「夕飯はちょっと残しちゃった☆」

「結局残してんじゃねーか!」

「でも残した分のおかずは朝ご飯として美味しくいただいたわけだから、フードロスの削減に貢献したという点を考えれば……」

「……何でもいいから、早く行ったら?」

「……ふふっ」

 二人のやり取りを聞いていた育美が呆れたように口を挟む。その後ろの席では、早織が楽しそうに笑みを浮かべていた。


「失礼しまーす」

 祐人はドアをノックすると職員室へと足を踏み入れた。きょろきよろと室内を見渡していると、祐人に気付いた桐原が手を挙げてこちらに手招きするのが見えた。

「すみませんね。わざわざお昼休みに呼び出してしまって。どうぞこちらへ」

 自分の席へとやって来た祐人に桐原は労いの言葉をかけると、用意してあったパイプ椅子に座るように促した。

「いえ、大丈夫です! それで……何の用事ですか?」

 若干緊張気味に尋ねる祐人に対して、桐原は柔和な笑顔を浮かべて答える。

「学校にはもう慣れましたか?」

「おかげさまでもうすっかり慣れました。毎日楽しいです」

「それは良かった。五十嵐さんのことは皆から色々と聞いていますよ? 愉快な人だって」

「えっ、そんなに噂になってます? いやー、照れるなー」

「ふふふ」

 祐人の反応に桐原はにこやかに笑うと、さらに続ける。

「何か悩みや困っていることはありませんか?」

「うーん、特にはないですね」

「それでは何か変わったことや、体調の変化などはありますか?」

 その質問に祐人は、ここ最近の出来事を思い返した。黒い霧との遭遇、霧人の襲来、生徒会の秘密、霧人との戦いで危うく死にかけたこと……。ここ最近の彼の日常は一転して非日常へと変貌を遂げていたわけだが、それは黙っておくことにした。話がややこしくなるだけだ。第一、こんな話をしたところで信じてもらえないだろう。

「変わったこと……も特にないですね。体調もすこぶる元気ですよ。もう元気すぎて困るぐらい」

「そうですか。環境の変化は体調を崩す原因になることが多いので心配していたのですが、問題はないみたいですね」

「まぁ、実際は元気すぎて困ることは特にないですけど。……もしかしてそれを聞くためにわざわざ?」

「えぇ、五十嵐さんがこの学校に来て一か月になるので、状況を聞きたいと思いまして」

「なーんだ、そうだったんですね! 鈴木くんが不吉なことを言うから、もしかしたら怒られるんじゃないかと思って心配してたんですよ。僕は逆に褒められるんじゃないかって主張したんですけど、『そんなわけねーだろ』の一点張りで。それで二人であーだこーだ言ってたら、田中さんに『早く行け』って言われて……」

 安心した祐人はすっかりいつもの調子を取り戻し、ペラペラと喋り出す。

「その様子だとクラスの皆とも仲良くできているみたいですね。あ、そういえば生徒会に入ったそうですね」

「あれ、もう知ってるんですか? 先生にはまだ言ってなかったはずだけど……」

「生徒の皆さんのことは常に把握するように心がけているんですよ」

 祐人がふと口にした疑問に答えると、桐原は話を続ける。

「確か広瀬さんも生徒会に所属していましたね。どうですか? クラス外での彼女の様子は?」

「うーん……教室にいる時とそんなには変わらない気もするけど……あ、でも最近は少しずつ打ち解けてきた気がします。僕の話に笑ってくれるようになったし。クラスでも鈴木くんや田中さんとも、ちょいちょい話してるみたいだし」

「そうですか。それを聞いて安心しました。広瀬さんのことは少し心配していたのですが、そういうことなら大丈夫そうですね。これからも彼女とは仲良くしてあげてくださいね。それではこの辺で終わりにしましょうか。もし何かあったら一人で悩まずに相談してくださいね」

 桐原はそう言って話を切り上げた。彼女の柔らかな笑顔に見送られ、祐人は職員室を後にした。


「お、帰って来たな。何の話だったんだ?」

 教室に戻って来た祐人に、健太は尋ねる。

「別に大した話じゃなかったよ。『学校には慣れましたか?』とか『体調はどうですか?』とか『悩みや困ってることは?』とか『残さず夕飯食べて偉いですね』とか」

「最後、嘘混じってない?」

「まだそのネタ引っ張んのかよ」

 健太と育美のツッコミを半ばスルーし、祐人は話を続ける。

「いやー、それにしても色々と気にかけてくれていい先生だよねー」

「まぁ、それには同意する」

「教え方も上手いしな」

「だよねー。そうそう、広瀬さんのことも気にかけてくれてたよ」

「私のことを……?」

「うん。だから『みんな仲良くやってます』的な感じで答えといた」

「そうなんだ……先生が私を……」

 祐人の言葉を聞いた早織は嬉しそうな様子だったが、少し戸惑っているようにも見えた。

「まっ、とりあえず弁当食おうぜ」

「えっ、わざわざ待っててくれたの?」

「まぁな」

「こ、心の友よ……」

「ジャイアンか。で、食いながらでいいんだが、ちょっと聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」

「お前、中学の時は野球部って言ってたよな?」

「うん、言った」

「ポジションは?」

「ベンチウォーマー」

「補欠じゃねーか!」

「恐怖のムードメーカーとして恐れられたもんよ」

「トラブルメーカーじゃなくて?」

「な、なんてこと言うんだ真顔で! 言われたことないよ、そんなの!」

 育美の発言に祐人はつっこむ。

「あはは、ごめんごめん」

「たまにしか!」

「たまに言われてんじゃねーか!」

 そして祐人のボケに健太がつっこんだ。健太はさらに尋ねる。

「……ったく。そもそも何でムードメーカーが恐れられるんだよ」

「僕の応援によってチームにバフがかかるからね。例えるならキュアエールの…」

「試合に出たことは?」

 祐人のボケを無視し、健太は質問を続ける。

「そりゃもちろんあるよ」

「そん時はどこ守ってたんだ?」

「どこだと思う?」

「合コンか。いいからはよ言え」

「そうだ……僕がキラだ」

「は?」

「だからライト」

「やかましいわ! すっと言え!」

「なんでそんなこと聞くの?」

 二人のやり取りを横で話を聞いていた育美が不思議そうに尋ねる。

「ちょっとした確認だよ」

「確認って何の?」

 その言葉に今度は祐人が質問を投げた。健太は答える。

「イガ、お前に頼みたいことがあるんだ」

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