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第28話 危険な中学生

「邦夫! お前本当に来たのか!」

「あん? 本当にってお前が俺に教えてくれたんだろう。生意気なガキをわからせるってよ」


 邦夫が頭を掻きながら答えた。一方で阿久井からは戸惑いが感じられる。


「き、来たのはいいけどよ。お前そのシャツどうしたんだよ。それにそんなハンマー持って?」

「あぁ、こまけぇことは気にすんなって。それよりその生意気なガキってのはそこの出っ歯か?」


 邦夫が出歯口を指さして聞いた。わけもわからず勘違いされ出歯口がオロオロしている。


「違う違う! こいつは俺の従兄弟だ。俺が行ってたのはそこの眼鏡のガキだよ」

「あぁ。こいつね、とッ!」


 阿久井から話を聞くなり邦夫がハンマーを振った。不意をつかれたことで杉戸の脇腹にハンマーが直撃する。


「ぐっ!」

「ギィ!」


 ハンマーの衝撃で杉戸が飛ばされ近くの木に激突した。ペットのカブトが心配そうに鳴き声を上げる。


「よっしゃクリーンヒット!」

「は、はぁあああぁああぁああぁあああッ!?」

 

 得意満面に邦夫が叫び、阿久井が素っ頓狂な声を上げた。近くで見ていた柔剛と出歯口もあまりのことに言葉を失っている。


「お、おい何やってんだよ! いくら生意気と言っても相手はまだガキだぞ!」

「はぁ? 何言ってんだお前? しめるのにガキかどうかとか関係ねぇだろうが」

「か、関係ないってそんなので殴ったら、し、死んじまう……」

「あぁ。確かにそうかもなぁ」


 震える声の柔剛をニヤニヤと笑いながら見た後、邦夫は倒れている杉戸に近づきその頭を踏みつけた。


「ぐぁッ」

「ぎゃははは。何だまだ生きてんじゃん。いいねぇその顔。もっと見せてくれよ」

「や、やめろよ……やめてやれって……」


 弱々しい声で柔剛が言うが当然の如く無視された。


「しかしお前タフだな。それなら頭にもう一発くれてやっても大丈夫かぁ?」


 杉戸を蹴り飛ばし、邦夫がハンマーを振り上げた。脅しではないのは明白だった。邦夫は明らかに頭のネジが一本飛んでしまってるような男だ。阿久井も出歯口もそれを肌で感じとっているのだろう。


 凍りついたように動けずにいた。柔剛もまた肩が震えていたが、力の篭った目は邦夫に向けられていた。


「オラッ! もう一発――」

「やめろぉぉおおぉおおおお!」


 叫び声を上げ柔剛が飛び出した。お? と阿久井の対象が変わる。


「何だよお前も殴られたいのか? だったらやってやるよ!」


 邦夫のハンマーが柔剛に向けて振り抜かれた。ヘッドは柔剛の頭に向かっていた。直撃すればただでは済まないコース。


「カブト!」

「ギィ!」


 杉戸の声に反応してカブトが邦夫に体当りした。ハンマーはまだ柔剛に届いていない。


「ぐほっ!」


 邦夫の体がくの字に曲がりうめき声が漏れる。そしてそのまま地面に転がった。


「お、お前俺を助けてくれたのか?」

「はぁ、はぁ……君だって僕を助けてくれようとしたんだろう?」


 脇腹を押さえながら杉戸が立ち上がった。カブトが杉戸の肩に止まる。


(それにしても危なかった。ステータスがなかったら普通に死ぬだろうあんなの。なんなんだよこいつ……)


 倒れている邦夫を見ながら杉戸はそう考えていた。かなり危ないやつなのはこれまでの言動で感じ取れた。杉戸がこれまで生きてきた中で一度たりとも出会ったことのない狂気じみた男だった。


「あ~痛ぇなこのクソチビ!」


 すると邦夫が怒りの形相で立ち上がり、かと思えばその場でハンマーを振り下ろした。地面に向けて何度も何度も。


「あぁくそが! あの連中は簡単に死んだのによぉ! 何でテメェらはまだ立ってんだ!」


 絶叫する邦夫。ヒィ、と阿久井と出歯口の声が揃った。


「な、なんだよそれ、冗談じゃねぇもうつきあってらんねぇよ。に、逃げるぞ!」

「あ、待ってよ阿久井兄ちゃん!」


 脱兎のごとく逃げ出した阿久井と出歯口。それとほぼ同時に柔剛の手が杉戸の腕を引っ張った。


「俺たちも逃げるぞ!」

「あ、うん!」

「ギィ!」

「あ、待てコラ! くそバラバラに逃げやがって!」


 咄嗟の判断で杉戸を連れた柔剛は阿久井たちと別の方向に逃げた。おかげで邦夫の判断は一瞬遅れるが――


「やっぱお前らのほうが楽しめそうだなぁあああ!」

「やべぇこっち来た! 急ぐぞ杉戸!」


 杉戸が柔剛と一緒に走る。ステータスがあるとは言え武器を持った邦夫は危険と杉戸も判断していた。


 とにかく少しでも距離を離そうと脇目も振らず必死に走る二人だったが――その時、突如地面が崩れた。


「は? はぁあああぁあああ!」

「な、何でこんなところに穴ぁあああぁあ!」

「ギィ!」


 柔剛と杉戸は穴の下に真っ逆さまに落ちていった。それをカブトも追いかける。


「――あいつらこの穴に落ちたのか?」


 その後二人を追いかけてきた邦夫もぽっかりと空いた穴に気がついた。覗き込んで見るがそれなりに深そうでもある。


「――へっ。おもしれぇ。こんな穴でビビると思ったら大間違いだぜ」


 そう言ってニヤリと笑い、ハンマーを肩に担ぎながら二人を追いかけるように邦夫も穴から飛び降りたのだった――

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