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理不尽な必然ー黄昏時と銀の鈴  作者: 中山 みどり
7/10

告白

次の日から美緒はお守りを持って登校した。黄昏時になっても信一の姿は現れなくなり、美緒も少しずつ健康を取り戻していった。

美緒は信一の事が気がかりだった。信一を突き飛ばした犯人のことをどんなふうに伝えればいいか分からなかった。一日一日と体力が回復していく一方で信一がどうなるか心配だった。

 信一と会わなくなって一週間が過ぎた頃、久し振りに放課後の部活に参加した。部活が終わった後、美緒は思い切って浩二に話しかけた。

「あの、ちょっとお話したいことがあるんです」

 山口がからかうように言った。

「お、いいなあ。岩井がんばれよ」

「何を」

 浩二がおこった口調でかえすと、

「俺、先に帰るわ」

 無神経な山口が意外なことに気を遣ったようだった。

「私も帰るね。無理しないで」

 ユリは心配そうにふり返りながら二人に手を振った。


「座ろうか」

 二人は校庭の隅の古びたベンチに腰掛けた。

――何から話せば信じてもらえるだろう。

美緒は何から話せばいいのかわからなくなっていた。

――昨日一晩十分今まで出来事を考えて整理したはずだ。

そう言い聞かせても、いざ説明しようとすると美緒は言葉に詰まった。

「信一さんの事、あの、お兄さんの事です」

「え、兄の事?僕は君の顔色が悪くなってから心配していたんだ。けれど最近よくなったようで安心していたんだ」

 岩井はユリにも美緒の様子を聞いていたらしい。自分では気をつけていたつもりだったが、信一と話している様子を見られていたこともあるようだった。誰もいないところでブツブツ話したり笑ったりしているとユリから聞いて心配していたのだ。

「この一年、信一さんは学校の周りとご自宅をぐるぐるまわっていたようです。みんな彼に気付かなくて。それで私が目にとまったようでした」

「私の前に一人だけ気が付いた子もいたけれど、怖がって話は出来なかったようです。そして転校していったらしいです」

 岩井は黙っていた。頭を垂れて両手を握り締めていた。やがて重い口を開いた。

「兄の話し相手になってくれたんですね。君が痩せて生気がなくなってきたのは気になっていた。もしかしてそれは兄のせい?兄のせいだったのですね」

 そういって浩二は視線を握り締めた手に落とした。美緒もただうつむいているしかできない。少しして呼吸を整えると、美緒は話し始めた。

「六年前私も弟を事故で亡くしたんです。信一さんと同じ交通事故だったんです」

 浩二はだまって聞いている。

「信号無視の車に引かれたんです。弟と同じで、信一さんも自分のせいで事故にあっていない」

「え、飛び出したのは兄でしょう」

「いいえ、両手で突き飛ばした人がいたって。信一さんはずっとその犯人を探して....

それでこの世に残っているんです。きっと」

「許せない」

 浩二はこぶしを握りしめた。握りしめられたこぶしが震えている。

「そう、許せない。信一さんもきっとそう思うでしょ。そうすると信一さんはどうするでしょう」

 美緒は浩二の様子を見ながら、言葉を続けた。

「信一さん、きっと、犯人を許さないと思う。そんなことになったら、ずっと怨霊、いいえ地縛霊みたいになるんじゃないかと思って」

「ああ、」

 浩二はうなだれて頭を抱えた。

「私、小さい頃、死んだ人が見えていたみたいで。記憶の片隅にその人たちの事が今でも残っているんです。どこにも行けずにずっとこの世にとどまると次第に生きていた頃の記憶がなくなって元の人じゃなくなる気がして。だから岩倉先輩に相談しようと思ったんです」

 浩二はパッと顔を上げた。

「それは犯人がわかったからなの」

「手首にホクロのある人、たぶん野田先輩です」

 突然、あたりが暗くなって急に大粒の雨が降り出した。二人はあわてて渡り廊下の屋根の下に逃げ込んだ。

 見たこともない表情の信一がいた。眉はつり上がり、目は怒りに燃えて鬼のように見える。

「美緒ちゃん、犯人が分かったんだね。なぜ僕に教えてくれないんだ」

 もう美緒の知るいつもの信一ではなかった。

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