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第26話 邦夫

 その日、角崎(つのざき) 邦夫(くにお)は約束を守るために待ち合わせの山に向かっていた。


 話を聞いたのはつい先日のことであり、相手は金髪頭の阿久井(あくい) 有田(ありた)だった。


 有田はヤンキー気取りの同級生であり頭を染めて強い気になり粋がってるような男だった。邦夫からすればいかにも中学からヤンチャ始めました的なノリの取るに足らない存在でしかなかったが、暇つぶし程度にはなるかもしれないと思い時折つるんでいた。


 そんな邦夫が面白い話があると今回の件を持ちかけてきた。最初はどうせくだらないことだろうと思ったが、聞いてみていい暇つぶしになりそうだと邦夫は考えた。


 邦夫は二つ返事で有田に付き合うことに決めた。そしてその日邦夫は建築関係の仕事をしている家の倉庫からソレを一本引っ張り出してきて出かけた。勿論許可などとっていない。


 こうして目的地に向けて歩いていた邦夫だったが、途中で高校生と思われるグループとすれ違いその時に肩と肩がぶつかった。


「前見て歩けや! 調子こいてんじゃねぇぞ!」

 

 後ろを振り返りそう叫んだのは邦夫だった。当然高校生たちは怒りをあらわにし邦夫に詰め寄ってきた。


「やべッ!」


 邦夫はしまったという顔でそう呟き、その場から逃げ出した。高校生のグループも悪ガキといった様相の集団であり、逃げる邦夫を叫びながら追いかけてきた。


「やっと追い詰めたぞコラ!」

 

 邦夫は人目につかない路地裏で高校生たちに追い詰められていた。


「本当すんません! つい調子に乗っちゃって!」


 邦夫は地面に膝をつけ必死になって頭を下げていた。しかし、その態度が逆に相手の逆鱗に触れたらしく邦夫の胸倉をつかもうとしてきた。


 だが邦夫はニヤッとした笑みを浮かべ、

「な~んちゃって」

と口にしたかと思えば手に持っていた長物の布をめくり上げた。


 そして近づいてきた男めがけて思いっきり振り抜いたのだ。


「ぐべっ!?」


 殴られた男はそのまま傾倒し、ピクピクと痙攣したまま何も言わなくなった。近くには男のものと思われる歯が数本落ちていた。


「「「「は?」」」」


 突然の事に残りの高校生たちの頭もついていけてない様子だった。邦夫の手には一本のハンマーが握られていた。それは工事用で使われる長柄のハンマーであった。


「いやぁ良かった良かった。丁度いい相手がそっちから追いかけてきてくれて。ハンマーの殴り心地を試しておきたかったんでさぁ」


 邦夫はなんてことのないようにとんでもないことを口にした。


「な、何なんだお前は!」

 

 残った高校生の一人が邦夫に向けて叫んだ。しかしその声は震えていた。彼だけではない、残りのメンバーも全員腰が引けてしまっている。


 当然だ。邦夫はまだ中学生だが、何のためらいもなくハンマーを振り回し殴りつけるような危険な奴なのだ。いくら高校生といえどビビらずにはいられない。


「俺ですか? 俺は角崎 邦夫といいます。以後よろしくお願いしますよ。ま、すぐに死んじまいますけどね」


 そう言い終わると同時に邦夫が動いた。


「ひぃ!」


情けない声を上げつつ男が逃げ出そうとするが、

「逃がすかよ!」

と邦夫がその背中をハンマーで思い切り殴りつけた。


 背骨が折れた音がしたが全くためらうこと無く、残った連中にもハンマーを浴びせ続けた。


「あれ? おかしいな。もう動かなくなっちまった。まさか本当に死んだとか? 参ったな――」


 地面に横たわった高校生たちを見下ろしながら邦夫が頭を擦った。彼の着ていたシャツは返り血で真っ赤に染まっていた。


 とりあえず血をごまかすために高校生の上着からまだ使えそうなのを一着拝借した。


「これやっぱ捕まるかな? まぁでも俺まだ中学生だし、適当ないいわけでも考えておけばいいか」

 

 邦夫は独りごちりながらその場を離れ脚を目的地に向けた。


「まぁ、いいか。こっちのことは後で考えれば。それよりも小生意気なガキってのの殴り心地は、一体どんななのかなぁ」


 そう言ってニタニタと笑いつつ、邦夫は山に向かって歩き出した――

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[気になる点] いやもう治安が破綻してる…… 現代日本かここは?
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