第13話 飼育しますか?
「お前はいつも庇われてばかりだな」
中休みになり杉戸がトイレに行くとそこでまた柔剛と出歯口に捕まってしまった。
どうやらまだ根に持ってるようで杉戸に対する圧が強い。
「一体僕になんのようだよ……」
「本当に生意気な奴だ。お前昨日捕まえていたのカブトムシだろ? 俺によこせよ」
「い、嫌だよそんなの」
突然何を言い出すかと杉戸は困惑した。昨日見つけたカブトムシにしろ、実は何度も足繁く通った末にようやく捕まえたのだ。
それを何もしてない柔剛に渡すなどありえない。まして今回ステータスを手にしたことで飼育することも決まっている。
「こいつ生意気だぞ! 大門くんが欲しいと言ってるんだから大人しく従えばいいんだよ!」
出歯口が追従し言ってきた。あまりに理不尽な話で杉戸は呆気にとられてしまう。
「とにかく渡すなんて出来ないよ。もう僕にとって大事な友だちなんだ」
「プッ、友だちとかマジかよ。お前本当にキモいな」
杉戸の発言を柔剛と出歯口が笑い飛ばした。杉戸は信じられない思いだった。
渡すつもりなど毛頭ないが、仮にもカブトムシを寄越せと言っているのに友だち発言を笑うなんて。
「渡す気なんてないけど、もし飼うなら愛情をもって接しないと上手くいかないよ」
「何が愛情だ。カブトムシは昆虫の王者だっていうからな。俺にぴったりだから飼ってやるんだよ。下僕としてなお前と一緒だ。さっさと寄越せ」
ずいっと手のひらを出し柔剛が圧をかけてきた。そもそも今連れてきてはいないがとにかく拒否した。
「あげないよ。どうしてもというなら自分で捕まえればいいじゃないか」
「何だと!」
「でも捕まえるならしっかり責任持ってよね! 下僕だなんて言っていい加減な世話をされたらカブトムシが可哀想だから」
「この野郎!」
杉戸は昆虫に関しては譲れない物があった。だから怖くてもはっきりと言い放った。
柔剛はそれが気に食わなかったのか杉戸に掴みかかる――
(……あれ?)
その時、杉戸はある違和感を覚えた。柔道で優勝経験もある柔剛の掴みだ。普通に考えたなら杉戸に反応出来るわけがない。
だが妙に遅く感じた――これならと半身になり柔剛の掴みを避ける。
「な、てめぇ生意気だぞ!」
杉戸が避けたことで更に柔剛の機嫌を損ねたようだ。今度はより乱暴に殴るようにして杉戸に手を伸ばす。
だがそれも杉戸はサッと躱した。おかげで柔剛は思いっきり壁に手を打ち付けてしまう。
「痛ッ! て、てめ」
「ちょっと! また今中くんをイジメてるの!」
再び女の子、久美子の声が飛んできた。
「ち、畜生またおまえかよ」
「また、じゃないわよ!」
ずんずんっと近づいてきた久美子が柔剛と杉戸の間に割って入った。
「今中くんにちょっかいばかり掛けて恥ずかしくないの!」
「う、うるせぇ。勘違いすんな。俺はこいつの飼ってるカブトムシを見せろって頼んでいただけだよ」
柔剛が気まずそうに答えた。杉戸は何を言ってるんだと怪訝な顔をしている。今まで見せろではなく寄越せと要求してきていたのだからそれはそうだろう。
「カブトムシ?」
久美子が柔剛の言葉を復唱し杉戸を見た。本当なの? と聞いているようだった。
「えっと、見せろじゃなくてくれって要求されたんだけど」
「杉戸テメェ!」
「やめなって!」
杉戸が間違いを正すと柔剛がムキになって詰め寄ってきた。しかし久美子は杉戸に手は出させまいと彼をかばう。
「お前、女に守られて恥ずかしくないのかよ!」
出歯口が文句を言ってきた。そう言われると杉戸も少し引き目を感じてしまう。
「そんなの関係ないでしょう。悪いのは無茶な事を言うあんたらなんだからね」
「だ、黙れよ女の癖に!」
「キャッ!?」
柔剛が手で払うと久美子の頬に手の甲が当たってしまった。短い悲鳴をあげる久美子を杉戸が気遣う。
「大丈夫!」
「う、うん大したことないよ」
心配する杉戸に戸惑い気味に久美子が答えた。気丈に振る舞ってはいたがやはり女の子だけあって暴力には恐怖を覚えるのだろう。
「ぐ、お、お前が悪いんだからな!」
「あ、待ってくださいよ大門く~ん!」
すると鼻白んだ様子を見せ柔剛がその場から逃げ出した。出歯口も追いかけていく。手を出してしまったことで居たたまれなくなったのだろう。
「ごめんね僕のせいで……」
「も、もう今中くんが気にすることじゃないってば。悪いのはあの二人なんだし」
「でも、僕がもっとしっかりしていれば情けないよね僕」
自嘲気味に笑う杉戸。そんな杉戸の手を久美子がチュッと握りしめ思わず杉戸も赤面してしまう。
「そんな事気にしなくていいってば。喧嘩なんて強くたって何の自慢にもならないよ? それに今中くんは勉強が出来るし何より優しいじゃない」
そう久美子から長所をあげられ照れくさくなる杉戸であり。
「でも、助けてくれてありがとう。何かお礼を――あ、そうだ!」
杉戸は昨日手に入れた石をポッケにしまっていたことを思い出した。
取り出して久美子の手に乗せる。
「え? これって?」
「た、助けてもらったお礼。綺麗な石だから昨日拾ったんだけど、め、迷惑かな?」
「そんなことないよ! でも、いいの?」
「うん。喜んでくれたなら僕も嬉しいし」
「うん! すごく嬉しい! 大切にするね!」
久美子が笑顔を綻ばして喜んでくれた。無理している様子もなく照れくさいながらもすごく嬉しかった杉戸であったが、ふと久美子の頭上を見ると好感度が85と表示されていた。
(た、高い。石をあげたから?)
そんなことを思う杉戸だったが――
――好感度が条件を超えています。この久美子は飼育可能です。飼育しますか?
「しないしない! するわけない!」
「え? 何が?」
杉戸が両手をバタバタさせて脳内に聞こえたアナウンスを打ち消そうとした。
そんな様子に疑問顔の久美子であり、空気の読めないアナウンスだな! と顔を真っ赤にさせる杉戸なのだった――
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