第32話 カブトが見つけたお宝
「マジかよ。こんなゲームみたいな宝箱なんて本当にあるのかよ」
柔剛は突如見つかった宝箱に随分と興奮している様子だった。
なにせカブトが見つけた宝箱はまさにザ! 宝箱といった見た目であり、それでいてゲームやアニメでしか見ないような代物だからだ。
「ギィ!」
カブトも早く開けてみて~と言っているようであり何かを期待している様子であった。
「ちょっと待ってねカブト」
杉戸もカブトに応えるように優しく声をかけつつ、まずは周囲を警戒した。
今のところ周囲に他のカマキリはいないようだが、またいつ襲ってくるかわからないためだ。
カブトも周囲を警戒しながら飛んでいる。そして杉戸が安全を確認してから柔剛に視線を向けると彼も頷いた。
「よし、せっかくだから俺が開けるぞ……」
「うん。でも罠とかあるかもだし気をつけて」
「……いや、それってどうやって気をつけたらいいんだよ?」
「えっと……」
なんとなく杉戸が注意喚起したが現代を生きる彼らはそもそも罠に対処する機会がなく、何をどうしていいかまではわからないのである。
「とにかく――気合で乗り切るか」
しかし、あれこれ考えていても仕方ないと思ったのか柔剛は精神論で乗り切ることにした。流石まだ少年とは言え将来を期待される柔道家だけあってか肝は座っているようだった。
「どりゃぁあああぁあああぁあああ!」
裂帛の気合と共に柔剛は思いっきり高箱の蓋を開け、かと思えばすぐさま後方に回転しながら受け身を取った。それは流れるように果たされた見事な受け身だった。
「――ん?」
しかし何も起こらなかった。それはそうだ。別に宝箱の中にトラップがあるわけではないのだから。
「これ鞭が入ってるよ」
「ギィ?」
「いやお前ら、俺に警戒しろと言っておいて揃ってあっさりしてるな!」
柔剛が吠え杉戸が後頭部を描いた。
「いや、何もなかったみたいだから中身が気になっちゃって」
「全くよぉ」
ボヤきながらも気になったのか柔剛も杉戸に近寄り手に持った鞭をマジマジと見ていた。
「う~ん。もっと凄いのが入ってるかと思ったんだけど鞭が一本かよ」
「でも、宝箱に入ってたぐらいだし特別な鞭なのかも」
「ギィギィ!」
それは見た目にはただの革製の鞭のように見えた為、柔剛はガッカリしているようだったが杉戸は手にした鞭に何かを感じ取っているようだった。
不思議なことにそれはカブトも一緒のようである。ただどちらにせよ今の状況ではこの鞭がどんな代物なのかはハッキリしない。
「とにかくせっかくだから持っていこうよ。何かに使えるかもだし」
「……まさかお前、お、俺をその鞭でしばくつもりじゃないだろうな!」
「しないよそんなこと!」
柔剛が自分の肩に手を添えながら身震いした。杉戸が苦笑気味に言葉を返す。
柔剛はこれまで杉戸にしてきたことを気に病んでるようでもあった。とは言えカマキリとの共闘もあり杉戸にはもう柔剛に対してどうこうするつもりはない。
「それよりもここから出る方法を考えないと……」
「あ! そうだぜ。こんな危ないところいつまでもいられるかよ」
「でも、出口がどこかわからないもんね……」
杉戸たちは穴に落ちてここまで来てしまった。一体どこまで落ちたのか、今どのあたりにいるのかなど不明点が多い。
「とにかく慎重に先を進もうか」
「お、おう……」
「ギィ……」
こうして一行は謎の洞窟の出口を求めて再び歩き出すのだった――
◇◆◇
「ひゃははは! なんだここは最高じゃねぇか!」
一方その頃――杉戸の後を追って穴に飛び込んだ邦夫の周囲にはピクピクと痙攣する魔物の姿があった。それも息絶えると同時に粒子状になってきえさってしまう。
狂気じみた笑い声を上げる邦夫は消えた魔物を認め更に唇を歪めた。
「カカッ、またレベルとやらが上がったぜ。こんなのゲームだけのもんかと思ったが、どうやらそうじゃなかったみたいだな。全く俺にぴったりな環境だぜ」
そう言いながら邦夫はハンマーを肩に担ぎキョロキョロとあたりを見回した。
「しっかしあのガキどもどこに逃げやがった? 一緒の穴だってのにさっぱりみつからねぇ。どこに隠れてやがる」
そう独りごちつつ邦夫もまたあるき出す。もっとも彼の狙いは出口ではなく追い詰めた獲物を見つけることであったのだが――




