テンプレ展開を壊してみた
僕の名前は、影裏 砲真。
趣味は小説を読むことと軍事用の兵器や銃火器を見ることの、いわゆるオタクである。
ただ最近は小説を読むのが苦痛になってきている。理由としては、最近の小説はやれチート能力だのやれ追放だのとテンプレ展開が多い。初めの頃は爽快感やどんでん返しがあって楽しかったが次第にそういった展開が当たり前になってきて正直分かりきっている。
それに敵となる魔族は大半が過去について掘り下げられないし、主人公のチート能力のお披露目の為だけに敗れるやつもいる、正直もっと掘り下げてほしいし、もっと主人公が苦戦するような強敵であってもいい。そんなことを思い始めて、最近は読書を控えている。
「おはよう〜ホーマ」
ふと後ろから声が聞こえた。
声の主は、僕の幼なじみの空亡 太生だった。
太生は僕とは正反対の存在で、みんなに人気があって運動ができて成績優秀、オマケに顔が良い、非の打ち所がない完璧な男なのだ。
「朝から元気だね、太生…」
「そういうホーマは朝から元気ないな、何かあったのか?」
「別に、お前の明るさに参ってるだけ…」
「ふーん、そうか」
正直に言うと、太生の近くにいる事が苦手だ。
太生は僕とは正反対、光を浴びている人間で、僕は影に生きる人間だ。いくら幼なじみとはいえ、正直こうも住んでいる世界が違うと一緒にいていいのか疑問に思うし、何より自分が虚しくなってくる。
「そうだホーマ、今度の土曜…」ドンッ
太生が何かを言いかけた時、後ろから衝撃をくらった。
「おはよ!!太生くん!!」
「あ、おはよ…闇花さん…」
突然の衝撃の正体は峰崎闇花さん、太生の自称恋人もといストーカーで何故か僕に対して敵意をもってるらしい。
「あれ?なんか元気ないね?どうしたの?体調悪いの?それなら私が作ったお茶あげようか?」
「いや、大丈夫だよ、お気遣いありがとう、行こう砲真。」
太生も彼女に対して苦手意識があるようで度々僕と一緒に行くという名目で逃げている、だが今日はその行動が僕にとっても太生にとっても衝撃の結末を呼ぶことになってしまった。
しばらく歩いて信号待っている時…
「ごめんね砲真、毎度巻き込んじゃって…」
「別に、気にしてないよ」
太生の隣にいるのは苦手だが、太生が困っているのを黙って見過ごす訳にはいかない。
「そういえば太生さっき何を…」ドンッ
突然何か勢いよく押されて車道に出てしまった、しかもタイミングが悪いことにトラックがちょうど横切ろうとしていた、ふと後ろの方に目をやると闇花さんがいた。
「砲真!!」バッ
太生が僕を歩道に戻そうと車道に駆け出してきた、しかしもう遅い、僕と太生は今日、クラスメイトの女子に殺された。
(あ〜あ、これで僕の人生終わりか…最後太生が何言おうとしてたのかも分からずじまいだし、まだ読んでない本や実物で見てみたい銃器とかもあったのに…まあ、影に徹してた僕が光に身を置いてた太生と関わってたことの報いかな…太生にも悪いことしちゃったな…もし死後に会えるなら、ちゃんと謝って、太生の隣に立つにふさわしい男に…)
そんな後悔をばかりを冷たくなった体で考えていた、次第に瞼が重たくなっていきそのまま目を閉じた。
「………」
ふと、何かが聞こえてきた、人の声だと思うが上手く聞き取れない…
「……ぃ……」
だんだん意識がはっきりしてきた。
「成功だ!!召喚に成功したぞ!!」
目が覚めるとよく分からない場所によく分からない人達、そして近くには見慣れた幼なじみの姿があった。
「太生!!起きて太生!!」
「ん〜…あ、砲真…俺死んだのか?」
「いや、多分どっちも死んだ…」
「マジか、ここあの世か…」
「いや、あの世にしては賑やかだし、さっきなんか召喚とか言ってたし…」
「召喚とか漫画かよ、って言っても俺らは恐らく死んだっぽいし、今生きてる状況考えたらそういうことになるよな。」
太生は今の少ない情報から冷静に状況を理解した。相変わらず頭がよく回る。
「お待ちしておりました。あなた方が勇者様ですね。」
突如僕らを召喚したと思しき老人に話しかけられた。
「いや違いますけど…」
「いえ、あなた方は間違いなく勇者様です。その魔法陣から出てきたのが紛れもない証拠でございます。」
「いや急にんな事言われても…」
よくある転生系小説のテンプレ展開である、この後王様に諸々の事情を話されて、スキル調べて悪を打つ旅に出るお決まりの流れである。
「では、早速王の間に行きましょう!!」
(出た〜テンプレ展開…)
こうして半ば強制的に老人に連れられ王の間に向かう事になった。
「王よ、私はついに召喚の儀に成功しました!!ご覧下さい!!2人の勇者です!!」
「ほう、ご苦労であった。そこの2人、こちらへ…」
(この後絶対与えられたスキル見る感じだ〜…)
(よくある転生系小説のテンプレのやつだな…)
(というか太生そういう系のやつ見るんだ…)
(そりゃ俺だって見るよ、ただみんなが変に噂するから表だって見れなかっただけだよ…)
意外だった、太生はあまりそういったものに興味がないと思っていた。
「何を話している、早くこちらへ来てこの水晶に手をかざせ。」
「わかりました…」
「じゃあ俺から…」スッ
太生から水晶に手をかざした。
「えーと?"心眼"と"神速"?どおりでさっきから視界に変な表示あるなと思ったら…」
「ほぉ!!中々に強いスキルじゃの!!ではもう片方の者もかざしてみよ。」
「はぁ…あんま乗り気しないなぁ…」スッ
僕は水晶に手をかざした。
「えっと…"神眼"に"武具錬成"…太生の心眼と文字が違うけど…」
「どちらも魔族に対抗するには十分な力じゃの。」
(これで魔族共を根絶やしにし、我がこの世界を王になれるぞ!!)
突然ドス黒いオーラを孕んだ声が聞こえてきた。その時目の前に謎の表示が出てきた。
[スキル・神眼 未来視、思考加速、虚偽鑑定、ステータス閲覧、心眼、その他目に関する全ての能力を持つ能力]
[スキル・武具錬成 自身が思い浮かべた武器を現像させる能力、現存する武器や架空の武器も現像可能]
どうやらスキルの内容らしい、そして先程のドス黒い声はあの王様らしき男の本性らしい。
(砲真、この王様には…)
(大丈夫、こっちにも見えてる…)
太生にもあのドス黒い声が聞こえたということは相手の心理を読むのが心眼の効果らしい。
「さぁ勇者たちよ、その力で共に悪しき魔族共を打ち倒し、世界に平和をもたらそうぞ!!」
[スキル・虚偽鑑定の結果、先程の発言は偽りである事が発覚。]
(わかってるよ、そんなこと…)
正直心眼があるなら虚偽鑑定はいらないのではと思ってしまった。
「ちなみに聞いておきたいんだが、魔族達に与えられた被害っていうのは?」
太生が王様に尋ねた。
「奴らは国民を拉致し、人質として我々に服従を強要してきておるんだ、取り戻そうにも人質を盾にしてきての…手を出せずにおったんじゃ。」
(このような善意をくすぐるような事を言っておけば納得するじゃろ。)
どうやら向こうは心眼の能力に気がついていないようだ。何がともあれ、このまま首を縦に振るテンプレ展開ではバッドエンド間違いなしだろう…かと言って断ればそれもそれでバッドエンド間違いなし…どうしたものか…
「へぇー、じゃあ返答はちょっと考えさせてくれ。」
「何じゃと!?」
突然太生が口を開いた。
「俺たちはまだこの世界に来たばっかだ、敵を倒すにも人を救うにも、まずはこの世界を知る必要があるし、力もつけなきゃいけない。」
「そうだね、流石に実践経験ない状態で敵地に突っ込めば人質救うどころか、人質を殺されちゃう可能性もあるし…」
「うーむ…それもそうだな…わかった、しばらく返事は待つとしよう。」
太生のおかげで何とか返事は保留にできた。
「ありがとうございます。じゃあ行こう砲真。」
「うん!!」
こうして僕と太生は、異世界転生系小説にありがちな王様にいわれて魔族と戦うテンプレ設定をぶっ壊した。なお、王様の監視の兵隊付きで。
「さてと、こっからどうする?」
(とりあえず見張りを黙らせよう、僕らの行動の中であの王様の気に触れるようなことがあった時、何があるか分かったものじゃないし…)
(了解、じゃあさっそく試運転と行きますか…)ビュン
(…!!消えっ…)
「動かないで…出来るだけ手荒な真似はしたくない…」
太生は神速を使って監視の背後に回り込んだ、ちなみに先程、武具錬成でナイフを作って太生に渡しておいた。
「くそっ!!気づいていたのか貴様ら!!」
「まあね、僕のスキルであなたがくることはわかってましたから。」
「何!?未来が見えるのか!?」
「少し先しか見えないけどね、さておしゃべりはここまで…あなたにはこれからいくつか質問します、あなたはそれに"正直"にこたえてくれればいい、ただしもし嘘なら…」ピチュン!!
僕はサイレンサー付きのベレッタM92Fを想像し手元に出し、地面に威嚇射撃をした。
「あなたの命はないと思ってください。」
「くっ!!」
追手は大人しくなった。
「それじゃあ1つ目の質問です、王様はなんであなたを寄越したんですか?」
「…王は、あなた方が魔族達に亡命すると思っていると考えているからです…」
「てことは1人じゃないな見張りは、何人だ?」
「……私一人だけだ…」
心眼は反応しなかった、本当の事を言っているのか、人が"一人"だけという事か?
「じゃあ言い方を変えます、あなたの他に追手はいますか?人間以外も含めて。」
「!?」
ビンゴだ、という事は獣人か動物、あるいは捕虜として捕らえられてる魔族か…
「捕らえてる捕虜の魔族か?」
「……ああ…捕虜には服従の呪文が施されている…」
「なるほど…じゃあ次の質問です、その服従の呪文は解く事が出来ますか?」
「ああ、可能だが解呪には特殊な魔術が必要なんだ、君たちでは解呪なんて出来やしない。」
「んな事は聞いてない、できることが分かればそれ以外はどうでもいい。」
「まぁまぁ、じゃあ最後の質問です、魔族と人間の間に何があったんですか?」
正直これが一番聞きたい事だ、答えによってはこれから味方に着く方が変わる。
「…魔族とは元々友好的な関係にあったんだ、それが現在の王によって崩された、王は魔族は悪だという思想を国民に刷り込み、兵士達を魔族にぶつけ、一方的な虐殺を命じた、女子供関係なくな…更には珍しい魔族は捕らえて服従の呪文を刻み、捕虜とした!!」
「なるほどな、こりゃもう決まりでいいよな砲真…」
「うん、あの傍若無人を玉座から引きずり降ろして再び魔族と一緒に平和な世をつくる!!」
そのためには、まず魔族に僕たちがあの王とは違うことを証明しなければならない、そのために必要なのは…
「おい、今すぐここにその捕虜を連れて…」
その時、未来視が発動した、この後、操られている捕虜は、太生の心臓を後ろから高速で貫く。
「太生伏せろ!!」
僕は武具錬成で麻酔銃を思い浮かべ錬成し、予知で見た出現位置に向かって発砲した。
麻酔弾は見事に頭に命中し、操られていた捕虜は眠りについた。
「ふう、助かった~、ありがとな砲真。」
「礼には及ばないよ。それより…」ギロツ
「ま、待て!私は何も命令は出していない!全てその魔族が勝手にやったことだ!」
(ただ今の発言は偽りであります。)
「僕…言いましたよね?嘘ついたら…」スチャ…
「殺すって…」
「や、やめ…」バンッ
事情があれど、初めて人を手にかけてしまった…
「はぁ…最悪の気分だ…」
「平気か?」
「正直に言うと平気じゃない、ただこれからはこの選択をしなきゃいけない場面が多くなってくるだろうから慣れていかないと…」
「…そうだな。」
「それよりもこの子だ、眠ってはいるけど服従の呪文を解呪いない限りはずっとこの状態だし…」
「治すにしてもここじゃあな…あっちの森に行こう。」
「そうだね…って遠くない!?」
「安心しろ、俺が二人抱えて走ればいい、そうすりゃ一瞬だ。」
「そんな腕力あんの?」
「任せろ、ほらさっさと行くぞ‼」
こうして僕と太生、そして捕虜の魔族は目視で確認した遠くの森に太生に乗って向かうことになった。
続く…
この度はこの作品を読んでいただき誠にありがとうございます!!
初めまして、作者の妖峰輪廻と申します。
今作が初執筆であり、初投稿の小説のしの字も知らないド素人でございます…
この作品にも、話の流れがおかしいところや誤字などがあったかもしれません…
まだまだ小説に関してはド素人ですが、読んでくださった皆様に少しでも読んでよかった・面白かったなどの感想をいただけるような物語を書くため精進していきますので、お付き合いいただけると幸いです。