第27話 魔石を探しにきただけなのに
日曜日になり杉戸は学校の裏山に来ていた。目的は久美子に上げるための魔石を探すことだった。以前は蝙蝠の魔物を倒して魔石を手に入れることが出来た。
今回も同じように倒せるとは限らないが、もし倒せればあの綺麗な石が手に入るのだ。上手く魔石を手に入れることが出来て久美子に渡せばまた喜ぶ姿が見れるかもしれない。
そう考えるとワクワクする気持ちを抑えきれなかった。
「カブトも今日は宜しくね」
「ギィ~」
肩に乗ってるカブトを指で撫でながら杉戸が話しかける。カブトは短く鳴いて答えてくれた。杉戸が得た飼育のスキルによってカブトもステータスが備わっていた。
カブトは杉戸の肩に乗れる程度の大きさのカブトムシではあるが戦闘力は杉戸より上である。そういう意味では杉戸はカブトにも期待していた。
その後、裏山の山道を歩き魔物がいないか探し回る杉戸だったが目的の魔物とは中々遭遇出来なかった。
「おかしいな……前がたまたまだったのかな?」
中々魔物が見つからないことで杉戸にも焦りが見えてきた。よくよく考えればそんなにすぐに出くわすほど魔物がウロウロしていたなら間違いなく大騒ぎになるのだが、まだまだ幼い杉戸はそこまで考えが回らなかった。
「ふぅ。少し休憩しようか」
「ギィ」
「よぉ。お前が杉戸か?」
結構歩き回ったので一旦休もうと考えていた杉戸だったが、聞き慣れない声が割り込んできた。
杉戸が顔を向けると頭を金髪に染めた男が立っていた。杉戸には見覚えのない相手だったが雰囲気的にあまり関わりたくないタイプの人間だった。
杉戸は警戒心を高め思わず後ずさった。
「おいおい、もうビビってんのか? お前らこんな弱そうな奴にやられたのかよ?」
金髪の男が誰にとも無く聞くと後ろから二人が姿を見せた。その二人は杉戸も良く知るクラスメートの出歯口と柔剛であった。
「そうなんだよ阿久井兄ちゃん。こいつ卑怯にもドーピングしてるんだ。それで生意気にも僕たちに逆らってきたんだよ」
出歯口が杉戸を指さしていった。ドーピングなどと正直何を言っているのだろうと呆れてしまう。ただ、この男を連れてきたのが出歯口と柔剛であることは間違いないようだ。
しかも出歯口からは兄ちゃんと呼ばれている。雰囲気的にも中学生程度と思われた。出歯口に兄がいるなんて話は聞いたことがないし阿久井は名前というよりは名字だ。兄ちゃんといっても実兄ではないのだろうと杉戸は考えた。
「は? ドーピング? はは、なんだそりゃ」
出歯口の話を阿久井が笑い飛ばした。まぁそれはそうだろうな、と杉戸も思った。
「いや本当なんだってば! こいつはズルしてるんだよ! そうだよね!」
「え? あ、あぁ」
出歯口は杉戸がズルしたと完全に思いこんでいるようだ。一方で柔剛はいつもとどこか様子が違った。やる気が感じられないというかあまりこの状況を好ましく思ってないようだった。
「へぇ、そうなのかい。じゃあ、折角だから試してやるか。お前、うちの舎弟を随分とかわいがってくれたようだしな」
ポキポキと拳を鳴らして阿久井が近づいてきた。だがそこで意外な人物が声を上げる。
「待ってくださいよ。やっぱりこんなのちげぇよ。確かにこいつの事は気に入らないけどよ。流石に中学生と一緒になってボコるってのはやっぱよ……」
杉戸は目が点になった。阿久井相手に止めるようなことを口にしたのはあの柔剛だったのだ。普段から散々杉戸を馬鹿にし、つい最近も無理やりカブトを奪おうとしていた。
そんな姿しか知らないからか今の台詞がとても信じられなかった。
(もしかして偽物なんじゃ……?)
そんな馬鹿げた疑いまで持ったほどだ。しかしそんな杉戸の考えなど関係なく状況は進んでいく。
「おい、てめぇ! 今更何言ってやがる! この期に及んで怖気づいたのか!」
「そ、そういうわけじゃねぇんだけど……」
阿久井に凄まれ柔剛もどこか腰が引けていた。やはり中学生相手ではいつも偉そうな柔剛でも強気には出られないようであり――パンッという打音が山に響いた。
阿久井が柔剛を殴ったのだ。
「この俺がわざわざお前らの為にこんなとこまで来てやったのに、ぬるいこと言ってんじゃねぇぞコラ」
舌を回しながら阿久井が言い放つ。ただ殴られた柔剛は呆けながらどこか意外そうな顔をしていた。
「と、いうわけでこれからお前のこと俺がボコっちゃうから宜しく」
そう言って改めて阿久井が近づいてきた。相手は中学生だ流石に分が悪いt、と思いそうなものだが、何故か杉戸の心は落ち着いていた。
(あれ? 改めて見るとそんな大したことないんじゃ?)
何故かそう感じていた。
「オラッ!」
殴りかかってくる阿久井。しかしそれをあっさりと杉戸はかわした。
「チッ、ちょこまかと!」
更に阿久井は殴り続けるが余裕綽々で避けていく。更に阿久井は蹴りも披露したがモーションが大きかった為、杉戸は避けた上で脚を引っ掛けて転ばしてしまった。
それぐらいの余裕があったのだ。
「ば、馬鹿なこんな小学生に何で……」
「だ、だから言ったでしょう! そいつドーピングしてるんですよ!」
出歯口はまだそんなことを言っていたが杉戸からみてもその理由は明白だ。何せこの阿久井という男全然大したことがない。勿論ステータスを杉戸が得ていたことも大きいが、だとしても決して強くはない。
こう言っては何だがこれなら柔剛の方がよっぽど強い。今さっきこの阿久井のパンチを受けて柔剛が意外そうな顔をしていた理由がわかった気がした。
柔剛もきっと気づいたのだ。阿久井が口だけの男だったということを。金髪に染めているのも相手を威嚇するのが目的なのだろうが中身が伴っていない。
「その、もうやめませんか? こんなことしても意味ないし」
「あん? て、テメェ何調子に乗って!」
「おっと。いたいたやっと見つけた。たく、んだよもう始めてんのかよ。約束したんだからちゃんと待っとけっての」
杉戸の言葉に立ち上がり文句を言ってきた阿久井だったが、そこにまた新たな乱入者が姿を見せた。
そして杉戸は――ギョッとした。その男の姿に。何故なら男の着ているシャツには明らかに血と思われる染みがぺったりとこびりついており手にはハンマーが握られていたからだ。
その様相からこの男は明らかに阿久井とは違う――そう本能で杉戸は感じ取っていた……。




