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第11話 生徒会のお仕事 ~裏~

なんとこの作品にはバトル要素もあった!

「こ、この感じは……!」

 不穏な気配を感じ取った祐人は思わず声を上げた。じっとりとした湿り気を帯びた不快感を抱く嫌な風。この感じは昨日、一昨日も

 果たして彼の予感通り風は黒い霧を運び、瞬く間に彼らの周囲は暗闇に覆われた。

「……出たな。いきなり姿を現すとは、やはり君は災いを引き寄せる何かを持っているようだな」

「五十嵐くんは危ないから下がってて!」

「わ、分かった! ところでどうするんですか……? 囲まれちゃってますよ!?」

「この程度なら二人でも問題ない」

 青空がそう言い終えると驚くべきことに、突如として彼の体が光り出した。青空だけではない。何と早織の体も発光を始めたのだ。

「え!? 何か二人とも光って……うわっ!」

 異常事態に祐人が驚きの声を上げると、二人の体はひときわ強く輝いた。あまりの眩さに祐人は思わず手で顔を覆う。

「……えっ!?」

 再び目を開けた祐人はさらに驚愕した。いつの間にか青空と早織の姿が大きく変貌していたからだ。

 二人はいつの間にか今まで着ていた制服姿から、ぴったりとした黒いボディスーツに甲冑を組み合わせたような不思議な格好になっていた。さらに青空は巨大な斧を、早織は槍らしき武器を手にしている。そんなもの今までどこにも持っていなかったのに。

「へ、変身した!?  ど、どうしたんですかその恰好は!?」

「広瀬君! 後ろを頼む!」

「はいっ!」

 驚く祐人を尻目に青空は手にした斧を振り上げ、前方の黒い霧に向かって一気に振り下ろす。それに合わせるように早織は後方の黒い霧に向かって、真一文字に槍を薙ぎ払った。それぞれの一撃を受けて真っ二つに切り裂かれた黒い霧は、まるで逃げるかのように散り散りになっていく。

 霧はどうやら一か所に集まっているようだった。祐人にとっては既に何回か見た光景だ。例の"霧人"だ。「また人の姿になるのだろう」と祐人は思った。しかし今回は何かが違う。黒い霧は徐々に集まり、次第にその黒さを増していく。人の姿を形作るには十分な大きさに達したにも関わらず、霧はどんどんと広がり続けていく。

(これは……)

 事態を眺めていた祐人は気付く。集まった霧はいびつな楕円型の球状となっていることに。それはさながら、そびえ立つ巨大な黒い卵のようだった。

(これだけでっかい卵があったら、目玉焼き食べ放題だな)

 そんなのん気なことを考えている間にも黒い卵は拡大を続け、見上げるまでの大きさに成長を遂げた。その時、ゆらゆらと揺らめいていた卵が突如として激しく動き始めた。それは胎動だった。鳥の雛が殻を破りこの世界に生まれ出るように、この黒い卵からも何かが生まれようとしている。しかしそれは生命の誕生と呼ぶにはあまりに禍々しかった。祐人は叫ぶ。

「な、何だ!? あの超巨大生物は!?」

 霧が作った黒い卵から姿を現したのは、蜘蛛とも蟹ともつかない八本脚の巨大な異形の怪物だった。一体、何メートルぐらいの大きさだろうか。何が起きているのかは分からないが、異常事態であるということだけは分かる。

「説明は後だ!」

「五十嵐くんは危ないから下がってて!」

 二人はそれぞれ手にした武器を異形に向けながら叫んだ。

「ま、まさかあれと戦うんですか!? 無茶ですよ!」

「問題ない。僕らには戦うための力がある。それにこれが僕らの仕事だからな」

「で、でもたった二人であんなのと戦うなんて……!」

「大丈夫だ。もう()()はしてある」

 その刹那、後方から何かが飛んで来た。飛んで来た何かは異形の脚を貫いた。驚いた祐人が振り返ると、遠くに人の姿が見えた。さらにもう一つ、赤い影が猛烈な勢いでこちらへと向かって来る。

(て、敵襲!? いや、違う! あれは……!)

 一瞬、新たな敵の襲来かと身構えた祐人だったが、すぐにそうではないことを理解した。遠くに見えた二つの人影の正体は、別行動を取っていた心と凪雲だった。二人もまた青空や早織と同様に、黒いボディスーツと甲冑を合わせたような姿をしており、手には武器を構えている。凪雲は弓、心は剣のようだった。

 四人は皆同じ格好をしているが、甲冑部分だけがそれぞれ異なる色をしていた。青空は青、早織は緑、心は赤、凪雲は黄色だ。祐人がこちらに向かって来る心を、赤い影と認識したのはそのためだ。

 さらに凪雲は第二射を放つと、矢は先程とは別の脚を貫いた。青空と早織の二名はそれに呼応するように左右に分かれると、それぞれ手にした斧と槍で次々と残りの脚を切り落としていく。機動力を失った怪物は逃げることも身を隠すこともできずに、ただその場でもがくことしかできない。

 すると目にも止まらぬ速さでこちらに向かっていた赤い影が突如として視界から消えた。いや、違う。消えたのではない。

「と、跳んだ!」

 祐人は驚きの声を上げる。そう、跳んだのだ。怪物の体高を遥かに超える凄まじい跳躍。移動速度といい、この跳躍力といい、常識では考えられない人間離れした身体能力だ。

 天高く舞い上がった心は重力に従って落下を始めた。目標地点に着地した彼女は落下の勢いを利用して深々と剣を突き立てると、そのまま一気に怪物の体を切り裂いた。その瞬間、大量の黒い霧が立ち上ったかと思うとすぐさま消えた。さらに不可解なことに、切ったはずの死骸までもが跡形もなく消滅していた。まるで怪物など最初から存在していなかったのように。

「き、消えた!」

「そう慌てなくても大丈夫だよ。もう済んだから」

 驚きの声を上げてきょろきょろと辺りを見渡す祐人に青空は穏やかな口調で声をかけ、説明を始める。

「あれも霧人と同じ神の災いの一つなんだ。つまりは僕らが戦うべき相手というわけさ」

「……うーん」

 青空の説明に祐人は釈然としない様子で唸る。

「腑に落ちないみたいだね」

「この島の不思議現象には慣れたつもりだったんですけど、さすがにあんな怪物が出るとは予想だにしてなかったもんで……っていうか、それよりも……」

 確かにあの怪物のことも気がかりだったが、祐人にはそれ以上に気になっていることがあった。

「……その恰好は何ですか?」

 そこで祐人は先程からずっと抱いていた率直な疑問をぶつけた。彼ら四人は一様に同じ服装をしている。その上、さっきまでは持っていなかった武器まで携帯している。その姿は何なのか? 制服はどうしたのか? 武器はどこから持ってきたのか? 祐人の頭には聞きたいことが山積していた。

「これは戦闘用の強化スーツさ」

「き、強化スーツ?」

 日常生活ではおおよそ聞かない言葉に、祐人は思わず面食らった。

「見ての通り防具としてはもちろん、身体能力の向上や精神の安定といった効果もあるんだ」

「じゃあ、その武器も?」

「これも災いと戦うために作られた特注品さ」

「へー、それも神の恵みってやつですか?」

「いや……これらは戦闘のサポートとして開発された単なる道具だよ」

「神関係ないの!? 『開発された』ってことは、つまり科学技術ってことですか?」

「まぁ、そういうことになるかな」

「一瞬で姿が変わったり、いつの間にか武器を持ってたのも……?」

「それも科学技術だね」

「かがくのちからってすげー! 現代の科学技術をかなり超越してる気もするけど! なら、それを着れば僕もあんな風に動けるようになるんですか?」

「うーん……それは難しいと思うよ」

 祐人の質問に青空は難色を示すと、さらに続ける。

「昨日も話した通り、僕らは霧人と戦うためにそれぞれ特別な力を持って生まれてきた。それには身体能力も含まれる。たとえ天衣で底上げしたとしても、僕らのように戦うことはできないだろう」

「そうなんですか……僕もあんな風に高く跳べると思ったんだけどなぁ」

「心の能力は僕らの中でも一番戦闘向きだからね」

「具体的にはどんな能力なんですか?」

「そうだね、具体的に言うと……」

「あんまりペラペラと人の秘密を話さないで欲しいんだけど? 特にそいつには」

 青空の話を遮るように、一仕事を終えた心が口を挟む。その口振りには祐人に対する敵意がありありと感じられた。

「まだそんなことを言ってるのか? どうしてそう意固地なんだ?」

「さっきも言ったはずよ。あたしはこいつを認めないし、仲良くするつもりもないって」

「心!」

「いやー、しかしあれですね。変身して戦うなんてまるでプリキュアみたいですね」

「少しは意に介せよ! あたしはあんたのそういう軽薄なところが……!」

「副会長! 後ろっ!」

 心がツッコミを入れていると、早織が甲高い声を上げた。その隣にいる凪雲も口をぱくぱくとさせて、必死に何かを伝えようとしている。心が振り返ると、そこには人の形をした黒い霧がゆらゆらと佇んでいた。

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