第38話 レベルの違い
「お前たちは下がってろ。後は俺がやる」
俺は杉戸と柔剛に戦わせるつもりはなかった。だから手を出さないように釘をさしておく。
「え? そんな無茶だよ。一人じゃあんな危ないやつに勝てない」
「そうだぜ。いくら大人だからってそりゃ無茶だろ」
「ビ~!」
俺の発言に杉戸と柔剛は不満そうだった。カブトも鳴いて警告しているようだった。
「大人だからだよ。いい大人がこの場面で子どもを危険に晒すわけにはいかないだろう?」
「で、でも僕たちはステータスを持ってるんです!」
「そうだぜただの子どもじゃ――」
説明しても納得の行ってない杉戸と柔剛。だが相手はかなり気が短いようだな。話している隙に飛びかかってきてハンマーを振り下ろしてきやがった。
「お前血の気が多すぎだろう」
ハンマーは右腕で受け止めた。多少の衝撃は来たがどうということはない。
「ヘヘっ、強がってるが流石にその右腕はもう使い物にならねぇだろうが」
「なら試してみるか?」
そう言い返してから邦夫に向けて右腕でデコピンしてやった。
「ぐおッ!?」
邦夫が後ろにふっ飛ばされる。確かに短期間でレベル13は中々のもんだが俺の敵ではないな。
「な、なんだ? 今何をしたんだ!」
「デコピン」
俺は指でデコピンの素振りをしてみせた。邦夫が目を白黒させている。
「ふ、ふざけるな! この俺がデコピンなんかで軽くあしらわれるだと!」
「そう言われてもな」
大体この俺ってどこの俺だよ。そこまで特別な存在だと思いたいのか。
「お、おい。もしかしてあのおっさんスゲェのか?」
「えっと、僕もまだ良く知らないんだけど」
「そこ。誰がおっさんだ誰が」
「ビ~……」
柔剛の発言に俺はツッコミ、カブトは不満げに鳴いていた。全く。俺はこっちではまだ二十代で通じてるんだからな。
「ガキども何話してやがる!」
ハンマーが邦夫から飛んでくる。俺はそれを素手で掴み取りハンマーを邦夫に返してやった。
「おわっと!?」
反射神経でなんとか避けたようだが、やはり動きは素人だな。
「もう許さねぇ。こんなところで使うとは思わなかったけどな。奥の手だ!」
ハンマーを広い邦夫が叫ぶ。奥の手と来たか。恐らくスキルを何か使おうとしてるんだろうな。
「さぁ、恐怖しろ! スキル【狂猟血鬼】!」
邦夫がスキルを発動した。途端に空気が変わる。息遣いが荒くなり口から涎が滴り落ちていた。全身に血管が浮かび上がりドクドクと波打っており肌も赤く変色した。
「グォオオオォォッォォッォォオオオオ!」
邦夫が突っ込んできてハンマーを振り下ろしてきた。念のため避けると空を切ったハンマーが地面に振り下ろされ巨大な陥没が出来上がった。
ダンジョンも大きく揺れる。
「な、なんだよこれ嘘だろ!」
「こ、こんなの勝てるわけ無いよ……」
「ビッ、ビ~! ビ~ッ!」
流石に子どもたちも大分ビビり始めているようだな。カブトも空中を飛び回りながら危険を察したように鳴いている。
なるほどステータス的にも大分向上しているようだな。ただ、完全に理性を失っている。これはバーサクと似たような能力か。
「フゥ、フゥ。殺してやる! グァァアアァ!」
ハンマーをぶん回し俺目掛けて突っ込んでくる邦夫。狙いは頭部か。俺は振り抜かれたハンマーを首振りだけで避け反対の手で邦夫の腹に拳を叩き込む。
「グゲェエエ!?」
腹を押さえる邦夫だったがすぐに顔を上げた。そして性懲りもなく俺に向けてハンマーを振るおうとするが――残念だが無駄だ。確かにステータスは相当上がってるようだが、理性を失った分、攻撃が単調すぎる。
振りも大振りで軌道もわかりやすい。潮時だな。こっちはスキルを使うまでもない。
「少し大人しくしてろよ」
「グェッ!?」
邦夫の背後を取り首に腕を回した。ジタバタと暴れていたが構うこと無く絞め続け次第に動きが収まっていき、そして完全に落ちた。これでもう暴れることはないだろうな――




