ヨモツの鍛冶屋開店!!
我の名は狼牙、魔刀衆の壱刀・魔爪の狼牙である。
此度は、八咫も佐助もいないため、我が事のあらわしを話す。
以前、佐助と八咫は魔王様直々に魔族の一員にならないかと誘われ、二人はそれを快く受けた。
そして、魔刀衆の伍刀と陸刀に任命され、名実ともに、二人は魔族の一員となった。
そこから、二人は魔刀衆以外の仕事を任命され、八咫は鍛冶屋、佐助は配達屋を任された。
現在二人は、魔王様に連れられ、作業場に連れられているところだ。
なお、我は、王国近辺の見張りを任されている。
「着いたぞ、ここが八咫鋼の工房じゃ。」
「ここが…僕の工房…」
外観は年季の入った工房だった、だがここは魔王城からも近いし、年季が入っているとはいえ鍛冶をする上で必要な設備は整っている、選り好みはしていられない。
「すでに伝報係にこの工房の開店を知らせるように言っておる、やがてすぐに仕事が来るじゃろう…」
「なら、来る前に掃除をしなきゃですね…」
「うむ、頼んだぞ、そして佐助の配達拠点はここじゃ。」
そういって朧様が指さしたのはまさかの隣の建物だった…
「隣ですか…」
「当然じゃ、このヨモツは広い、故に魔王城近くまで足を運びに来る者は多くないんじゃ、依頼は伝書鳥で数分とかからず来るが配達はそうもいかん、そこで主の出番じゃ。」
「ですが、私はここにきてまだ日が浅いですし、地形なんてわかりませんよ?」
「安心せい、そこもしっかり対策しておる…」パチン
「お呼びで、魔王様…」
「え、白狼!?」
「って、佐助に八咫!?なんでここに…」
「配達は白狼と共にすればよい、白狼は国の内部の警備しておるからの、地形などは完全に把握しておる。」
「ですが魔王様、それでは内部の警備が…」
「その仕事より配達業務の方が重要じゃ、それに狼牙がおれば侵入はされぬじゃろ、仮に侵入されたとしても奴の鼻であればすぐに感ずく、そうじゃろ。」
「はい、おっしゃる通りです。」
「よく王国の外周付近に住んで居る者から荷物が届くのが遅いという伝報が届いていての、何とか答えてやりたいと考えていた時に佐助が来たのでの、ちょうど良いと思ったんじゃ、それに主は以前人間たちに捕らわれてしまっておったろ?主ほどの者を失いたくはない、引き受けてくれるか?」
「御意。」
「よし、では3人のこれからの活躍に期待しているぞ。」
「「「はっ!!」」」
「以上だ、仕事にかかれ!!」
「「「はっ!!」」」
朧様はそう言うと魔王城に去っていった。
「そういうわけでこれからよろしくね!!二人とも!!」
「あぁ、よろしく。」
「こちらこそよろしく、白狼。」
「さて、まずは工房の片づけをしなきゃね。」
「にしても、かなり年季が入ってんな…あちこち埃まみれだ。」
「ハウスダスト持ちだったら死んでたね…」
「ハウスダスト?何それ?」
「俺たちが前いた世界での一種の拒絶反応みたいなもんだ。」
「症状が悪化すると呼吸困難を引き起こすこともあるんだ。」
「ふーん、二人はその症状はないんだ。」
「そうだな、ある程度なら問題はない。」
「僕も全然問題ないね、って話が脱線したね、仕事にかかろう。」
そういって僕達は掃除を始めた。
かなり年季が入っているが使えそうな物や修復不可能な物に分け、埃を飛ばし、修復不可能な物とまとめて潰して燃やした。
その後はひび割れていた壁を修復したり、設備を点検したりした。
「ふぅ、これで掃除は終わったね。」
「ありがとう二人とも、おかげで予定より早く終わったよ。」
「いいってことよ。」
「あ、そうだ!!手伝ったお礼として私と佐助に何か作ってよ!!」
「お、良いねそれ。」
「はいはい、まぁ作るといっても武器だけど、何造ってほしいの?」
「そうだな~、俺は短刀かな、前に八咫に作ってもらったやつが結構使いやすかったから。」
「あれナイフだけどね、わかった、白狼は?」
「私は二刀流だから打刀と脇差を一振りずつ!!」
「了解、重さとか能力とかの要望はある?」
「特にないけど、付けられるなら適当につけて。」
「俺は風を付けてほしいかな、裂風なんて大層な二つ名もらっちゃったし…」
「了解…さてと、始めようか…」
(武具錬成・使用申請を確認…承認しました。)
(連続で造る、一つ目の形状は短刀、切れ味は竜の鱗を易々と斬り裂けるくらいで硬度はそれよりも強力に、刀身に風を纏う魔術と刀を振った先に風の刃を飛ばす魔術を付与…)
(風を纏う魔術は納刀し、再び抜刀すると纏うように設定いたしますか?)
(頼む…)
(御意…続いて錬成する武具を…)
(二つ目の形状は刀、刀身の長さは打刀、切れ味は龍の鱗を易々と斬り裂けるくらい、硬度は龍の鱗と同等、刀身に冷気を纏う魔術を付与、冷気の温度は最大で絶対零度まで…)
(御意、こちらも纏わせる魔術は納刀~抜刀という形でよろしいですか?)
(お願い…)
(御意…続いて錬成する武具を…)
(最後の物の形状も刀、刀身の長さは脇差、切れ味や硬度はさっきのと一緒、刀身に切っ先を向けた先に水を放出する魔術を付与…)
(御意…それでは錬成開始します…完了しました…現像します…)
(ありがとう…)
(これが私の仕事ですので…では…)
「出来たぞ、切れ味とか硬度はこっちで勝手に決めた。」
「お~出来たか、どれどれ~」
「佐助のは納刀した後に抜刀すると風を纏うようにしてある、あと風の斬撃を飛ばせるようにしてある。」
「おぉ!!裂風の名に相応しい短刀だね!!しかも短刀の弱点もカバーされてる!!」
「試し斬りしたいとこだけど…ここじゃああれか…」
「じゃあぴったりの場所があるよ!!」
「その前に次は白狼の刀だ、打刀の方は冷気を纏って、脇差の方は切っ先から水を出せるようにしてある、冷気の纏い方は佐助の奴と一緒。」
「おぉ!!かっこいいし凄く綺麗!!しかも水と冷気っていう能力の組み合わせも完璧!!」
「気に入ってもらえたみたいでよかったよ。」
「そういえばこれに名前って付けてるのか?」
「名前?つけてないけど…」
「せっかくだからつけてあげなよ、製作者が。」
「名前か…うーん…」
佐助の短刀は、風と佐助のような忍びの名前を混ぜた感じの名前にしたい、風…嵐…嵐刀…風魔
「佐助の短刀は、嵐刀・風魔。」
「嵐刀・風魔…かっこいいな!!」
「私のは私のは?」
白狼の二刀は、狼双の白狼だから二刀一対の名前にしたい、狼…顎…氷…水…白刀…氷顎…水顎
「打刀が白刀・氷顎、脇差が白刀・水顎。」
「氷顎と水顎…いいね!!」
「八咫って名づけるセンスあるよな。」
「そうかなぁ。」
三人でそんなことを話していると…
「あのぉ…」
初めてのお客だろうか。
「いらっしゃいませ、どうしました?」
「あぁはい、家で使っている包丁が切れなくなってしまって…」
「なるほど、その包丁は?」
「こちらです…」
魔族のお客様が持ち出した包丁は何度も何度も研がれた形跡が見えた。(神眼使用)
「かなり年季が入っていますね、大切な物なんですか?」
「はい、亡くなった父の形見なんです。」
「そうなんですね、わかりました、切れ味だけ修繕いたしましょう。」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
「そんなことできるの~?」
「やったことはないけど可能性は見えてる、じゃあ始めるよ…」
(武具錬成・使用申請を確認…承認しました…)
(目の前にある包丁を修繕する事ってできる?)
(可能です、防腐の魔術も施しますか?)
(そうだね…有難迷惑かもしれないけど、亡くなったお父さんとの思い出が錆びて消えてしまうよりかは…)
(御意…修繕及び付与を始めます…完了しました…)
(ありがとう…)
(礼には及びません…それでは…)
「出来ました。」
「えぇ!?もうですか!?」
「はい、切れ味だけの修繕なので…」
「疑っているのであればこちらを切ってみますか?かぼちゃ。」
「こっちにもかぼちゃってあるんだね。」
「それだけじゃなくて、魚とか調味料とかも俺たちが知っている物ばかりだったぞ。」
「わかりました、切ってみます、ちょうど今日煮物にしようと思ってたので…」
そういうと魔族のお客様は、かぼちゃを切り出した。
包丁の刃はかぼちゃの固い皮を軽々両断した。
「なにこの切れ味!?かぼちゃを切るのに全く抵抗を感じない!?まるで豆腐でも切っているみたい!!」
「豆腐もあるんだね…」
「こんな切れ味が良くなるなんて…ありがとうございます!!」
「いえいえ、うまくいってよかったです。」
「それで、おいくらになりますか?」
「あ、そういえば全く決めてなかった…ていうかここの通貨の価値全然わからないし…」
修繕費をいくらにしようか迷っていたところ…
「包丁の修繕でしたら3ゴールドになりますね。」
「3ゴールドですか!?」
「1ゴールドでどのくらい?」
「大体1ゴールドで、一日の昼食は余裕で事足りるくらいね。」
「それを3枚!?さすがに高すぎない!?1でいいよ1で!!」
「えっと1ゴールドでいいんですか?」
「1ゴールドでいいです!!1ゴールドで!!」
「あぁハイ、じゃあこれで…」
「はい、1ゴールドしっかり受け取りました。」
「ありがとうございました、このお店のことは周りの方々にも宣伝しておきますね。」
「ありがとうございます、伝書鳥も受け付けているので、修繕以外にも製造もやっているのでお願いします。」
「わかりました、それでは…」
お客様は去っていった。
「初客にしては上々の売り上げね。」
「マジで3ゴールドも払わせるのかと思ってびっくりしたけどね…」
「ともかく、これから忙しくなるぞ、八咫も俺たちも。」
「そうだね。」
「そういえばお店の名前ってどうするの?無難に八咫工房?」
「そういえば名前決めてなかったな…うーん…」
八咫鋼という名前とうまく合いそう名前…錬成…付与…修繕…万工房…
「万工房かな…修繕から魔術の付与、武具の錬成を受け持つ、武具特化の万事屋、だから万工房。」
「相変わらず考えられてるな、良い名前だ。」
「ありがとう、さてと二人の刀の試し斬りと行こうか。」
「いいけど、店番どうするんだ?」
「少し席を外してるって立てとけばいいでしょ。」
「そうしようか。よいしょっと…」
(武具の試し斬りのため席を外しています…)
「よし、行こう。」
白狼に連れられ、試し斬りにうってつけの場所についた。
「ここだよ、ここは魔族軍の修練場、魔刀衆もここを自由に出入りできるの。」
「へぇ…かなり広いな。」
「すごいのは広さだけじゃないのよ?ここは幻影を操る魔術を用いてて、魔物の硬度から動きまでも完全に再現できるの!!まさに試し斬りにはうってつけでしょ?」
「確かにそうだね、それじゃあ早速始めよう、あんまりお店を開けたままにはできないし…」
「それもそうだな、よし、まずは俺からやる。」
「じゃあこの子で試してみて?」
白狼が何かを操作すると巨大な亀が出てきた。
「その子は山岳亀、まぁ見ての通り山岳のように大きい亀ね、動きは鈍いけど防御は折り紙付き、人間の大砲が直撃してもびくともしないわよ。」
「流石に硬すぎじゃ…」
「先に今の限界を知っていた方が改善のし甲斐があるってものでしょ?」
「確かに…」
「そんじゃ、遠慮なく!!」
佐助は短刀に風を纏わせた。
「どうせなら、一番防御が厚いところを!!」
「だったら、一番上から貫いてみれば~一番上が一番固いの~」
「了解!!」
そういうと、佐助は山岳亀の頂上に一瞬で飛び上がった。
「一点集束・竜槍!!」
佐助が放った一撃は、山岳亀の山岳のような甲羅を見事に貫いた。
「足痛ってぇぇぇ!!」
「大丈夫~?」
「神速で速度あげた一撃だけど下手したら骨が折れる…今度から使うときは地上で使う…」
「そうした方がいいよ、地面にヒビ入ってるし…」
「けど、威力は十分に分かった、嵐刀・風魔…最高の仕上がりだ!!」
「それはよかった。」
「じゃあ次わったし!!じゃあ私の相手はこの子!!」
白狼が操作をすると、巨大な赤い蛇が出てきた。
「なんだこのでっかい蛇?」
「この子は焔蛇、体表の温度は300℃、口から吐く息は1000℃まで達する蛇だよ。」
「水と氷を発する刀の試し斬りにはうってつけだね。」
「それじゃあ、私の新しい牙のお披露目と行こうか!!」
白狼は水顎を抜刀し、水の斬撃を飛ばした。
「斬撃!?そんな魔術付与してたか!?」
「いや、多分抜刀の動きと切っ先から水を出す魔術を同時に行うことで疑似的な斬撃を飛ばしたんだと思う。」
水の斬撃は焔蛇に当たると蒸発した。
「蒸発した!?」
「そりゃそうでしょ、体表温度300℃なら水が蒸発するには十分すぎる温度だ。」
「蒸発しても水に変わりないけどね!!」
白狼は、氷顎で蒸発した水を斬り、凍結させた。
「なるほど、蒸発させた水を氷顎で凍結させて、動きを封じたのか…」
「でも相手は温度の高い蛇、凍らせたところで…」
白狼は、焔蛇の頭の部分に飛びあがり、焔蛇は口を開け1000℃の息を吐こうとした。
「それを待ってたよ!!水顎!!」
白狼は、口に向けて水を放出し、口の中で蒸発させた。
「氷顎!!冷撃!!」
口の中に冷気を纏った斬撃を放出し、焔蛇を内部から凍らせ、砕いた。
「すっご…」
「冷気の斬撃を飛ばす魔術なんてつけてないのに…冷気を纏わせて蒸発させた水を凍らせて疑似的な斬撃を生み出すなんて…」
「ふふ~ん、私こう見えても頭は良いんだよね♪」
(そういえば、前に神眼でステータス覗いた時、知能が甲乙だったな。見た目では判断できないけど…)
「中々使いやすかったよ、ありがと!!八咫!!」
「どういたしまして。」
「そういえば、八咫は何か作らないのか?」
「そうしたいけど、早く工房に戻らないと…」
「それもそうだね、じゃあ早く戻ろうか。」
こうして佐助と白狼、八咫は、嵐刀・風魔と白刀・氷顎、白刀・水顎の試し斬りを終え、工房に戻ることにした。
「って、なにこの行列…」
「さっきの包丁の噂が広がっちゃったんだね…」
「にしたってこの量は…」
「あ!!伍刀様だ!!陸刀様と弐刀様もいるぞ!!」
「本当だ!!伍刀様!!私の包丁を修繕してください!!」
「ずるいぞ!!わしが先に並んでたんだ!!」
「いや、私の方が!!」
「いんや!!俺の方が!!」
「もみくちゃ状態ね…」
「はぁ…皆さん落ち着いてください。」
八咫の一声で皆は静止した。
「一人ずつ修繕するのは時間食うので、まとめて工房で対応します。」
「なんと!?」
「武具の事なら何でもござれの万工房、営業開始と行こうかっ!!」
「「ウォォォォォォォ!!」」
続く…
この度はオタク学生が異世界で勇者として召喚されたけど魔族達に味方します、を読んでいただきまして誠にありがとうございます。
作者の妖峰輪廻です。
本日2回目の更新になります。
今回は、第二話にて登場した気疲れ気味な頼れるお兄様、魔爪の狼牙についてお話していきます。
狼牙は、八咫君が初めてコンタクトを取る魔族ということもあり、冷静なクールキャラをイメージしておりますが、ただのクールキャラとして終わらせるのは勿体ないため、家族思い・仲間思いという属性と、面倒見がいいお兄ちゃんという属性を追加しました。
その結果、妹の白狼ちゃんや同居人の佐助君に朝から振り回されています、この描写はこれからも出していくので、ぜひ和気藹々とした家庭をご想像しながらご覧ください。
続いてなぜ狼にしたのかの理由です、狼は動物の中でも義理堅く、番になった個体は、片方が死んでしまったさい、それを追うように死んでいくそうです、そのため、最初に会う魔族としては、義理堅い方がその後の話の流れとして繋げやすいため狼にしました、あと単純に私自身が陸の生き物で狼が一番好きだからというのも理由です。
狼牙君についてはこのくらいで、これから更に気疲れしてしまいますからね。
第1話から読んでくださっている方もこの話から読んでくださった方も、ぜひこの物語の完結までお付き合いいただけると幸いです。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。